自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第10話「ある夜、アパートの電気が全室一瞬だけ落ちる」

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──夜9時。
さくらハイツは、静かで穏やかな時間に包まれていた。

風はなし。星もなし。雨の気配すらない。
ただ、やや湿った空気が地面に張りついているような、そんな夜。

 

◇ ◇ ◇

 

202号室──ルーナの部屋。

「……クロ、風止んだね」

「うん。代わりに、空気の“圧”が上がってる。窓、曇ってるだろ?」

「ほんとだ……気温じゃなくて、気配が凝ってる……」

ルーナは電気ケトルでお湯を沸かしながら、部屋をぐるりと見回す。

何かが……“溜まっている”。
言葉にできない違和感が、そこかしこに点在している。

ペンダントのガラス玉は──光を宿したまま、沈黙していた。

 

◇ ◇ ◇

 

303号室──快の部屋。

「筋肉に……異変なし!」

「プロテイン、いつも通り!」

「腹筋ローラー、異常なし!」

「うーん……なんだろうこの感じ……テンション上げようとしても、身体が逆に“静かになれ”って言ってる……」

快はパワー系なのに、妙に感受性が高い。

実は、彼は精神と身体が一体化した時にこそ最大のポテンシャルを発揮するタイプの勇者だった。

そのため、無意識の“魔力の揺らぎ”にも反応してしまう。

(なんか……今日の空気、“戦いの前夜”っぽい……)

(いやいや、戦わねーし!平和だし!明日も配達だし!)

彼は自分で自分を全力否定しながら、布団に潜り込んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

203号室──佐倉直也の部屋。

「……なんか、やだな。妙にソワソワする」

コロッケを温め直していた手が止まる。

部屋の隅に置いてある観葉植物が、風もないのに小さく揺れている。

(今日、誰とも会ってないのに、誰かと喋った気がする)

(……誰だ、“あいつ”って)

ふと、記憶の奥にある“人影”が揺れる。

白髪で、細身で、いつも本を読んでた“誰か”。

声が、喉の奥まで浮かんできて、でも──

「……誰、だっけ……?」

 

◇ ◇ ◇

 

101号室──水瀬みりあの部屋。

部屋の中には、手製の魔法陣がいくつも置かれていた。
だが、すべて“封印”されている。遊びの道具に見せかけた、本物の陣式。

机の上には、文化祭で使用した“召喚の書”とノートPC。
ページの中の魔法円が、うっすらと“風紋”を立てていた。

「……ねぇ、感じる? “誰かが目を開けようとしてる”」

彼女は誰にともなくそう語りかけた。
だが部屋の空気が、それに答えるように──

ザッ……

空気が“後ろから前に流れる”感覚が走る。

「……っ」

みりあは、立ち上がった。

ノートPCの画面に、突然“砂嵐”のようなノイズが走る。

その瞬間──

 

 

──バチッ!!

 

 

アパート全体が、一瞬だけ真っ暗になる。

蛍光灯、冷蔵庫、テレビ、電子機器。
すべての電源が、一斉に“落ちた”。

まるで、世界そのものが瞬きをしたかのように。

 

だが──わずか3秒後。

すべてが何事もなかったかのように“再起動”する。

テレビがつく。冷蔵庫が音を立てる。電気が灯る。

 

ただ、その“3秒”を、さくらハイツの住人たちは全員が“明確に覚えていた”。

 

◇ ◇ ◇

 

「……今の、何?」

「……電気の一斉落ちって、事故?」

「おかしい。こんな一瞬だけって、通常あり得ない」

「──“扉”が、誰かの手に触れた」

 

◇ ◇ ◇

 

それぞれの部屋で、それぞれが立ち尽くす。
誰も言葉にはしないが、胸の奥の“警報”がじわりと鳴っていた。

静かすぎる、嵐の中のような夜。

だがその中で、確かに目覚めかけている者がいる。

過去の記憶か、存在の本質か、それとも──“別の何か”。

 

そして、その夜。
誰も知らぬうちに、さくらハイツの裏庭に一輪の花が咲いていた。

黒い花。
異世界で“絶滅したはずの植物”。

風に揺れながら、ほんのりと光を放つ。

それは、記憶でも、魔力でもない──
“運命”の萌芽だった。

 

(続く)
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