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第6話『プリンが消えた日』
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その日、空は青く、風はやさしく、桜の花びらが舞っていた。
そして――俺は、絶望していた。
「……ない……ない……なあいッッ!!!!」
叫び声とともに、教室中の注目が一斉に集まった。
「なに騒いでんのよ、真人……」
呆れ声でそう言ったのは、もちろん相棒・園田早紀。だが、俺は動じない。いや、動じているがそれどころではない。
「俺の……プリンが……っ!!」
そう。給食の時間、テーブルに並んだ美しき三ツ星プリン。黄金のカラメルがきらめく、至高のスイーツ。
しかし――俺の皿の上だけ、プリンが、ない。
「いや、他の子のはあるじゃん」
「そこが問題だ!! 俺だけないんだよ!? これはもう、“犯行”だろうがッ!!」
「ただの配膳ミスでしょ……」
そう言いながらも、早紀がチラリと教室を見渡す。クラスメートたちは笑いをこらえながら、プリンをぷるぷる揺らしていた。
「ふふ……プリン、うま……」
「ごめん、ちょっと真人の顔見ながら食べるの背徳感ヤバい……」
「まるで奪ったみたいな気持ちになる……!」
いや、違う。これは俺の妄想じゃない。確かにあったはずのプリンが、今、ここにない。
これは立派な――
「プリン誘拐事件だ!!」
「お前の感情、スケールと単語のチョイスがいちいち大げさなのよ」
早紀のツッコミが追いつかないくらい、俺はヒートアップしていた。
給食が終わると同時に、俺は教室のど真ん中に立った。
「みんな、聞いてくれ!! 今朝、プリンが一つ……消えた!!」
「今朝じゃなくて“今”だし、“消えた”っていうか“ない”だけでしょ」
「この事件はただの食いっぱぐれではない! 明らかに意図的な――プリンの略奪!!」
「“略奪”て」
「ここに! 犯人がいる!!」
バァーン!!
空気が凍りついた。
一瞬の静寂ののち、数人がくすくすと笑い始める。
「え、やだ、私が疑われてるの!?」「アリバイあるし!」
「俺、ダイエット中だし!」
「そもそも真人が“プリン2個食べる気満々”だったから、1個しか用意されなかったって説あるよな」
「え、そんな……自業自得系!?」
「違う!これは完全に計画的な犯行だ!!」
俺は黒板に**「プリン消失事件・容疑者リスト」**と書き始める。
【容疑者リスト(仮)】
・給食当番
・俺の後ろの席の人(視界の死角)
・増渕先生(いつも食べ物に反応が早い)
「なぜ私まで入ってるんですか~!?」
声の主は、職員室から手提げを持って戻ってきた担任・増渕由美子先生。笑顔がまぶしい。というか天然。
「先生、今プリンの話してたんです~? わあ~♡先生プリン大好きなんですよね~。昨日もコンビニで買って冷蔵庫に入れて……あ、あれ? あれ誰が食べたのかな……?」
「まさか……前科アリか!?」
「ちょっと、勝手に食い逃げ犯みたいにしないで!」
そのとき、ひとりの男子が小声で囁いた。
「……でも、今日の給食……1個だけプリンの数足りなかったって、給食当番が言ってたって」
「な、なにぃぃぃ!? 本当に足りなかったのか!?!?」
俺の推理スイッチが入る。
「つまり、給食当番は気づいていた! だが、混乱を避けるために黙っていた! だがその“沈黙”が犯人を生んだ!!」
「いや、普通に“1個少なかった”だけじゃん?」
「違う!これはプリンが“仕組まれて”いたんだ!」
「プリンに仕組むってなに!?」
クラス中が大爆笑に包まれた。
俺はその後、「給食室捜査隊」を結成(隊員は俺と無理やり巻き込んだ男子2名)、
給食室へ突撃しようとしたが、**用務員さんに「食後は立ち入り禁止だよぉ」**と即ブロックされ、撤退。
教室に戻ると、なぜかみんなの机に――
「なにこの……アンケート用紙?」
「“今日の給食で気になったこと(チェックをつけてください)”って……」
◆ プリンが美味しかった
◆ プリンを誰かに取られた(ような気がした)
◆ プリンをこの世で一番愛している
◆ プリンに裏切られた
◆ 青木真人の騒ぎに共感した(したくない)
「……配ったのあんたでしょ」
「証言が必要だろ!? 捜査の基本は“聞き込み”だ!!」
「いや、アンケートって形にするなや」
だがそのとき。
増渕先生がふと用紙を見て、「ふふっ」と笑った。
「先生、全部チェックしちゃいました~!」
「!?!?!?!?」
「特に“裏切られた”ってのが、なんか……グッと来たんですよね~」
「犯人だーーー!!!」
「やめて!?!?」
こうして――
