5 / 85
第5話『名探偵、まだまだここにいます!』
しおりを挟む
――静かな放課後、視線はゆっくりと真人に集まっていた。
彼は教室の前、黒板の前に立ち、何やら自信たっぷりな顔でくるりとこちらを振り返る。
「さて、みんな。待たせたな。ここからは――名探偵・青木真人による、事件の全容解説だ!」
「……って、誰も頼んでないけど」
「黙って見ててくれ、これは読者サービスだ!」
そう、これは彼なりの“名探偵の仕事”。
そして今、彼は満を持して、舞台の中央に立っていた。
◆【真人による事件解説】
「まず、この事件のきっかけは“園田早紀の靴箱に入っていた、一通の謎の手紙”だった」
「それが“事件の始まり”という言葉だけの、意味深なメモ。続けて、“次はあの場所で待っている”という第二の手紙。これらは誰かからの挑戦状、もしくは――何かのメッセージだった」
黒板にチョークでざっくりと相関図(絵が異様に下手)を書きながら、真人は続ける。
「当初、俺はこれを“学校を狙う黒幕の計画の第一歩”と判断したが、実際はまったく違った」
「えぇ、知ってるよ」
「静かにして。今、演出のとこだから」
一度咳払いをして、真人は手紙の複製を掲げる。
「犯人は――いや、この手紙を書いた“書き手”は、三谷ミオだった」
クラスがざわつく。
「ただし! 彼女は悪意ある犯人ではなかった。“事件”という言葉すら、本来の意味ではなかった。彼女はただ――誰かに伝えたかっただけだったんだ」
◆【ミオの動機】
「“あの場所”――それは、ミオが昔、とても仲の良かった友人と毎日過ごしていた体育館裏。
でも、その子とはある日を境に、話すことがなくなってしまった。喧嘩でも、大きなすれ違いでもなく、ただ自然に、少しずつ――離れてしまった」
「でも、忘れられなかった。あの時間が、あの笑顔が、何も言えずに別れてしまったあの日のことが。
そして、中学二年になった今、ふと“あの頃”の匂いを感じてしまった彼女は、手紙を書いた。
“もう一度、伝えたい”――そう思っただけなんだ」
「……でもさ、なんでそれを早紀の靴箱に?」
と、誰かが疑問を口にする。
真人はニヤリと笑う。
「それこそが……この事件最大の“トリック”だった!」
「やめて、たいしたトリックじゃないでしょ」
「いや、俺にとってはデカい! 俺が走り回った時間を返して欲しいくらいには!」
実は――
ミオは自分の書いた手紙を、わざと“誰かの靴箱”に入れていた。それは直接渡す勇気がなかったから。
誰かが見つけて、読むかもしれない。誰かが噂にするかもしれない。
でもそれでもいい。彼女の想いが、どこかで伝わってくれたら――。
「……って、なんか、エモくね?」
「自分で言うな」
早紀のツッコミは今日も絶好調。
◆【そして、全てが明かされた後】
放課後、教室には残り少ない日差しが差し込んでいた。
みんなが帰ったあと、黒板の前でひとり、真人が立っていた。
「……これが俺の初仕事か」
小さく呟いた彼の声を、誰かが拾う。
「うん、ま、悪くなかったんじゃない?」
後ろを振り返ると、そこには早紀がいた。
「お前……いつの間に」
「全部聞いてたよ。大げさな演出も、途中の噛みも」
「ちょ、噛んでたのバレてた!?」
早紀は笑いながら、窓の外を見つめた。
「でも、結局……あの手紙の相手は、今のところまだ来てないみたい」
「そっか……でも、いつか来るかもな。そのときは、俺がちゃんと見届けてやろう」
「……それなら、そのときは一緒にいてあげなよ、名探偵さん」
真人は照れくさそうに笑った。
「もちろん!」
◆そして、最後のオチは――もちろん、この人。
「うわ~! いい話だったねぇ~!!」
振り向けば、後ろのドアから顔をのぞかせているのは、我らが担任、増渕由美子先生(お菓子片手)。
「先生、今もしかして……」
「ぜ~んぶ見てた! なんかね、青春ってかんじでじ~んとしちゃった……!
