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第2章:街の片隅で、奇跡と嘘を語る
第1話『城を出る決意』
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――王城の空気は、息が詰まるほどに整っていた。
高く磨かれた白い大理石の床。
まるで計算されたように揃えられた調度品。
礼節と秩序が隅々に行き届き、誰一人、無駄な言葉を口にしない。
セシリアはその中で、ぎこちない微笑みを浮かべていた。
けれど、その目は明らかに迷っていた。
「マーヴィン様、わたし……やっぱり、ここじゃダメな気がします」
「……ダメ、とは?」
「みんな、怖いんです。言葉の意味は分かるけど……本当に何を言ってるのか分からなくて。
誰も、ちゃんと“わたしの声”を聞いてくれてる気がしないんです……」
(それが“権力の場”というものだ、聖女様)
マーヴィンは口に出さずに、窓の外に視線を向けた。
高い城壁の向こうに見える王都の街並み。
人々の営み。物売りの声。笑い声。怒鳴り声。
それらの“生きた声”は、この城の中には届かない。
「……セシリア、君は王宮が嫌いかい?」
「嫌いじゃ、ないです。でも……あそこにいた子たちの顔が、頭から離れないんです」
「あそこ?」
「修道院にいた孤児の子たち。マリア様が育てていた子たち。
あの子たちは、わたしが笑うと、同じように笑ってくれた。
痛いって言ったら、手をつないでくれた。
何も持っていないのに、わたしにいろんなものをくれたんです……」
セシリアは小さく微笑んだ。
「……ああいう場所で、生きたいんです。わたし、もっと人と一緒にいたい。ちゃんと、ちゃんと人の声を聞いていたい。
マーヴィン様、わたし……街に出たいです」
(……来たな)
マーヴィンは内心でうなずく。
この言葉を彼女が自分の意志で言うのを、ずっと待っていた。
「なら、出よう。街で暮らすのは悪くない」
「えっ、本当に?」
「王城の絨毯より、石畳の方が歩きやすいからね。足元を見られないで済む」
セシリアはぱあっと顔を輝かせ、勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、じゃあ、引っ越しですね! 荷造りしなきゃ!」
(荷物……君、ほとんど持ってないだろうに)
マーヴィンは微笑ましく思いながら、軽く頷いた。
「まずは、住む場所を決めないとな。心当たりがある。郊外の……教会だ」
「マリア様のところですねっ」
(そこに、あの子たちがいる。教会という“聖域”なら、教会権力の介入も一定まで抑えられる。
王都にいながら、城を出る。
それが、俺たちにとって最良の布石だ)
「準備を整えたら、明日には出発しよう」
その夜。
マーヴィンは一人、執務室の片隅で小さな箱を開けた。
そこには、数枚の紙片と金貨、そして、古びた指輪が入っていた。
(……この世界に来てから、荷物という荷物はない。
でも、言葉と記憶があれば十分だ)
外の闇に目を向ける。
王都はまだ眠らない。
誰かが交渉し、誰かが裏切り、誰かが嘘をついている。
この街の鼓動は、善と悪、欲と祈り、そのすべてでできている。
その真ん中で、マーヴィンは一人、静かに笑った。
「舞台は変わる。観客も変わる。
けれど、語るべき物語は……まだ始まったばかりだ」
高く磨かれた白い大理石の床。
まるで計算されたように揃えられた調度品。
礼節と秩序が隅々に行き届き、誰一人、無駄な言葉を口にしない。
セシリアはその中で、ぎこちない微笑みを浮かべていた。
けれど、その目は明らかに迷っていた。
「マーヴィン様、わたし……やっぱり、ここじゃダメな気がします」
「……ダメ、とは?」
「みんな、怖いんです。言葉の意味は分かるけど……本当に何を言ってるのか分からなくて。
誰も、ちゃんと“わたしの声”を聞いてくれてる気がしないんです……」
(それが“権力の場”というものだ、聖女様)
マーヴィンは口に出さずに、窓の外に視線を向けた。
高い城壁の向こうに見える王都の街並み。
人々の営み。物売りの声。笑い声。怒鳴り声。
それらの“生きた声”は、この城の中には届かない。
「……セシリア、君は王宮が嫌いかい?」
「嫌いじゃ、ないです。でも……あそこにいた子たちの顔が、頭から離れないんです」
「あそこ?」
「修道院にいた孤児の子たち。マリア様が育てていた子たち。
あの子たちは、わたしが笑うと、同じように笑ってくれた。
痛いって言ったら、手をつないでくれた。
何も持っていないのに、わたしにいろんなものをくれたんです……」
セシリアは小さく微笑んだ。
「……ああいう場所で、生きたいんです。わたし、もっと人と一緒にいたい。ちゃんと、ちゃんと人の声を聞いていたい。
マーヴィン様、わたし……街に出たいです」
(……来たな)
マーヴィンは内心でうなずく。
この言葉を彼女が自分の意志で言うのを、ずっと待っていた。
「なら、出よう。街で暮らすのは悪くない」
「えっ、本当に?」
「王城の絨毯より、石畳の方が歩きやすいからね。足元を見られないで済む」
セシリアはぱあっと顔を輝かせ、勢いよく立ち上がる。
「じゃあ、じゃあ、引っ越しですね! 荷造りしなきゃ!」
(荷物……君、ほとんど持ってないだろうに)
マーヴィンは微笑ましく思いながら、軽く頷いた。
「まずは、住む場所を決めないとな。心当たりがある。郊外の……教会だ」
「マリア様のところですねっ」
(そこに、あの子たちがいる。教会という“聖域”なら、教会権力の介入も一定まで抑えられる。
王都にいながら、城を出る。
それが、俺たちにとって最良の布石だ)
「準備を整えたら、明日には出発しよう」
その夜。
マーヴィンは一人、執務室の片隅で小さな箱を開けた。
そこには、数枚の紙片と金貨、そして、古びた指輪が入っていた。
(……この世界に来てから、荷物という荷物はない。
でも、言葉と記憶があれば十分だ)
外の闇に目を向ける。
王都はまだ眠らない。
誰かが交渉し、誰かが裏切り、誰かが嘘をついている。
この街の鼓動は、善と悪、欲と祈り、そのすべてでできている。
その真ん中で、マーヴィンは一人、静かに笑った。
「舞台は変わる。観客も変わる。
けれど、語るべき物語は……まだ始まったばかりだ」
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