面白ミステリー『名探偵マコトの事件簿2』

naomikoryo

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第9話『机がしゃべった! ~イスズリくんの呪いが始まる~』

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その日。
それは、とてもとても静かな放課後だった。
教室には誰もおらず、夕日の赤が黒板をオレンジ色に染めていた。
カーテンがゆるく揺れる。紙が風にパラパラと踊る。

そして――

「……俺の机が……しゃべった……」

教室の隅から、自称・名探偵、青木真人(14)の、震える声が響いた。

ことの発端は、たったひとつの「ズレ」だった。

「なあ早紀、これ見てみ?」

数時間前、昼休み。

真人は自分の机の脚元を指差した。

「……机、3センチズレてる」

「……で?」

「これは何者かが俺の机を“意図的にズラした”証拠だ!」

「いや、掃除かなんかでしょ」

「違う!! このズレ方は不自然! 不規則! しかも俺の机だけがズレてるんだ!!」

「……その“言い切る根拠”、どこから出てくるの?」

しかし、真人は耳を貸さなかった。

それからの数時間、真人は黙々と捜査を進めた。

・机の脚にチョークでマーキング(「コ」の字型)
・机の向きをスマホで記録
・イスとの角度差を分度器で測定(どこから持ってきた)

「ふっ……完璧だ。これで証拠はバッチリだぜ……!」

「ねえ真人、今って何の授業中?」

「技術」

「出ろよ」

放課後、教室にひとり残った真人は、再び自分の机と向き合っていた。

(さて……問題は“誰がズラしたか”だ……)

彼の推理はすでに限界を超えていた。

(単なるイタズラ……? いや違う。この微妙なズレには“意思”がある。そう、“警告”……!)

そして――そのときだった。

ギギ……ギ、ギ……

「……うごかさないで……」

「…………………ッ!?」

空気が凍った。

真人、背筋ゾワッ。

今、たしかに――誰かが、いや、“何か”がしゃべった。

彼は震える手で、ゆっくりと自分の机を見下ろした。

「ま、まさか……おまえが……しゃべったのか……!? 机ぇぇぇ!!」

教室の外から、「うるせええ!!!」という他クラスの男子の声が飛んできた。

次の日の朝。
真人は明らかに様子がおかしかった。

「……おい早紀、俺……昨日、“机の声”聞いた……」

「……またアレ系?」

「いや違う!! マジで!!」

彼は真剣な表情で、自分の机を撫でながら続けた。

「たしかに言ったんだ。“うごかさないで”って……つまりこれは、“俺の机に宿った霊”からの警告だ!!」

「…………」

「名付けて――“イスズリくん”!!」

「“くん”づけ!?!?」

その日から、真人の妄想劇場が始まった。

黒板には、なぜか**「イスズリくん関係図」**が描かれていた。

◆イスズリくんプロフィール

性別:不明

生息地:机の下(本人談)

特徴:脚がギシギシ鳴る

好きなもの:床ワックスのにおい

嫌いなもの:掃除当番の気まぐれ

「いや、誰がまとめたのこれ……?」

「俺」

「やっぱりかよ!!」

さらに、昼休みにはクラス中にアンケートを配り始めた。

【あなたの机が最近、勝手に動いていると感じたことは?】

・ はい
・ たぶん
・ 気のせい
・ もう諦めてる
・ そもそも真人がうるさい

「選択肢に私情入りすぎだろ!!」

「ちゃんと調査してんだよ!!」

ちなみに、笹本くんが「たぶん」にチェックしていたのを見て、真人はガチで泣きそうになっていた。

その放課後。
ついに「第二の怪奇」が発生する。

机の上に――一枚のメモが置かれていた。

『やめて……もう動かさないで…… イスズリより』

「出たああああああああああああああ!!!!」

真人、絶叫。

早紀、頭を抱える。

「っていうか、字……真人の筆跡と似てない?」

「いや、違う!俺の筆跡はもっと名探偵感ある!」

「“名探偵感”ってなに!?」

さらにその日、教室の机がすべて、微妙に右に1cmずつズレていた。

「うおおおお!? 全面侵攻だ!! イスズリくんが、クラス全体に!!」

「ただの“掃除のしすぎ”でしょ!!」

翌日、ついに“真犯人”が発覚する。

「……あー、ごめん真人。昨日、掃除中に全部の机、ちょっとずらして遊んでた」
→ 犯人:男子2人組・暇だっただけ

「あと、その紙……先生の伝言メモ。風で飛んで、たまたま真人の机に乗ったらしい」

→ 増渕先生:「あ~、そうそう。“机、動かさないで”って職員室の書類の話で~。イスズリくん? なにそれ? 怖~♡」

真人、完全に崩れ落ちた。

「……まさか、俺が一番イスズリくんを信じてたのに……!!」

早紀:「いや、あんただけだったよ!!」

◆ラストシーン
その日の放課後。
真人はそっと、机の脚に小さなメモを貼った。

『また動きたくなったら言ってくれよな』

増渕先生:「あれ~? 真人くん、誰に手紙書いてるの~?」

真人:「俺の、相棒になりかけた“何か”さ……」

早紀:「青春返せ」

(つづく)
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