14 / 31
第13話「ルーナ、配達中の快と偶然出会い、彼の落書きを見て青ざめる」
しおりを挟む
昼下がり。
風はやや強め。空は晴れ。アパートの住人たちはそれぞれの用事に出かけていた。
ルーナは、街のドラッグストアの帰り道だった。
手にはセールのキッチンペーパーと猫砂。
「……重い……地味に重い……あと地味にデカい……」
すでに右腕は悲鳴を上げかけている。
──と、交差点の角で、何かと何かがドンッ!とぶつかった。
「あべっ!? す、すいませんっ!! って、あれ? 藤原さーん!?」
「おわっ!? お前か!!びっくりしたわ筋肉バイク!!」
「バイクじゃないっす!生足駆動っす!!」
汗だくで巨大なリュックを背負った大山快(配達中)と、
抱えてた荷物が崩れ落ちた藤原ルーナ(買い出し帰り)。
荷物を拾いながら、快がふとポケットからノートを落とした。
「あー!それオレの筋トレメモっす!」
「ほう。どれどれ、何書いてんの。『火曜日:肩トレ+坂道ダッシュ』……ふむふむ……『夜:プロテイン風呂』……風呂ォ!?ていうかそれ飲むもんじゃ……」
「まぁ読まれて恥ずかしい内容は……」
パラ……とノートのページが風にめくられた。
その次のページに、ルーナの目が吸い寄せられた。
「……え?」
「……あっ、それただのラクガ──」
「……待って」
ルーナの声が、低くなる。
そこには──剣のスケッチ。
長く、美しい。
柄には装飾があり、刃には波紋のような魔力のライン。
そして、横に書かれていた一行。
《エス=ルディア》
ルーナの手がピタリと止まった。
その名前──その剣の名は、彼女の中で“最も深い記憶のひとつ”だった。
昔、まだ世界が幾重にも別れていたころ。
ある戦場で、彼女はひとりの剣士と背中を預けて戦っていた。
彼が掲げた剣──それが、「エス=ルディア」。
そして、その剣士の名は──
(カイ……)
(勇者……カイ・ディアノス)
──目の前の筋肉バカの顔が、フラッシュバックの残像とぴたりと重なる。
「…………」
「……藤原さん?」
「お前……この剣、どこで……?」
「え? いや、なんか無意識に描いてたんすよね。
しかも名前も勝手に思い浮かんで……ははっ、変っすよね~?俺、昔の漫画でも読んでたかな?」
「それ……創作じゃない。本当に存在してた剣よ」
「──え?」
ルーナは、落書き帳を閉じて返す。
その手は、微かに震えていた。
「……お前、マジで思い出してないの?」
「え……? 何を?」
「戦ってたこと。剣を振るってたこと。あの世界で、私と──背中合わせで」
「…………えっ?」
快は、笑いかけて──固まった。
頭の中で、パキン、と何かが割れる音がした。
一瞬だけ、記憶の波が押し寄せる。
──闇の中。
──剣を掲げた。
──あの時、隣にいた“魔女”。
彼女は、叫んでいた。
『──カイ!! あんたが斬らなきゃ、終わらないのよ!!』
──そして世界は、白く爆ぜた。
「っ……!」
快は頭を押さえ、膝をつく。
「お、おい!? 大丈夫!? ちょっと、深呼吸して!ほら、スーハー!スーハー!!」
「藤原さ……俺……知ってる……その声……その目……」
「……!!」
「でも……なんで……なんで俺……何も……」
「──まだ全部は思い出さなくていい」
ルーナは、落ち着いた声で言った。
「ただ、知っておきなさい。
その剣は、“世界を救った剣”。
そして、お前はその“剣の持ち主”。」
快は震えた手でノートを受け取る。
まだ半信半疑。
でも、心の奥で何かが、確実に──目覚めかけていた。
「……これ、夢じゃないんすよね?」
「夢だったら、あたしがコタツから出るわけないでしょ」
「……つまり、現実……っすね」
彼らの間に、確かな空気の変化が生まれていた。
“知ってしまった者”同士の、絶妙な距離感と重み。
「とりあえず、お前さ──」
「はい?」
「ノートの端っこに書いてる“腹筋で地球救える説”は、マジで一回やめろ。記憶以上に恥ずかしい」
「えっ!? そこピックアップされるんすか!?」
「世界より羞恥を先に救え!!」
「ひどくないっすか!?」
──こうして、初めての“明確な正体バレ”が、
爆発も涙もなく、筋肉とツッコミの中で成立した。
だが──ここから物語は、確実に加速していく。
記憶は、リンクした。
次は、他の誰かの番だった。
(続く)
