第25区域(セクター・トゥエンティファイブ)

naomikoryo

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第7話:監視官との対話

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リオが中枢フロアにたどり着いたのは、それから15分後だった。
各階層の冷却通路を抜け、セキュリティホールをすり抜け、破損したリフトシャフトを滑り落ちた。

無数の赤外線が交差し、ドローンの光が時折壁に当たる。
それらを、かすかにずれた動きとタイミングで抜けるのは、もはや運よりも動物的な勘だった。

「……着いた、か……ここが、“心臓”」

扉の前には、厚さ数十センチの金属ゲート。
だが、ユウマが用意してくれた偽装タグが機能し、数秒後に自動的に解錠された。

開いた先には――
静けさが広がっていた。

中枢コンソール室。
第25区域のすべての命令がここから発せられている。

壁一面を覆う湾曲モニターには、施設内の監視映像、バイタルデータ、ドローンの位置、被験体の反応ログなどが絶え間なく流れている。
室内には、わずかな機械音と、光の点滅だけが存在していた。

リオは息を整えると、ポケットから制御チップを取り出した。

「これを、差し込めば……30分の自由が手に入る」

だが――

「そのチップを挿せば、君は確実に“標的”になるが、それでもいいのか?」

静かな声が、背後から届いた。

瞬間、リオは跳ねるように振り向く。
そこに立っていたのは――

監視官・エリク=ヴァレンだった。

黒のミリタリースーツ。
鋭い目元。整えられた口元。
そして、何よりも恐ろしいのは――彼がまったく“敵意”を向けていないことだった。

「……アンタ、ここにいたのかよ」

「この中枢は私の“持ち場”だ。だが、殺す気はない。安心しろ」

「……逆に怖ぇよ」

エリクはゆっくりと歩み寄り、壁際の端末に腰掛けた。

「……この場所は、本来“神”が座る椅子だ。そう設計されている。
だが、結局のところ、私たちは神にはなれなかった。なろうとしただけだ」

「アンタ……本当にこの施設の人間か?」

「そうだ。正式には、人類再選別プログラム 第7管理官 エリク=ヴァレン。
君たちを観察し、選定し、“進化”させることが私の任務だった」

リオは一歩前に出る。

「だったら聞かせろよ。これは正しいのか? 人間を選んで、他を捨てるなんてやり方が――本当に正しいのか?」

エリクは笑わなかった。
ただ、少しだけ目を細める。

「“正しさ”とは、常に勝者が定義するものだ。君が私を倒せば、君の正しさが正義になる」

「ふざけんな……! 人の命を、そんな風に……!」

「だが、それでもなお……今の人類には、選別が必要だった」

「なぜだよ!?」

エリクは、コンソールのスイッチを押し、モニターに“ある映像”を映し出す。

それは、かつての地上だった。

砂塵に覆われ、崩れた高層ビル。
放射汚染で変色した空。
ガスマスクをつけた子供が、泥の上で泣き叫ぶ。

「これは、君たちの親世代が残した“現実”だ。
第21世紀、地球は完全に終わった。人間は増えすぎ、愚かで、貪欲だった。自らの手で、住処を壊し尽くした」

映像が切り替わる。

次は、アスフェラ――空中に浮かぶ都市。

「だから我々は、空を選んだ。“選ばれた人類”のみを空へと昇らせ、
地上には、“再設計に耐えうる者”だけを残すことにした。
それがこの第25区域。君たちは、“希望の素材”だ」

「素材……!? 俺たちは人間だぞ……!!」

「違う。君たちは、未来を繋ぐための“器”だ。
中には優れた者もいた。君もそうだ。“選ばれた側”だった」

「だったら俺は選ばれたくなかった!!」

叫ぶリオを、エリクは真っ直ぐに見据える。

「……それを、ここまで来てなお言える者は、今までにいなかった」

「……アンタも、そうだったのか?」

「私も、選ばれた側だった。
だが、家族は“捨てられた”側だった。私は彼らを見殺しにし、空に昇った。
だが、それが“正しかった”と、私は思いたかった。
だからここにいる。君のような者を“選ぶ側”として、未来に責任を取る側として」

リオの胸が痛んだ。
この男もまた――過去に囚われていた。

「……だったらさ。
この先、俺が何を選ぶかを見ててくれ。
俺は、アンタらの作った未来なんかじゃなく、俺たち自身で選び取る未来を信じる」

静寂。
数秒の間。

エリクは立ち上がり、ゆっくりとリオの目の前に来た。
そして、そっと一言だけ囁く。

「ならば、君の正しさを見せてみろ――リオ=アーク」

リオは無言で、チップをコンソールに差し込んだ。

警報が鳴り響く。

《管理AIシステム・アルマ 一部機能、停止開始》
《セキュリティ・ドローン:リミット30分 制御解除》
《中枢ゲート:緊急解錠》

エリクは何もせず、ただその場に立ち尽くしていた。
そして呟くように言った。

「次に会う時……私は君の“味方”であるとは限らない。だが、“敵”でもない」

「……十分だよ」

リオは、走り出す。

仲間を救うために。
自分自身を証明するために。
過去に、未来に、名前を刻むために。
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