あっ! でもちょっと聞いてもいい?」
「なんでしょう?」
「結局……この事件って、誰が悪いの?」
「いや、誰も悪くないですよ!?!?」
「じゃあ誰が逮捕されるの?」
「そういう話じゃないです!!」
「えぇ~? じゃあ先生、チーズ蒸しパンもう一個食べていい?」
「勝手にしてくださーい!!!」
こうして――
中学二年、最初の“事件”は、誰も傷つけず、でも誰かの心に優しく残る結末を迎えた。
そして名探偵・青木真人は、今日もこう宣言する。
「名探偵、まだまだここにいます!!」
(完)
彼は教室の前、黒板の前に立ち、何やら自信たっぷりな顔でくるりとこちらを振り返る。
「さて、みんな。待たせたな。ここからは――名探偵・青木真人による、事件の全容解説だ!」
「……って、誰も頼んでないけど」
「黙って見ててくれ、これは読者サービスだ!」
そう、これは彼なりの“名探偵の仕事”。
そして今、彼は満を持して、舞台の中央に立っていた。
◆【真人による事件解説】
「まず、この事件のきっかけは“園田早紀の靴箱に入っていた、一通の謎の手紙”だった」
「それが“事件の始まり”という言葉だけの、意味深なメモ。続けて、“次はあの場所で待っている”という第二の手紙。これらは誰かからの挑戦状、もしくは――何かのメッセージだった」
黒板にチョークでざっくりと相関図(絵が異様に下手)を書きながら、真人は続ける。
「当初、俺はこれを“学校を狙う黒幕の計画の第一歩”と判断したが、実際はまったく違った」
「えぇ、知ってるよ」
「静かにして。今、演出のとこだから」
一度咳払いをして、真人は手紙の複製を掲げる。
「犯人は――いや、この手紙を書いた“書き手”は、三谷ミオだった」
クラスがざわつく。
「ただし! 彼女は悪意ある犯人ではなかった。“事件”という言葉すら、本来の意味ではなかった。彼女はただ――誰かに伝えたかっただけだったんだ」
◆【ミオの動機】
「“あの場所”――それは、ミオが昔、とても仲の良かった友人と毎日過ごしていた体育館裏。
でも、その子とはある日を境に、話すことがなくなってしまった。喧嘩でも、大きなすれ違いでもなく、ただ自然に、少しずつ――離れてしまった」
「でも、忘れられなかった。あの時間が、あの笑顔が、何も言えずに別れてしまったあの日のことが。
そして、中学二年になった今、ふと“あの頃”の匂いを感じてしまった彼女は、手紙を書いた。
“もう一度、伝えたい”――そう思っただけなんだ」
「……でもさ、なんでそれを早紀の靴箱に?」
と、誰かが疑問を口にする。
真人はニヤリと笑う。
「それこそが……この事件最大の“トリック”だった!」
「やめて、たいしたトリックじゃないでしょ」
「いや、俺にとってはデカい! 俺が走り回った時間を返して欲しいくらいには!」
実は――
ミオは自分の書いた手紙を、わざと“誰かの靴箱”に入れていた。それは直接渡す勇気がなかったから。
誰かが見つけて、読むかもしれない。誰かが噂にするかもしれない。
でもそれでもいい。彼女の想いが、どこかで伝わってくれたら――。
「……って、なんか、エモくね?」
「自分で言うな」
早紀のツッコミは今日も絶好調。
◆【そして、全てが明かされた後】
放課後、教室には残り少ない日差しが差し込んでいた。
みんなが帰ったあと、黒板の前でひとり、真人が立っていた。
「……これが俺の初仕事か」
小さく呟いた彼の声を、誰かが拾う。
「うん、ま、悪くなかったんじゃない?」
後ろを振り返ると、そこには早紀がいた。
「お前……いつの間に」
「全部聞いてたよ。大げさな演出も、途中の噛みも」
「ちょ、噛んでたのバレてた!?」
早紀は笑いながら、窓の外を見つめた。
「でも、結局……あの手紙の相手は、今のところまだ来てないみたい」
「そっか……でも、いつか来るかもな。そのときは、俺がちゃんと見届けてやろう」
「……それなら、そのときは一緒にいてあげなよ、名探偵さん」
真人は照れくさそうに笑った。
「もちろん!」
◆そして、最後のオチは――もちろん、この人。
「うわ~! いい話だったねぇ~!!」
振り向けば、後ろのドアから顔をのぞかせているのは、我らが担任、増渕由美子先生(お菓子片手)。
「先生、今もしかして……」
「ぜ~んぶ見てた! なんかね、青春ってかんじでじ~んとしちゃった……!
あっ! でもちょっと聞いてもいい?」
「なんでしょう?」
「結局……この事件って、誰が悪いの?」
「いや、誰も悪くないですよ!?!?」
「じゃあ誰が逮捕されるの?」
「そういう話じゃないです!!」
「えぇ~? じゃあ先生、チーズ蒸しパンもう一個食べていい?」
「勝手にしてくださーい!!!」
こうして――
中学二年、最初の“事件”は、誰も傷つけず、でも誰かの心に優しく残る結末を迎えた。
そして名探偵・青木真人は、今日もこう宣言する。
「名探偵、まだまだここにいます!!」
(完)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる