自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第14話「みりあ、ルーナの視線から“気づかれた”ことを悟る」

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夕暮れ。
文化祭の片付けが終わり、制服姿の高校生たちが駅へ向かって歩いている。

みりあはその中のひとり。
制服の襟元には、文化祭のネームバッジがつけられたまま。

「……風が、違う」

彼女は歩きながら、風の流れを感じ取っていた。
周囲の人間には分からない“精霊の通り道”──
その軌道が、明らかに逸れている。

 

“誰か”が、この町に強い意志を持って入ってきた。
それは魔物や精霊ではない。
もっと、曖昧で、もっと人間くさい……でも、たしかに異物。

 

「……まさか、記憶を思い出し始めた?」

 

──そう考えた矢先だった。

 

角を曲がると、向こうから買い物帰りの藤原ルーナが歩いてきた。

いつものように、片手にスーパーの袋。
髪を一つに結び、猫柄のエコバッグを肩から下げている。

……が、その目は──完全に“戦闘経験者”の目だった。

 

すれ違いざま、みりあはごく自然に会釈をする。

 

「こんにちは、ルーナさん」

 

「──よう。文化祭、どうだった?」

 

「まぁまぁ、盛況でした。ちょっと“風”が吹きすぎたけど」

 

「……そう。風、ねぇ」

 

その一言に、微かな棘があった。

 

ルーナは立ち止まり、みりあを見つめる。

目と目が合ったその瞬間──
空気がピタリと止まる。

 

「……お前、気づいてたのか?」

 

「……どこまで?」

 

「全部だよ。“風”を操ったのも、“陣式”を使ったのも、ただの女子高生の芸じゃない。
あれは……“本物”だ。間違いなく、精霊に近い存在じゃなきゃ起きない現象」

 

「……そう思ってたの、あなたぐらいかも。
他の人は『特殊演出すごーい!』で終わったから」

 

「“すごーい”で済む問題じゃないんだよ、まったく……」

 

ルーナは溜息をつくと、袋を持ち直した。

 

「で? 名乗る? それとも、まだ“日常”を続ける?」

 

「続けます。だって、まだ私は水瀬みりあ、ただの女子高生ですから」

 

「……ま、そう来ると思ったけどな」

 

「ルーナさんこそ。“250年生きてる魔女”のわりには、ずいぶん普通の暮らししてますよね?」

 

「うっせーわ。25歳つってんだろ」

 

「……ふふっ」

 

お互いに口元だけ笑いながら、
目はまったく笑っていない。

 

だが──

その沈黙の中に、はっきりとした了解が生まれていた。

 

(この人は、“覚えている”)
(私の正体を、知っている)

(そして……こちらも、覚えてる)

(この人は──かつて“世界の境界”を封じた、あの魔女)

 

 

──ルーナとみりあ。
世界の異端を知り、かつてそれを封じた者たち。

その二人が、今また同じ町の、同じアパートに暮らしている。

偶然?

いいえ、きっと──

 

「……じゃ、また」

 

「うん。また、ね。ルーナ“さん”」

 

 

二人はそのまま、何事もなかったように背を向けた。
夕焼けの道を、それぞれに歩いていく。

背中合わせ。かつての戦友のように。

 

だけど、もう言葉はいらなかった。

お互いの存在が、すでに“記憶”の扉をノックしていたから。

 

 

その夜、みりあは風に語りかけた。

 

「……ルーナが気づいた。
そして、たぶん……勇者も。
そろそろ、動かないとダメみたいね」

 

──風が返事をするように、カーテンをふわりと揺らす。

 

「魔王は……まだ眠ってる?」

 

と、そこで──

彼女のスマホがピコンと鳴った。

《明日の登校時、バス停でトラブル発生予告》
《SNSで流れてる都市伝説系。見ておいた方がいいかも。》

 

「……トラブル?」

 

みりあは画面を閉じ、目を細めた。

 

「なるほど。
記憶の次は、“事件”か」

 

 

(続く)
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