静寂の星

naomikoryo

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最終章:沈黙を破る者

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船のエンジンに残されたエネルギーは、あとわずかだった。

爆音を作り出し、この星の沈黙を打ち破る。

それが、彼らが選んだ最後の手段だった。

サミュエルとイーサンは消えた。
だが、完全に存在が消される前なら── まだ助け出せるかもしれない。

クルーたちは沈黙の中心へと戻り、
沈黙の惑星に 最後の抵抗 を試みる。

果たして、彼らの運命は──?

決戦の準備
「燃料はどのくらい残っている?」

グラントの問いに、リサはコンソールを睨みながら答える。

「ギリギリ1回分のエンジン点火は可能。でも、その後は……燃料ゼロよ。」

「つまり、これが最後の賭けってわけか。」

ノアが苦笑する。

「……これが成功すれば、この星の静寂を破壊できる可能性がある。でも、失敗したら……俺たちも消される。」

三人はお互いに顔を見合わせた。

「それでもやる。」

グラントは拳を握る。

「ここで何もせずに消えるくらいなら、最後まで足掻く。」

「……私も賛成よ。」

リサが頷く。

「このまま静かに消えていくなんて、まっぴらごめんだわ。」

「……じゃあ、やるしかないな。」

ノアは深く息を吸った。

彼らは、沈黙に抗う 最初の者 となる。

静寂の中心で
船の推進システムをセットし、エンジン点火の準備を整える。

目標は 沈黙の中心 、
あの黒い穴だ。

「ノア、周波数調整は?」

「計算通りなら、エンジンの振動と共鳴して、最大音量を作れるはず……」

「“計算通りなら”な。」

「それしか方法がないだろ?」

ノアは肩をすくめる。

「少なくとも、この星に“聞こえない音”を与えることはできる。」

「そう願うわ。」

リサは、スイッチに指をかけた。

「カウントダウン開始。」

「3……」

「2……」

「1……」

エンジン点火。

次の瞬間──

轟音が響き渡った。

沈黙の崩壊
ゴオオオオオオオッ……!!

耳をつんざく爆音が、惑星全体に響き渡る。

この星は 完全な沈黙を保つ世界。
今まで、こんな音が鳴ったことはなかった。

大気が揺れ、地面が震え始める。
青白い植物が波打つように揺らぎ、
空の色がわずかに変化する。

「効いてる……!?」

ノアが叫ぶ。

「いや、見ろ!」

グラントが指差した。

沈黙の穴から、黒い靄のようなもの が噴き出していた。

「なんだ、あれ……!?」

リサが息を呑む。

それはまるで、影のような存在。

否──

沈黙そのものが、実体化したものだった。

「この星の“意思”か……?」

グラントが呟く。

黒い靄は、音を消すようにゆっくりと広がっていく。

エンジン音が少しずつ吸収され、
再び静寂が戻ろうとする。

「ダメだ、消される!」

ノアが叫んだ。

「音が足りない……!」

最後の手段
「……なら、俺が行く。」

グラントが静かに言った。

「何をする気!?」

リサが驚愕する。

「エンジンの出力を上げる。俺が中に飛び込んで、最大限の爆発を起こす。」

「そんなことしたら、あんたまで──!」

「構わない。」

グラントはリサの肩に手を置く。

「お前たちは生きろ。」

「でも……」

「俺はキャプテンだ。最後に部下を守るのが仕事だろ?」

リサの目に涙が浮かぶ。

「こんなの……不公平よ……!」

「いや、公平だ。」

グラントは微笑んだ。

「ここで何もしなければ、全員死ぬ。なら、一人でも助かる道を選ぶべきだ。」

ノアは唇を噛みしめた。

「……ありがとう、隊長。」

「いいんだ。ノア、お前はこの星の真実を伝えてくれ。」

「リサ……お前は、未来を生きろ。」

「そんな……っ!」

リサが涙を流す。

「……じゃあな。」

グラントは、エンジンの中心へと飛び込んだ。

沈黙の終焉
轟音とともに、世界が震えた。

エンジンの爆発が、黒い靄を吹き飛ばす。

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

グラントの叫びが、沈黙の惑星に響いた。

その瞬間──

沈黙が、崩壊した。

目覚め
「……リサ?」

ノアの声で、リサは目を覚ました。

「ここは……?」

二人は、宇宙船の中にいた。

「生きてる……?」

リサは呆然とする。

「……どうやらな。」

ノアがスキャナーを確認する。

「静寂の星は……消えた。」

窓の外には、ただの荒野が広がっていた。

「隊長は……?」

リサが震える声で尋ねる。

ノアは目を伏せた。

「……グラントは、俺たちを助けるために……」

リサは目を閉じた。

「……ありがとう、隊長。」

エピローグ
彼らは救助船に発見され、無事に地球へ帰還した。

だが、沈黙の星の記録は何も残されていなかった。

それはまるで、最初から存在しなかったかのように。

だが、彼らは知っていた。

あの惑星は、確かにそこにあった。
そして、音を消し、存在を奪う恐ろしい世界だった。

リサとノアは、
グラントが最後に残した言葉を胸に刻んだ。

「静寂に飲まれるな。最後まで、生きろ。」

沈黙の星は、今もどこかにあるのかもしれない。

だが、彼らはもう二度と、
静寂の支配する世界へと戻ることはなかった。

──完。
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