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第2章:街の片隅で、奇跡と嘘を語る
第12話『旧友、街に現る』
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教会の朝は、昨日までと変わらぬ静けさに包まれていた。
子どもたちは小屋の前で跳ね、元盗賊の自警団たちは畑の土をいじる。
セシリアは礼拝堂で新しい詩編を覚えており、マーヴィンは壁にもたれて陽射しの角度を眺めていた。
――その時。
「……よお、マーヴィン。まだ人間やってたとはな」
マーヴィンの耳に、懐かしすぎる声が届いた。
振り返れば、そこに立っていたのは、一人の旅人風の男。
灰のような髪をざっくりと束ね、薄笑いを浮かべた鋭い目。
粗野な言葉遣いとは裏腹に、無駄のない所作と目の奥の“光”が、彼の“只者でない”ことを示していた。
「……エリオット」
マーヴィンは小さく、だが確かに呟いた。
(地球の人間だ。間違いない。だが、この世界に来てから……会うのは、初めてだ)
エリオットは、マーヴィンの肩をぽんと叩いた。
「安心しろ。誰にも言っちゃいねぇし、言う気もねぇよ。
ただな、噂が広まっててな。“口だけで人を動かす化け物が教会にいる”って。
まさかそれが、お前だとは思わなかったけどな」
「お前も……転移者か?」
「さぁ? 転生だったか、召喚だったか、そんなのはどうでもいい。
お前もこの世界で“生きてる”んだろ? 俺もだよ。
ただ……お前が聖女のそばで“善人”やってるってのが、一番信じられねぇ」
マーヴィンは微笑したまま、エリオットの目を見つめ返す。
「君こそ、何をしに来たんだ?」
「……忠告だよ」
エリオットの声が、低くなる。
「お前が守ってるあの子、“セシリア”とか言ったか。
もうすぐ、本物の“火”が降ってくる。噂とか、刺客とか、そんな生ぬるいもんじゃない。
誰かが、“何かを壊す”ために、本気で動き始めてる」
マーヴィンの目が細くなった。
「グラディスか?」
「グラディスだけじゃない。
あいつを動かしてるのは、“もっと上”だ。
この世界の“形”を作ってる連中の中に、お前たちが邪魔だと思ってる奴がいる。
“祈り”と“言葉”で、人の心が揺れるのが気に食わねぇらしい」
マーヴィンは無言で立ち上がる。
「なるほど。……それで、君はどうする気だ?」
「見に来ただけさ。お前がどう守るか、どこまで守れるか。
あとは……昔の“悪友”が、今どう変わったか、興味もあったしな」
そこへ、セシリアが現れた。
「マーヴィン様、そちらの方は……?」
エリオットが振り返り、軽く礼をする。
「はじめまして、セシリア様。旅の途中のエリオットと申します。
こちらの相談役殿とは、少し……昔の知り合いでして」
「そうなんですか……。ふふっ、マーヴィン様にも、そんなお知り合いがいたなんて、ちょっと意外です」
セシリアは、まるで何も気づかぬまま、自然に笑っていた。
だが、マーヴィンは分かっていた。
エリオットの目が、“見定めていた”ことを。
彼女の“心の強度”を。
マーヴィンの“嘘の中の真実”を。
エリオットは、しばらくその場に滞在すると言った。
「街の宿には泊まらねぇ。裏の納屋の端でいい。
……お前の手口を、もう少し眺めさせてくれ」
「手口じゃない。これは……生き方だよ」
「そう言えるうちは、大丈夫かもな」
マーヴィンとエリオットは、それ以上多くを語らなかった。
だが、この再会が、ただの懐かしさで終わらないことは、二人とも知っていた。
—
その夜。
セシリアは、机に広げた手紙を前にしていた。
「……“誰かの言葉が、わたしの中の不安を強くしました。でも、同時に……マーヴィン様の言葉が、それを少し溶かしてくれました”」
彼女は、誰かに宛てたような、誰にも宛てていないような、祈りに近い文章を書き綴っていた。
それはまるで、“自分自身への祝福”だった。
—
そして、マーヴィンは再び記録帳を開く。
【記録 60】
転移者と思しき“エリオット”、接触。目的:忠告・観察。
警告内容:“本物の火”が近づいている。
セシリア:異常なし。
教会:現在、信頼安定。だが“外”の力は動き始めている。
彼は一つ、深く息を吐いた。
(いよいよ、世界が本気を出してきたか。
だったら俺も……嘘と真実を使い分けるのではなく、その両方を“導き”に使う)
「俺の嘘は、誰かの現実を守るためにある。
