自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第20話「みりあ、アパートの空気の違いに気づき始める」

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──朝6時、さくらハイツ。

いつも通り、雀が電線の上でチュンチュンと鳴き、
洗濯機が回る音がどこかの部屋から聞こえている。
牛乳配達のバイクが、遠くの坂を下りてくる。

そんな、いつもの静かなアパートの朝──

 

「……ちょっと待って、何これ……」

 

202号室の真下──102号室、住人・水瀬みりあは、
窓を開けて風を感じた瞬間、その場で動きを止めていた。

 

部屋の中に流れ込んできた空気が、“明らかに昨日と違う”。

目に見えない。
匂いもない。
音もしない。

けれど、肌を撫でる風の中に、何かの“魔力”の痕跡が感じられる。

 

「……ルーナさん?」

 

彼女の脳裏に、昨夜の対話が蘇る。

あの時の“視線”の交錯。
互いに記憶の奥を探るような沈黙。
そして、お互いにまだ何も言わずにいる選択。

──そのルーナの部屋から、今、微細な波動が漏れ出している。

 

(位相調整……?
いや、それだけじゃない。これは、“全体調律”の魔法)

(このアパートの、魔力波長そのものが、静かに“整えられてる”……)

 

彼女は静かにベッドから降り、
素足のまま部屋の中心に立ち、目を閉じた。

周囲の空気の流れ。
床を伝う振動。
壁を這う気配。

──全部、“同じ方向”に引かれている。

まるで、見えない糸で全員が一点に向かって結ばれているような、そんな感覚。

 

「……これ、調律じゃない」

 

「召集だ」

 

彼女は確信する。

これは、ただ記憶を整える魔法なんかじゃない。
記憶を持つ者たちを、ある“座標”に向かわせるための導き。

それは、誰かが意図して始めたもの──

つまり。

 

(ルーナさん……“あなた”が、動いたのね)

 

その時、ベランダに黒い影がよじ登ってきた。

 

「ニャー」

 

「……あら、また来たの。ルーナさんの使い魔」

 

クロは窓際で座り込み、尾をゆらゆらと揺らしながらみりあを見上げる。

その瞳は、明らかに「話が通じる相手」を見ている猫の目だった。

 

「伝えに来たの?」

 

「……ああ。お前にも“準備”をしておけってさ」

 

「準備? 何の?」

 

「“正体が完全に露呈したあとの、生活の維持手段”」

 

「……ちょっと待って、生活!? そこ?!」

 

クロはぴょんと室内に飛び込み、畳の上で香箱座り。

 

「あと数日で、記憶が全部戻る。
佐倉も快も、その先のやつらも。そしたら、“空気”は確実に変わる」

「住民全員が、別の世界で命のやりとりしてた元異界人。
そんなんで、普通のアパート生活が続くわけがない」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「“正体バレても、なんか面白おかしく暮らせる空気”を作るしかないだろ」

 

「……無理でしょ」

 

「無理じゃねえ。今のとこ、ギリギリ“楽しくバレかけてる”レベルだからな」

 

みりあはクロを見つめながら、ため息をついた。

 

「……あなたもそう思う?」

 

「何を?」

 

「みんなが“戦わないで済むならそのほうがいい”って」

 

クロは、しばらく黙っていた。
その耳だけが、ピクリと揺れる。

 

「ルーナは、たぶんそう思ってる。
でも俺は……“それでもダメならぶっ飛ばせばいい”と思ってる」

 

「……ふふ。変わらないわね、あの頃から」

 

「精霊王、てめえもか」

 

みりあは再び窓の外を見つめた。

空にはまだ、夜の名残が残っている。

だが、確実に“目覚め”の気配が漂っている。

 

(もうすぐ、全員が思い出す)

(その時、このアパートは──普通の生活を続けられるの?)

 

(それとも──再び、“あの結末”に向かって動き出すの?)

 

ふと、隣室から目覚まし時計の音が聞こえてきた。

あの部屋は──魔王、佐倉直也の部屋。

 

「……どうなるのかしらね」

 

「知らんよ」

 

「でも……ちょっと楽しみでもある」

 

(続く)
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