中学二年A組、**最もくだらなくて、最も真剣な“プリン消失事件”**は、静かに(でも騒がしく)幕を開けたのであった。
(つづく)
そして――俺は、絶望していた。
「……ない……ない……なあいッッ!!!!」
叫び声とともに、教室中の注目が一斉に集まった。
「なに騒いでんのよ、真人……」
呆れ声でそう言ったのは、もちろん相棒・園田早紀。だが、俺は動じない。いや、動じているがそれどころではない。
「俺の……プリンが……っ!!」
そう。給食の時間、テーブルに並んだ美しき三ツ星プリン。黄金のカラメルがきらめく、至高のスイーツ。
しかし――俺の皿の上だけ、プリンが、ない。
「いや、他の子のはあるじゃん」
「そこが問題だ!! 俺だけないんだよ!? これはもう、“犯行”だろうがッ!!」
「ただの配膳ミスでしょ……」
そう言いながらも、早紀がチラリと教室を見渡す。クラスメートたちは笑いをこらえながら、プリンをぷるぷる揺らしていた。
「ふふ……プリン、うま……」
「ごめん、ちょっと真人の顔見ながら食べるの背徳感ヤバい……」
「まるで奪ったみたいな気持ちになる……!」
いや、違う。これは俺の妄想じゃない。確かにあったはずのプリンが、今、ここにない。
これは立派な――
「プリン誘拐事件だ!!」
「お前の感情、スケールと単語のチョイスがいちいち大げさなのよ」
早紀のツッコミが追いつかないくらい、俺はヒートアップしていた。
給食が終わると同時に、俺は教室のど真ん中に立った。
「みんな、聞いてくれ!! 今朝、プリンが一つ……消えた!!」
「今朝じゃなくて“今”だし、“消えた”っていうか“ない”だけでしょ」
「この事件はただの食いっぱぐれではない! 明らかに意図的な――プリンの略奪!!」
「“略奪”て」
「ここに! 犯人がいる!!」
バァーン!!
空気が凍りついた。
一瞬の静寂ののち、数人がくすくすと笑い始める。
「え、やだ、私が疑われてるの!?」「アリバイあるし!」
「俺、ダイエット中だし!」
「そもそも真人が“プリン2個食べる気満々”だったから、1個しか用意されなかったって説あるよな」
「え、そんな……自業自得系!?」
「違う!これは完全に計画的な犯行だ!!」
俺は黒板に**「プリン消失事件・容疑者リスト」**と書き始める。
【容疑者リスト(仮)】
・給食当番
・俺の後ろの席の人(視界の死角)
・増渕先生(いつも食べ物に反応が早い)
「なぜ私まで入ってるんですか~!?」
声の主は、職員室から手提げを持って戻ってきた担任・増渕由美子先生。笑顔がまぶしい。というか天然。
「先生、今プリンの話してたんです~? わあ~♡先生プリン大好きなんですよね~。昨日もコンビニで買って冷蔵庫に入れて……あ、あれ? あれ誰が食べたのかな……?」
「まさか……前科アリか!?」
「ちょっと、勝手に食い逃げ犯みたいにしないで!」
そのとき、ひとりの男子が小声で囁いた。
「……でも、今日の給食……1個だけプリンの数足りなかったって、給食当番が言ってたって」
「な、なにぃぃぃ!? 本当に足りなかったのか!?!?」
俺の推理スイッチが入る。
「つまり、給食当番は気づいていた! だが、混乱を避けるために黙っていた! だがその“沈黙”が犯人を生んだ!!」
「いや、普通に“1個少なかった”だけじゃん?」
「違う!これはプリンが“仕組まれて”いたんだ!」
「プリンに仕組むってなに!?」
クラス中が大爆笑に包まれた。
俺はその後、「給食室捜査隊」を結成(隊員は俺と無理やり巻き込んだ男子2名)、
給食室へ突撃しようとしたが、**用務員さんに「食後は立ち入り禁止だよぉ」**と即ブロックされ、撤退。
教室に戻ると、なぜかみんなの机に――
「なにこの……アンケート用紙?」
「“今日の給食で気になったこと(チェックをつけてください)”って……」
◆ プリンが美味しかった
◆ プリンを誰かに取られた(ような気がした)
◆ プリンをこの世で一番愛している
◆ プリンに裏切られた
◆ 青木真人の騒ぎに共感した(したくない)
「……配ったのあんたでしょ」
「証言が必要だろ!? 捜査の基本は“聞き込み”だ!!」
「いや、アンケートって形にするなや」
だがそのとき。
増渕先生がふと用紙を見て、「ふふっ」と笑った。
「先生、全部チェックしちゃいました~!」
「!?!?!?!?」
「特に“裏切られた”ってのが、なんか……グッと来たんですよね~」
「犯人だーーー!!!」
「やめて!?!?」
こうして――
中学二年A組、**最もくだらなくて、最も真剣な“プリン消失事件”**は、静かに(でも騒がしく)幕を開けたのであった。
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