それを、ようやく信じられるようになったよ、セシリア」
窓の外、星のない夜空に、風だけが吹いていた。
子どもたちは小屋の前で跳ね、元盗賊の自警団たちは畑の土をいじる。
セシリアは礼拝堂で新しい詩編を覚えており、マーヴィンは壁にもたれて陽射しの角度を眺めていた。
――その時。
「……よお、マーヴィン。まだ人間やってたとはな」
マーヴィンの耳に、懐かしすぎる声が届いた。
振り返れば、そこに立っていたのは、一人の旅人風の男。
灰のような髪をざっくりと束ね、薄笑いを浮かべた鋭い目。
粗野な言葉遣いとは裏腹に、無駄のない所作と目の奥の“光”が、彼の“只者でない”ことを示していた。
「……エリオット」
マーヴィンは小さく、だが確かに呟いた。
(地球の人間だ。間違いない。だが、この世界に来てから……会うのは、初めてだ)
エリオットは、マーヴィンの肩をぽんと叩いた。
「安心しろ。誰にも言っちゃいねぇし、言う気もねぇよ。
ただな、噂が広まっててな。“口だけで人を動かす化け物が教会にいる”って。
まさかそれが、お前だとは思わなかったけどな」
「お前も……転移者か?」
「さぁ? 転生だったか、召喚だったか、そんなのはどうでもいい。
お前もこの世界で“生きてる”んだろ? 俺もだよ。
ただ……お前が聖女のそばで“善人”やってるってのが、一番信じられねぇ」
マーヴィンは微笑したまま、エリオットの目を見つめ返す。
「君こそ、何をしに来たんだ?」
「……忠告だよ」
エリオットの声が、低くなる。
「お前が守ってるあの子、“セシリア”とか言ったか。
もうすぐ、本物の“火”が降ってくる。噂とか、刺客とか、そんな生ぬるいもんじゃない。
誰かが、“何かを壊す”ために、本気で動き始めてる」
マーヴィンの目が細くなった。
「グラディスか?」
「グラディスだけじゃない。
あいつを動かしてるのは、“もっと上”だ。
この世界の“形”を作ってる連中の中に、お前たちが邪魔だと思ってる奴がいる。
“祈り”と“言葉”で、人の心が揺れるのが気に食わねぇらしい」
マーヴィンは無言で立ち上がる。
「なるほど。……それで、君はどうする気だ?」
「見に来ただけさ。お前がどう守るか、どこまで守れるか。
あとは……昔の“悪友”が、今どう変わったか、興味もあったしな」
そこへ、セシリアが現れた。
「マーヴィン様、そちらの方は……?」
エリオットが振り返り、軽く礼をする。
「はじめまして、セシリア様。旅の途中のエリオットと申します。
こちらの相談役殿とは、少し……昔の知り合いでして」
「そうなんですか……。ふふっ、マーヴィン様にも、そんなお知り合いがいたなんて、ちょっと意外です」
セシリアは、まるで何も気づかぬまま、自然に笑っていた。
だが、マーヴィンは分かっていた。
エリオットの目が、“見定めていた”ことを。
彼女の“心の強度”を。
マーヴィンの“嘘の中の真実”を。
エリオットは、しばらくその場に滞在すると言った。
「街の宿には泊まらねぇ。裏の納屋の端でいい。
……お前の手口を、もう少し眺めさせてくれ」
「手口じゃない。これは……生き方だよ」
「そう言えるうちは、大丈夫かもな」
マーヴィンとエリオットは、それ以上多くを語らなかった。
だが、この再会が、ただの懐かしさで終わらないことは、二人とも知っていた。
—
その夜。
セシリアは、机に広げた手紙を前にしていた。
「……“誰かの言葉が、わたしの中の不安を強くしました。でも、同時に……マーヴィン様の言葉が、それを少し溶かしてくれました”」
彼女は、誰かに宛てたような、誰にも宛てていないような、祈りに近い文章を書き綴っていた。
それはまるで、“自分自身への祝福”だった。
—
そして、マーヴィンは再び記録帳を開く。
【記録 60】
転移者と思しき“エリオット”、接触。目的:忠告・観察。
警告内容:“本物の火”が近づいている。
セシリア:異常なし。
教会:現在、信頼安定。だが“外”の力は動き始めている。
彼は一つ、深く息を吐いた。
(いよいよ、世界が本気を出してきたか。
だったら俺も……嘘と真実を使い分けるのではなく、その両方を“導き”に使う)
「俺の嘘は、誰かの現実を守るためにある。
それを、ようやく信じられるようになったよ、セシリア」
窓の外、星のない夜空に、風だけが吹いていた。
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