静寂の星

naomikoryo

文字の大きさ
8 / 8

エピローグ:沈黙の向こう側

しおりを挟む
──静寂が破れたその瞬間、世界は音を取り戻した。

船の爆音が星の大気を震わせ、沈黙の意思は崩壊した。
空は軋むように揺らぎ、大地は波打つように歪み、惑星そのものが悲鳴を上げるかのようだった。

そして、すべてが終わった。

リサとノアが目を覚ましたとき、彼らは宇宙船の中にいた。
船は無事に軌道上に浮かび、静寂の星はどこにもなかった。

まるで最初から存在しなかったかのように。

宇宙の中の孤独
「……生きてる?」

ノアが震える声で呟く。

リサはゆっくりと身を起こし、窓の外を見つめた。
目の前に広がるのは、無限の宇宙。

だが、そこには 沈黙の星の姿はなかった。

「あの星は……?」

ノアは急いでスキャナーを確認する。
だが、どこにもデータは残っていない。

「この星は、最初から存在しなかった」

そう言われてもおかしくないほど、完璧に消え去っていた。

「でも……私たちは確かにそこにいた。」

リサが呟く。

「サミュエルも、イーサンも、隊長も……」

彼女は拳を握りしめた。

「……隊長……」

最後の記録
ノアは静かにコンソールを操作し、船の通信システムを起動した。
かすかなノイズが響く。

「……これを記録に残さないと。」

「意味、あるの?」

リサが虚ろな目で言った。

「だって、誰も信じないわ。あんな星があったなんて……。」

ノアは小さく笑った。

「それでも、誰かが知っておくべきだろう?」

彼は静かに話し始めた。

『記録ログ──沈黙の星について』

『202X年XX月XX日、我々は未知の惑星に不時着した』
『そこは異常な静寂に包まれ、音を発する者が次々と消えていった』
『惑星は意志を持ち、静寂を維持するために我々を取り込もうとした』
『最終的に、隊長は沈黙を破るために……』

ノアは言葉を詰まらせた。

「……グラント隊長は、自らを犠牲にした。」

リサは目を伏せ、静かに涙をこぼした。

「……でも、私たちは生き延びた。」

ノアはゆっくりと続けた。

「俺たちは沈黙に飲み込まれなかった。だから、この記録を残す。」

そう言って、ノアは最後の一文を打ち込んだ。

『沈黙の星は、存在した』

そして、ログを送信した。

誰かがこの記録を見つけることを願いながら。

地球へ
数日後、救助船が彼らを発見した。

漂流していた宇宙船は、奇跡的に救助信号を発していた。
ノアとリサは、地球へと帰還することができた。

しかし、報告書を書いているうちに、ある異変に気がついた。

──彼らが見た沈黙の星のデータは、どこにも残っていなかった。

船のブラックボックスには、あの惑星の記録は何一つ残っていなかった。
スキャナーの履歴にも、航行データにも、何もない。

ただ、「沈黙の記録」だけが、彼らの手元に残されていた。

「本当に……あの星は存在したのか?」

ノアが呟く。

「存在したわ。」

リサは迷いなく言った。

「だって、隊長がいたもの。」

彼らは沈黙の星を見た。
音を奪う惑星の意志を感じた。
そして、沈黙を破った。

それだけは、決して間違いではない。

「隊長……見てる?」

リサは、静かに夜空を見上げた。

宇宙は、変わらず静かだった。

だが、彼女はその沈黙の奥に、
グラントの声がまだ響いている気がしていた。

「静寂に飲まれるな。最後まで、生きろ。」

彼女は目を閉じ、そっと微笑んだ。

──沈黙の向こうで、彼の声が聞こえた気がした。

──完。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...