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第2章:街の片隅で、奇跡と嘘を語る
第2話『町外れの古い教会』
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王都の朝は、いつも騒がしい。
荷馬車の音、鐘の合図、路地裏から漂う香ばしいパンの香り。
人々の生活が同時に目を覚まし、喧騒として世界に色を付けていく。
そんな街を、聖女とその相談役が歩いているとは、誰も思わない。
「人がいっぱいいて……ちょっと緊張しますね」
セシリアは、頭に白いスカーフを巻いていた。
教会の儀礼服ではなく、普通の旅装に近い服。
一目で“聖女”とわかるような装いは、マーヴィンの提案で避けていた。
「顔を知られてないうちが勝負だよ、セシリア」
「でも、なんだか新鮮です。全部が……生きてるって感じで」
マーヴィンはセシリアの後ろから歩きながら、人々の様子を観察していた。
市場の露天商。靴を磨く少年。口論する老人。手を引かれる母子。
(あの目に映るもの全てを、真っ直ぐに受け止めるつもりか。……無茶だよ、君は)
だが、無茶だからこそ——誰もできないからこそ、彼女は“聖女”と呼ばれるのかもしれない。
街の喧騒から外れ、石畳が土道に変わり、街路樹の影が濃くなる。
町外れに、小さな教会がぽつんと建っていた。
壁には時間と風雨の染みが残り、鐘楼は少し傾いている。
それでも、教会の扉は開いており、笑い声が中から漏れていた。
「ここです、マーヴィン様」
「変わらないな……あの頃のままだ」
セシリアは扉を開ける。
中には、十人ほどの子供たちが走り回っていた。
古い机。木の床。小さな祭壇。
飾り気はないが、どこか温かい空気が満ちている。
その中心に、白髪の老女が椅子に座りながら、笑顔で迎えてくれた。
「まぁ……セシリアじゃないの。わざわざ来てくれたのかい?」
「はいっ、マリア様!」
セシリアがぱたぱたと駆け寄る。
マーヴィンも後を追うように一礼した。
「はじめまして。マーヴィンと申します。聖女様の……相談係のようなものです」
「そうかい。礼儀のある若い男は、それだけで好感が持てるよ」
マリアと呼ばれた老シスターは、くしゃりと目を細めて微笑んだ。
「でも……セシリア。あんたがここに来るなんて、どういう風の吹き回しだい?」
セシリアは少し照れたように指を絡める。
「……ここに、住ませていただけませんか?」
「……この教会に、かい?」
「はい。わたし、王城にはもういたくないんです。
マーヴィン様と一緒に、人とちゃんと向き合える場所で生きたいって思って……」
マリアは数秒の沈黙の後、柔らかく笑った。
「そう言うと思ってたよ。
あんたはあの時から、子供たちより子供らしい目をしていたからねぇ。
あんな立派な聖女になったのに、まったく変わっちゃいない」
セシリアが、目を潤ませる。
「……ありがとうございます」
「いいさ。祭壇の裏に使ってない倉庫がある。あそこなら二人でも暮らせるだろう。
ただし、覚悟はいるよ。ここは、綺麗でも便利でもないからね」
「覚悟なら……できてます」
(……嘘はない)
マーヴィンはその横顔を見つめながら、小さく息を吐いた。
「ただ、ひとつだけ問題があってね」
マリアの顔が少し曇る。
「……ここを狙ってる連中がいる。貴族でも、商人でもない。盗賊だよ。
街から追われた連中が、郊外のこの土地に目を付けたらしくてね。
何度か脅しに来てる。子供たちの前では笑ってるけど、内心は穏やかじゃないんだ」
セシリアが顔を強ばらせた。
「……そんな……子供たちがいるのに……」
「ここを出るつもりはないけど、そう遠くないうちに、何か起きるだろうね」
マーヴィンは静かに立ち上がり、祭壇の奥を見た。
「来るなら、迎え撃ちましょう。……剣や矢じゃなく、“言葉”で」
「“言葉”で?」
「ええ。言葉で人を欺くこともできますが、導くこともできるんですよ、シスター」
マリアは、まるで昔を思い出すように、微かに目を細めた。
「……まさかとは思うけど、あんた……地球の男かい?」
「はて。どうでしょうね」
マーヴィンは肩をすくめ、笑った。
荷馬車の音、鐘の合図、路地裏から漂う香ばしいパンの香り。
人々の生活が同時に目を覚まし、喧騒として世界に色を付けていく。
そんな街を、聖女とその相談役が歩いているとは、誰も思わない。
「人がいっぱいいて……ちょっと緊張しますね」
セシリアは、頭に白いスカーフを巻いていた。
教会の儀礼服ではなく、普通の旅装に近い服。
一目で“聖女”とわかるような装いは、マーヴィンの提案で避けていた。
「顔を知られてないうちが勝負だよ、セシリア」
「でも、なんだか新鮮です。全部が……生きてるって感じで」
マーヴィンはセシリアの後ろから歩きながら、人々の様子を観察していた。
市場の露天商。靴を磨く少年。口論する老人。手を引かれる母子。
(あの目に映るもの全てを、真っ直ぐに受け止めるつもりか。……無茶だよ、君は)
だが、無茶だからこそ——誰もできないからこそ、彼女は“聖女”と呼ばれるのかもしれない。
街の喧騒から外れ、石畳が土道に変わり、街路樹の影が濃くなる。
町外れに、小さな教会がぽつんと建っていた。
壁には時間と風雨の染みが残り、鐘楼は少し傾いている。
それでも、教会の扉は開いており、笑い声が中から漏れていた。
「ここです、マーヴィン様」
「変わらないな……あの頃のままだ」
セシリアは扉を開ける。
中には、十人ほどの子供たちが走り回っていた。
古い机。木の床。小さな祭壇。
飾り気はないが、どこか温かい空気が満ちている。
その中心に、白髪の老女が椅子に座りながら、笑顔で迎えてくれた。
「まぁ……セシリアじゃないの。わざわざ来てくれたのかい?」
「はいっ、マリア様!」
セシリアがぱたぱたと駆け寄る。
マーヴィンも後を追うように一礼した。
「はじめまして。マーヴィンと申します。聖女様の……相談係のようなものです」
「そうかい。礼儀のある若い男は、それだけで好感が持てるよ」
マリアと呼ばれた老シスターは、くしゃりと目を細めて微笑んだ。
「でも……セシリア。あんたがここに来るなんて、どういう風の吹き回しだい?」
セシリアは少し照れたように指を絡める。
「……ここに、住ませていただけませんか?」
「……この教会に、かい?」
「はい。わたし、王城にはもういたくないんです。
マーヴィン様と一緒に、人とちゃんと向き合える場所で生きたいって思って……」
マリアは数秒の沈黙の後、柔らかく笑った。
「そう言うと思ってたよ。
あんたはあの時から、子供たちより子供らしい目をしていたからねぇ。
あんな立派な聖女になったのに、まったく変わっちゃいない」
セシリアが、目を潤ませる。
「……ありがとうございます」
「いいさ。祭壇の裏に使ってない倉庫がある。あそこなら二人でも暮らせるだろう。
ただし、覚悟はいるよ。ここは、綺麗でも便利でもないからね」
「覚悟なら……できてます」
(……嘘はない)
マーヴィンはその横顔を見つめながら、小さく息を吐いた。
「ただ、ひとつだけ問題があってね」
マリアの顔が少し曇る。
「……ここを狙ってる連中がいる。貴族でも、商人でもない。盗賊だよ。
街から追われた連中が、郊外のこの土地に目を付けたらしくてね。
何度か脅しに来てる。子供たちの前では笑ってるけど、内心は穏やかじゃないんだ」
セシリアが顔を強ばらせた。
「……そんな……子供たちがいるのに……」
「ここを出るつもりはないけど、そう遠くないうちに、何か起きるだろうね」
マーヴィンは静かに立ち上がり、祭壇の奥を見た。
「来るなら、迎え撃ちましょう。……剣や矢じゃなく、“言葉”で」
「“言葉”で?」
「ええ。言葉で人を欺くこともできますが、導くこともできるんですよ、シスター」
マリアは、まるで昔を思い出すように、微かに目を細めた。
「……まさかとは思うけど、あんた……地球の男かい?」
「はて。どうでしょうね」
マーヴィンは肩をすくめ、笑った。
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