自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第30話「誰かが思い出し、誰かが選ぶ──そして、今を生きる者たちへ」

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──夜明け前。

さくらハイツの屋上。
そこに立つのは、佐倉直也。
魔王としての顔は、もう“少しだけ”戻っていた。

 

空は濃紺から群青へ。
朝が、静かに世界を侵食しはじめている。

 

「思い出しちまったよ、ルーナ。
全部──何もかも。お前らと過ごしたあの世界も、俺が壊したことも」

 

後ろからやってくる足音。

「やっと思い出したか、魔王様」

 

振り向けば、ルーナが腕を組んで立っていた。
いつものコート。無表情。けれど、目だけがどこか優しかった。

 

「……で? 世界、滅ぼす?」

 

「滅ぼさねぇよ。面倒くさいし」

 

「は?」

 

「……今さら“また魔王に戻る”とか、無理。
アイスもプリンも筋トレも、普通に楽しんでるしな」

 

しばらく無言のあと、ルーナが噴き出した。

 

「ぶはっ……! あー、もう、
……なんでアンタだけそういうトコだけ上手いのよ」

 

「魔王だからな」

 

「バカ」

 

 



 

その頃、202号室。

レナとライカが、静かに向かい合っていた。

ライカの瞳には、うっすらと金の光。

 

「……全部、思い出したの?」

 

ライカは、かすかに首を振った。

 

「……ちょっとだけ。
でもそれだけで、心臓がずっとバクバクしてる」

 

「怖い?」

 

「うん、少し。でもね、
“あの頃”のわたしより、今のわたしのほうが……好きかも」

 

レナは小さくうなずいた。

 

「あなたが“今を選ぶ”なら、それでいいの。
それがどんな存在でも──“選んだ自分”なら、もう脅威じゃない」

 

「……ありがとう」

 

彼女の頬に涙が一筋。

その涙は、強さの証だった。

 

 



 

そして朝。
さくらハイツの中庭では、住人たちがまた集まっていた。

コーヒー。
サンドイッチ。
焼きすぎたベーコン(またか)。
猫がつまみ食いを狙っている。

 

誰も、「昨日までの騒動」について口にしない。

でも、全員が、何かしらの記憶を取り戻していた。

 

「じゃ、今日の予定は?」

 

「特になし」

 

「俺、午後ジム」

 

「私は読書」

 

「クロと昼寝」

 

「バイト……さぼりたい」

 

笑い声がふわりと上がる。

日常が戻ってくる。

いいや、新しい日常が、今、始まった。

 

 



 

その日の夜。
ルーナは、封印具を手に、静かに術式を閉じた。

 

「これで本当に、“終わった”わね」

 

隣にいたレナが、目を伏せる。

 

「いいえ。
私たちは“終わらせた”んじゃなくて、“生き直してる”のよ」

 

ルーナは、少しだけ微笑んだ。

 

「なら、悪くないわね。この結末も」

 

彼女たちは歩き出す。

もう“魔王”も“勇者”も“賢者”もいない。

けれど、“私たち”はここにいる。

 

このアパートに、今日も明かりが灯る。

ここで、誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが少しずつ変わっていく。

 

──そして、物語は続く。

“自称25歳”たちの、不思議で、少しおかしな、けれど確かな第二の人生。


(完)
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