自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第8話「みりあ、文化祭で“奇跡”を起こしかける」

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10月も半ば、少し肌寒くなってきた頃。
町中の学校では文化祭シーズンが始まり、通学路には制服姿の高校生たちの笑い声が響いていた。

 

──その中でも、少し“風の通りが良すぎる”場所があった。

 

都内の某女子校「私立清明学園」。
その文化祭の一室では、なぜか教室の空気が妙に清らかだった。
飾りつけに使ったはずの紙が“風に舞って”は戻り、誰かが近くを通ると風鈴が一音だけ鳴る。

 

「……うん、これはもう“気のせい”ってレベルじゃないよね」

 

教室の片隅で、水瀬みりあ(元・精霊王ミリス)は、ステージ衣装の裾を整えながら、ひとり静かに呟いていた。

 

今日の出し物はクラス全員で考えた「占いと召喚の魔法ショー」。
つまり、“ファンタジー風”の演出をする子供だましのエンタメ劇である。
魔法陣や召喚呪文、着ぐるみ精霊が用意されている、予定では「それっぽく見せて終わり」のはずだった。

 

──だが。

 

「みりあ~!出番、あと10分でーす!」

 

「あ、はーい!すぐ行きまーす」

 

舞台袖の空気が、“応じるように”震えていた。
彼女の半径数メートルに漂う“精霊圏”が、観客の興奮と会場の魔法モチーフに共鳴し始めていたのだ。

 

(まさか、こんなに反応するなんて……)

(こんな人工的な“飾り物の魔法陣”に、実体が反応するなんて、前例がない……!)

 

だが、それこそが“観察目的でこの世界に転生してきた理由”。

精霊王だったみりあにとって、人間界の“信仰”や“集団意識”がどれほど現象に影響するかは、重要な研究テーマだった。

 

(でも、ここで呼び出してしまったら、普通にバレる……!)

 

──けれどそのとき。

 

「水瀬~!なんか風強くない!?入り口のカーテン吹っ飛んでんだけど!?」

「演出じゃないの!?外から風出してるやついたよね!?」

 

みりあの耳に、同級生たちのざわめきが届く。

違う。誰も“風”を出してなんかいない。
これは──“向こう側”から、来てる。

 

(うっそ……この世界に来てから、私一度も召喚陣に接触してないのに……)

(なんで、“あいつら”呼ばれそうになってるの!?)

 

ふと、教室の隅の装飾された召喚陣が目に入る。
そこには、“精霊風”の台本通りの呪文が、書かれていた。

「風よ、天の声を伝え、舞い降りし契約の使徒たちよ──」

 

「────やばい」

 

──次の瞬間。

舞台の照明がすべて一瞬だけ“フッ”と消えた。

 

ザァァァァァァァァァ……

 

室内であるはずの空間に、突風が吹き抜ける。

窓も、ドアも閉まっている。

なのに、確かに風の精霊圏が“顕現”しようとしていた。

 

「あっ、ちょっと!これ演出!?演出で合ってる!?!?」

「お客さんざわついてるよ!?これって台本に──」

 

みりあは、スカートの裾を押さえながら前に出る。

客席の最前列にいた小学生が、目を輝かせて叫んだ。

「すっげぇ!!風、本物じゃん!!精霊ってホントにいるの!?」

 

(やばい、これ、完全に“信じられてる”状態!!)

 

彼女は舞台の中央に立ち、両手を掲げた。

そして、わざとらしく言う。

 

「──これが、“清明学園の特殊エフェクト”です!
風を操る大掛かりな演出、楽しんでいただけましたかー!?」

 

観客、拍手。

女子生徒たち:「え、マジすごくない!?」「風どこから出てたの!?」「ちょっと鳥肌だった~!」

 

(ふう……セーフ……)

(“本当に呼んだ”わけじゃない。ギリギリ手前で止めた……)

 

彼女は安堵しながら袖に下がる。

その瞬間、後ろにいた教師にぽそりと言われた。

 

「……水瀬さん。君、本当に“普通の子”だよね?」

 

「はいっ!とびきり“普通”の高校生です!」

 

にっこりと笑って、深々とお辞儀。

心の中で、精霊たちにそっと語りかける。

(ねぇ、まだ“バレる”の早いよ?)

(もう少しだけ、“この世界”を調べさせて)

 

そしてその夜。
みりあは日記にこう記す。

【本日の観察結果】
・集団意識と儀式形式が、召喚現象の疑似反応を生む可能性:大
・“信じる力”が、かつての世界よりもずっと柔軟に動いている
・この世界、侮れない
・あと、コスプレはたぶん精霊を呼びやすい(謎)

 

──こうして、“偶然に起きかけた”召喚事件は、誰にも気づかれずに終わった。

少なくとも、生徒たちも、観客も、そして──本人ですら、

本当に“ギリギリだった”ことには、気づいていない。

 

でも、風だけが。
この世界で、懐かしい“匂い”を嗅ぎ取っていた。

 

(続く)
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