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第26話「ライカ、魔王と二人きりの夜──“黒い夢”を見る」
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──夜8時。
さくらハイツ、共用ゴミ捨て場の前。
ライカはゴミ袋を手に立ち尽くしていた。
「……あれ……ゴミの日って……今日じゃなかった?」
小首をかしげる彼女の後ろから、
ペットボトルの袋を抱えた佐倉直也が現れた。
「あれ、ライカちゃん? ゴミ、今日じゃないよ。明日明日」
「えっ!? あーん……また間違えちゃった~……」
しょんぼりした彼女の様子に、
直也は苦笑して言った。
「部屋、まだ片付いてないんだろ? よかったらウチ来る?
あんま広くはないけど……飲み物くらい出せるよ」
「……えっ、いきます!!」
──その流れで、203号室・佐倉直也の部屋に、
ライカが訪れることになった。
◆
部屋の中は、ごく普通の男子一人暮らし感が漂っていた。
しかし、細かく見ると……観葉植物がやたら元気。
間接照明の位置が妙に落ち着く。
そして冷蔵庫には、なぜか大量のプリン。
「わ、なんか落ち着く……」
「マジか……部屋だけは褒められるな」
ライカはソファにちょこんと座り、プリンを受け取ると一口食べてうっとり。
「……しあわせ」
(……こいつが“世界を滅ぼしかけた存在”の器ってマジ?)
直也は、笑顔の彼女を見ながらも、内心はぐらぐらしていた。
だが、今のところ彼女からは“力の片鱗”すら感じられない。
──それが、問題なのだ。
「抑圧が完全すぎるもの」ほど、何かの拍子で一気に暴走する。
「ライカちゃんさ。……最近、夢とか見る?」
「え? 夢? んー……あ、昨日ちょっと怖いの見たかも」
直也の目がわずかに鋭くなる。
「どんな?」
「なんか……真っ黒な湖の中に立ってて、
遠くにすごく大きな、何かの背中が見えて……」
「……それで?」
「私、誰かにこう言われたの。“また会おうね、私”って……」
(“自己覚醒前兆”……!)
思わずグラスを強く握る直也。
その時、突如として部屋の明かりがフッと落ちた。
「──っ!?」
室内が一瞬、暗闇に包まれる。
ライカは驚いた顔で振り返る。
だが──その瞳は、わずかに“金色”に染まっていた。
「……あれ……?」
「ライカ、こっち見んな。じっとして」
彼の声が低く、真剣な響きを帯びる。
「今、何か感じたか?」
「え……わからない……でも、
ちょっとだけ、“思い出しそう”な感じ……」
──ピリッ。
室内の空気が、静電気のようにざわつく。
ライカの背中から、ほのかな光が漏れる。
それはまるで“封印が軋んでいる音”のよう。
だが、次の瞬間。
「──ごめんなさい、私、なんか眠くなってきちゃった」
パタリ、とソファに横になるライカ。
光はスッと消え、明かりも元通りに点いた。
直也は額に汗をにじませ、静かに息を吐いた。
「……ギリギリだったな」
彼はスマホを手に取り、LINEグループ「異界連中(仮)」に一言だけ打った。
佐倉:
“ライカ、少しヤバめ。監視強化希望”
すぐに既読が5つついた。
レナ:
“明日から、うちで食事誘導します”
ルーナ:
“夜の気配変わってた。私も術式仕込んでおく”
快:
“え、なになに? 俺なんかする? パワー的なやつ?”
みりあ:
“寝かせてあげて。多分……本人、怖くて泣きたいだけだよ”
──その夜、
ライカは夢の中で、再び黒い湖に立っていた。
遠くにいる“もう一人の自分”が、こちらに手を振っている。
「……だいじょうぶ。
今度は、ちゃんと“みんな”いるから──」
そう言って微笑む“彼女”の顔が、
ほんの少しだけ、レナに似ていた。
(続く)
さくらハイツ、共用ゴミ捨て場の前。
ライカはゴミ袋を手に立ち尽くしていた。
「……あれ……ゴミの日って……今日じゃなかった?」
小首をかしげる彼女の後ろから、
ペットボトルの袋を抱えた佐倉直也が現れた。
「あれ、ライカちゃん? ゴミ、今日じゃないよ。明日明日」
「えっ!? あーん……また間違えちゃった~……」
しょんぼりした彼女の様子に、
直也は苦笑して言った。
「部屋、まだ片付いてないんだろ? よかったらウチ来る?
あんま広くはないけど……飲み物くらい出せるよ」
「……えっ、いきます!!」
──その流れで、203号室・佐倉直也の部屋に、
ライカが訪れることになった。
◆
部屋の中は、ごく普通の男子一人暮らし感が漂っていた。
しかし、細かく見ると……観葉植物がやたら元気。
間接照明の位置が妙に落ち着く。
そして冷蔵庫には、なぜか大量のプリン。
「わ、なんか落ち着く……」
「マジか……部屋だけは褒められるな」
ライカはソファにちょこんと座り、プリンを受け取ると一口食べてうっとり。
「……しあわせ」
(……こいつが“世界を滅ぼしかけた存在”の器ってマジ?)
直也は、笑顔の彼女を見ながらも、内心はぐらぐらしていた。
だが、今のところ彼女からは“力の片鱗”すら感じられない。
──それが、問題なのだ。
「抑圧が完全すぎるもの」ほど、何かの拍子で一気に暴走する。
「ライカちゃんさ。……最近、夢とか見る?」
「え? 夢? んー……あ、昨日ちょっと怖いの見たかも」
直也の目がわずかに鋭くなる。
「どんな?」
「なんか……真っ黒な湖の中に立ってて、
遠くにすごく大きな、何かの背中が見えて……」
「……それで?」
「私、誰かにこう言われたの。“また会おうね、私”って……」
(“自己覚醒前兆”……!)
思わずグラスを強く握る直也。
その時、突如として部屋の明かりがフッと落ちた。
「──っ!?」
室内が一瞬、暗闇に包まれる。
ライカは驚いた顔で振り返る。
だが──その瞳は、わずかに“金色”に染まっていた。
「……あれ……?」
「ライカ、こっち見んな。じっとして」
彼の声が低く、真剣な響きを帯びる。
「今、何か感じたか?」
「え……わからない……でも、
ちょっとだけ、“思い出しそう”な感じ……」
──ピリッ。
室内の空気が、静電気のようにざわつく。
ライカの背中から、ほのかな光が漏れる。
それはまるで“封印が軋んでいる音”のよう。
だが、次の瞬間。
「──ごめんなさい、私、なんか眠くなってきちゃった」
パタリ、とソファに横になるライカ。
光はスッと消え、明かりも元通りに点いた。
直也は額に汗をにじませ、静かに息を吐いた。
「……ギリギリだったな」
彼はスマホを手に取り、LINEグループ「異界連中(仮)」に一言だけ打った。
佐倉:
“ライカ、少しヤバめ。監視強化希望”
すぐに既読が5つついた。
レナ:
“明日から、うちで食事誘導します”
ルーナ:
“夜の気配変わってた。私も術式仕込んでおく”
快:
“え、なになに? 俺なんかする? パワー的なやつ?”
みりあ:
“寝かせてあげて。多分……本人、怖くて泣きたいだけだよ”
──その夜、
ライカは夢の中で、再び黒い湖に立っていた。
遠くにいる“もう一人の自分”が、こちらに手を振っている。
「……だいじょうぶ。
今度は、ちゃんと“みんな”いるから──」
そう言って微笑む“彼女”の顔が、
ほんの少しだけ、レナに似ていた。
(続く)
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