風はやや強め。空は晴れ。アパートの住人たちはそれぞれの用事に出かけていた。
ルーナは、街のドラッグストアの帰り道だった。
手にはセールのキッチンペーパーと猫砂。
「……重い……地味に重い……あと地味にデカい……」
すでに右腕は悲鳴を上げかけている。
──と、交差点の角で、何かと何かがドンッ!とぶつかった。
「あべっ!? す、すいませんっ!! って、あれ? 藤原さーん!?」
「おわっ!? お前か!!びっくりしたわ筋肉バイク!!」
「バイクじゃないっす!生足駆動っす!!」
汗だくで巨大なリュックを背負った大山快(配達中)と、
抱えてた荷物が崩れ落ちた藤原ルーナ(買い出し帰り)。
荷物を拾いながら、快がふとポケットからノートを落とした。
「あー!それオレの筋トレメモっす!」
「ほう。どれどれ、何書いてんの。『火曜日:肩トレ+坂道ダッシュ』……ふむふむ……『夜:プロテイン風呂』……風呂ォ!?ていうかそれ飲むもんじゃ……」
「まぁ読まれて恥ずかしい内容は……」
パラ……とノートのページが風にめくられた。
その次のページに、ルーナの目が吸い寄せられた。
「……え?」
「……あっ、それただのラクガ──」
「……待って」
ルーナの声が、低くなる。
そこには──剣のスケッチ。
長く、美しい。
柄には装飾があり、刃には波紋のような魔力のライン。
そして、横に書かれていた一行。
《エス=ルディア》
ルーナの手がピタリと止まった。
その名前──その剣の名は、彼女の中で“最も深い記憶のひとつ”だった。
昔、まだ世界が幾重にも別れていたころ。
ある戦場で、彼女はひとりの剣士と背中を預けて戦っていた。
彼が掲げた剣──それが、「エス=ルディア」。
そして、その剣士の名は──
(カイ……)
(勇者……カイ・ディアノス)
──目の前の筋肉バカの顔が、フラッシュバックの残像とぴたりと重なる。
「…………」
「……藤原さん?」
「お前……この剣、どこで……?」
「え? いや、なんか無意識に描いてたんすよね。
しかも名前も勝手に思い浮かんで……ははっ、変っすよね~?俺、昔の漫画でも読んでたかな?」
「それ……創作じゃない。本当に存在してた剣よ」
「──え?」
ルーナは、落書き帳を閉じて返す。
その手は、微かに震えていた。
「……お前、マジで思い出してないの?」
「え……? 何を?」
「戦ってたこと。剣を振るってたこと。あの世界で、私と──背中合わせで」
「…………えっ?」
快は、笑いかけて──固まった。
頭の中で、パキン、と何かが割れる音がした。
一瞬だけ、記憶の波が押し寄せる。
──闇の中。
──剣を掲げた。
──あの時、隣にいた“魔女”。
彼女は、叫んでいた。
『──カイ!! あんたが斬らなきゃ、終わらないのよ!!』
──そして世界は、白く爆ぜた。
「っ……!」
快は頭を押さえ、膝をつく。
「お、おい!? 大丈夫!? ちょっと、深呼吸して!ほら、スーハー!スーハー!!」
「藤原さ……俺……知ってる……その声……その目……」
「……!!」
「でも……なんで……なんで俺……何も……」
「──まだ全部は思い出さなくていい」
ルーナは、落ち着いた声で言った。
「ただ、知っておきなさい。
その剣は、“世界を救った剣”。
そして、お前はその“剣の持ち主”。」
快は震えた手でノートを受け取る。
まだ半信半疑。
でも、心の奥で何かが、確実に──目覚めかけていた。
「……これ、夢じゃないんすよね?」
「夢だったら、あたしがコタツから出るわけないでしょ」
「……つまり、現実……っすね」
彼らの間に、確かな空気の変化が生まれていた。
“知ってしまった者”同士の、絶妙な距離感と重み。
「とりあえず、お前さ──」
「はい?」
「ノートの端っこに書いてる“腹筋で地球救える説”は、マジで一回やめろ。記憶以上に恥ずかしい」
「えっ!? そこピックアップされるんすか!?」
「世界より羞恥を先に救え!!」
「ひどくないっすか!?」
──こうして、初めての“明確な正体バレ”が、
爆発も涙もなく、筋肉とツッコミの中で成立した。
だが──ここから物語は、確実に加速していく。
記憶は、リンクした。
次は、他の誰かの番だった。
(続く)
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる