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第9話:逃亡と犠牲
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射出ポッドが発射された瞬間、世界が裏返ったような感覚に襲われた。
重力が斜めにねじれ、音が鼓膜の奥で爆ぜる。
加速装置の振動が骨に伝わり、視界は白く霞んでいた。
「ッ……くそ、どこまで飛ぶんだよ……!」
口の中に血の味がした。
身体が、壊れかけている。
けれど――それでも生きている。
「セラ……! 無事か……?」
ポッドの内部、リオは隣に倒れていたセラに手を伸ばした。
「セラ、おい……ッ!」
彼女の肩に触れると、微かに呻き声が漏れた。
「……うるさい、叫ぶな、頭が割れそう……」
「……無事で……よかった……!」
セラの左腕は、肘から先が焼け落ちた状態だった。
金属片が刺さり、皮膚は黒く炭化している。
「こんなんで“無事”って言われる筋合いは……ないわよ」
「……だとしても、俺はそう思ったんだ。だからいいんだよ」
二人の言葉を遮るように、ポッドの外壁がガンッと何かに接触した。
減速装置が作動し、吐き気を伴う衝撃が体を貫く。
《到達座標:C-13 地表出口ゾーン》
《エアロック、解放》
外気が一気に流れ込む。
それは“空気”のはずだったが――乾ききっていて、どこか人工的な匂いがした。
扉が開く。
リオは、セラの身体を抱えながら外へ出る。
そこには――
荒れ果てた大地。
崩壊した都市構造物。
空は灰色のフィルターに覆われ、太陽の位置すら見えない。
「これが……外、なのか……?」
(違う……これは、“もう一つの檻”だ)
目の前に広がる光景に、リオは深い喪失感を覚えた。
人工太陽の光すら届かず、植物は枯れ、コンクリートはひび割れ、空気には細かな粒子が舞っていた。
セラが、かすれた声で言う。
「……ここは……どこなの……?」
「座標で言えば、旧都市の南外郭区域……多分、かつての“首都”だ。
けど、もう何も残ってない。まるで、ゴーストタウンだ」
二人は、ポッドから降り、近くの瓦礫に囲まれた廃ビルに身を隠した。
セラの腕を応急処置しながら、リオは改めて彼女の目を見た。
「……セラ、お前は、今も……俺を許してないか?」
彼女は何も言わなかった。
ただ、じっとリオを見つめ――そして、目を閉じた。
「許すとか、そういう問題じゃない。
でも……“あんたが自分を許してない”ことは、伝わった」
リオの手が、わずかに震えた。
「ありがとう。……それでも、まだ……俺は贖罪が終わったなんて思ってない」
「当然でしょ。これからでしょ。
“外”っていうのは、地獄でもあり、はじまりでもある」
しばらくして、彼らはビルの屋上へ登った。
遠くに、空に浮かぶ巨大な影が見えた。
それは、空中都市《アスフェラ》――
地上を捨てた“選ばれた人間たち”が暮らす、空の要塞だった。
セラが、震える声で言った。
「ねえ、リオ……もし、あそこに“真実”があったとしたら……私たちはどうする?」
「選ぶさ。今度は、俺たちが。
誰かに選ばれるんじゃなくて、誰かを犠牲にするんじゃなくて、
“自分たちで、選び取る”」
そのとき、リオの通信端末が、かすかに反応した。
《……RX-05-13……応答セヨ……》
《セキュリティ・シグナル……確認》
《“25”ヨリ、通信――》
「……“25”……!」
リオは端末を手に取り、息をのむ。
《キミの“選択”は、まだ終わっていない。
空が偽物なら、地上もまた、選別の檻に過ぎない。
来い、リオ=アーク。“真意”を知るために》
リオは、セラと顔を見合わせた。
「まだ……続くってことか」
「うん。地上に出ただけじゃ終わらない。
でも、もう“何も知らない子ども”じゃないわ、あんたも」
リオはゆっくりと立ち上がり、目の前の空を見つめる。
(ユウマ。お前のくれた時間で、俺たちはここまで来た)
(セラ。お前の怒りが、俺の贖罪を突きつけてくれた)
(“25”――俺は、もう逃げねぇよ)
「行こう、セラ。次は……“あの空の下”だ」
重力が斜めにねじれ、音が鼓膜の奥で爆ぜる。
加速装置の振動が骨に伝わり、視界は白く霞んでいた。
「ッ……くそ、どこまで飛ぶんだよ……!」
口の中に血の味がした。
身体が、壊れかけている。
けれど――それでも生きている。
「セラ……! 無事か……?」
ポッドの内部、リオは隣に倒れていたセラに手を伸ばした。
「セラ、おい……ッ!」
彼女の肩に触れると、微かに呻き声が漏れた。
「……うるさい、叫ぶな、頭が割れそう……」
「……無事で……よかった……!」
セラの左腕は、肘から先が焼け落ちた状態だった。
金属片が刺さり、皮膚は黒く炭化している。
「こんなんで“無事”って言われる筋合いは……ないわよ」
「……だとしても、俺はそう思ったんだ。だからいいんだよ」
二人の言葉を遮るように、ポッドの外壁がガンッと何かに接触した。
減速装置が作動し、吐き気を伴う衝撃が体を貫く。
《到達座標:C-13 地表出口ゾーン》
《エアロック、解放》
外気が一気に流れ込む。
それは“空気”のはずだったが――乾ききっていて、どこか人工的な匂いがした。
扉が開く。
リオは、セラの身体を抱えながら外へ出る。
そこには――
荒れ果てた大地。
崩壊した都市構造物。
空は灰色のフィルターに覆われ、太陽の位置すら見えない。
「これが……外、なのか……?」
(違う……これは、“もう一つの檻”だ)
目の前に広がる光景に、リオは深い喪失感を覚えた。
人工太陽の光すら届かず、植物は枯れ、コンクリートはひび割れ、空気には細かな粒子が舞っていた。
セラが、かすれた声で言う。
「……ここは……どこなの……?」
「座標で言えば、旧都市の南外郭区域……多分、かつての“首都”だ。
けど、もう何も残ってない。まるで、ゴーストタウンだ」
二人は、ポッドから降り、近くの瓦礫に囲まれた廃ビルに身を隠した。
セラの腕を応急処置しながら、リオは改めて彼女の目を見た。
「……セラ、お前は、今も……俺を許してないか?」
彼女は何も言わなかった。
ただ、じっとリオを見つめ――そして、目を閉じた。
「許すとか、そういう問題じゃない。
でも……“あんたが自分を許してない”ことは、伝わった」
リオの手が、わずかに震えた。
「ありがとう。……それでも、まだ……俺は贖罪が終わったなんて思ってない」
「当然でしょ。これからでしょ。
“外”っていうのは、地獄でもあり、はじまりでもある」
しばらくして、彼らはビルの屋上へ登った。
遠くに、空に浮かぶ巨大な影が見えた。
それは、空中都市《アスフェラ》――
地上を捨てた“選ばれた人間たち”が暮らす、空の要塞だった。
セラが、震える声で言った。
「ねえ、リオ……もし、あそこに“真実”があったとしたら……私たちはどうする?」
「選ぶさ。今度は、俺たちが。
誰かに選ばれるんじゃなくて、誰かを犠牲にするんじゃなくて、
“自分たちで、選び取る”」
そのとき、リオの通信端末が、かすかに反応した。
《……RX-05-13……応答セヨ……》
《セキュリティ・シグナル……確認》
《“25”ヨリ、通信――》
「……“25”……!」
リオは端末を手に取り、息をのむ。
《キミの“選択”は、まだ終わっていない。
空が偽物なら、地上もまた、選別の檻に過ぎない。
来い、リオ=アーク。“真意”を知るために》
リオは、セラと顔を見合わせた。
「まだ……続くってことか」
「うん。地上に出ただけじゃ終わらない。
でも、もう“何も知らない子ども”じゃないわ、あんたも」
リオはゆっくりと立ち上がり、目の前の空を見つめる。
(ユウマ。お前のくれた時間で、俺たちはここまで来た)
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