面白ミステリー『名探偵マコトの事件簿2』

naomikoryo

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第5話『名探偵、まだまだここにいます!』

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――静かな放課後、視線はゆっくりと真人に集まっていた。

彼は教室の前、黒板の前に立ち、何やら自信たっぷりな顔でくるりとこちらを振り返る。

「さて、みんな。待たせたな。ここからは――名探偵・青木真人による、事件の全容解説だ!」

「……って、誰も頼んでないけど」

「黙って見ててくれ、これは読者サービスだ!」

そう、これは彼なりの“名探偵の仕事”。
そして今、彼は満を持して、舞台の中央に立っていた。

◆【真人による事件解説】
「まず、この事件のきっかけは“園田早紀の靴箱に入っていた、一通の謎の手紙”だった」

「それが“事件の始まり”という言葉だけの、意味深なメモ。続けて、“次はあの場所で待っている”という第二の手紙。これらは誰かからの挑戦状、もしくは――何かのメッセージだった」

黒板にチョークでざっくりと相関図(絵が異様に下手)を書きながら、真人は続ける。

「当初、俺はこれを“学校を狙う黒幕の計画の第一歩”と判断したが、実際はまったく違った」

「えぇ、知ってるよ」

「静かにして。今、演出のとこだから」

一度咳払いをして、真人は手紙の複製を掲げる。

「犯人は――いや、この手紙を書いた“書き手”は、三谷ミオだった」

クラスがざわつく。

「ただし! 彼女は悪意ある犯人ではなかった。“事件”という言葉すら、本来の意味ではなかった。彼女はただ――誰かに伝えたかっただけだったんだ」

◆【ミオの動機】

「“あの場所”――それは、ミオが昔、とても仲の良かった友人と毎日過ごしていた体育館裏。
でも、その子とはある日を境に、話すことがなくなってしまった。喧嘩でも、大きなすれ違いでもなく、ただ自然に、少しずつ――離れてしまった」

「でも、忘れられなかった。あの時間が、あの笑顔が、何も言えずに別れてしまったあの日のことが。
そして、中学二年になった今、ふと“あの頃”の匂いを感じてしまった彼女は、手紙を書いた。

“もう一度、伝えたい”――そう思っただけなんだ」

「……でもさ、なんでそれを早紀の靴箱に?」

と、誰かが疑問を口にする。

真人はニヤリと笑う。

「それこそが……この事件最大の“トリック”だった!」

「やめて、たいしたトリックじゃないでしょ」

「いや、俺にとってはデカい! 俺が走り回った時間を返して欲しいくらいには!」

実は――
ミオは自分の書いた手紙を、わざと“誰かの靴箱”に入れていた。それは直接渡す勇気がなかったから。
誰かが見つけて、読むかもしれない。誰かが噂にするかもしれない。
でもそれでもいい。彼女の想いが、どこかで伝わってくれたら――。

「……って、なんか、エモくね?」

「自分で言うな」
早紀のツッコミは今日も絶好調。

◆【そして、全てが明かされた後】
放課後、教室には残り少ない日差しが差し込んでいた。

みんなが帰ったあと、黒板の前でひとり、真人が立っていた。

「……これが俺の初仕事か」

小さく呟いた彼の声を、誰かが拾う。

「うん、ま、悪くなかったんじゃない?」

後ろを振り返ると、そこには早紀がいた。

「お前……いつの間に」

「全部聞いてたよ。大げさな演出も、途中の噛みも」

「ちょ、噛んでたのバレてた!?」

早紀は笑いながら、窓の外を見つめた。

「でも、結局……あの手紙の相手は、今のところまだ来てないみたい」

「そっか……でも、いつか来るかもな。そのときは、俺がちゃんと見届けてやろう」

「……それなら、そのときは一緒にいてあげなよ、名探偵さん」

真人は照れくさそうに笑った。

「もちろん!」

◆そして、最後のオチは――もちろん、この人。

「うわ~! いい話だったねぇ~!!」

振り向けば、後ろのドアから顔をのぞかせているのは、我らが担任、増渕由美子先生(お菓子片手)。

「先生、今もしかして……」

「ぜ~んぶ見てた! なんかね、青春ってかんじでじ~んとしちゃった……!
あっ! でもちょっと聞いてもいい?」

「なんでしょう?」

「結局……この事件って、誰が悪いの?」

「いや、誰も悪くないですよ!?!?」

「じゃあ誰が逮捕されるの?」

「そういう話じゃないです!!」

「えぇ~? じゃあ先生、チーズ蒸しパンもう一個食べていい?」

「勝手にしてくださーい!!!」

こうして――

中学二年、最初の“事件”は、誰も傷つけず、でも誰かの心に優しく残る結末を迎えた。

そして名探偵・青木真人は、今日もこう宣言する。

「名探偵、まだまだここにいます!!」

(完)
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