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第30話「誰かが思い出し、誰かが選ぶ──そして、今を生きる者たちへ」
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──夜明け前。
さくらハイツの屋上。
そこに立つのは、佐倉直也。
魔王としての顔は、もう“少しだけ”戻っていた。
空は濃紺から群青へ。
朝が、静かに世界を侵食しはじめている。
「思い出しちまったよ、ルーナ。
全部──何もかも。お前らと過ごしたあの世界も、俺が壊したことも」
後ろからやってくる足音。
「やっと思い出したか、魔王様」
振り向けば、ルーナが腕を組んで立っていた。
いつものコート。無表情。けれど、目だけがどこか優しかった。
「……で? 世界、滅ぼす?」
「滅ぼさねぇよ。面倒くさいし」
「は?」
「……今さら“また魔王に戻る”とか、無理。
アイスもプリンも筋トレも、普通に楽しんでるしな」
しばらく無言のあと、ルーナが噴き出した。
「ぶはっ……! あー、もう、
……なんでアンタだけそういうトコだけ上手いのよ」
「魔王だからな」
「バカ」
◆
その頃、202号室。
レナとライカが、静かに向かい合っていた。
ライカの瞳には、うっすらと金の光。
「……全部、思い出したの?」
ライカは、かすかに首を振った。
「……ちょっとだけ。
でもそれだけで、心臓がずっとバクバクしてる」
「怖い?」
「うん、少し。でもね、
“あの頃”のわたしより、今のわたしのほうが……好きかも」
レナは小さくうなずいた。
「あなたが“今を選ぶ”なら、それでいいの。
それがどんな存在でも──“選んだ自分”なら、もう脅威じゃない」
「……ありがとう」
彼女の頬に涙が一筋。
その涙は、強さの証だった。
◆
そして朝。
さくらハイツの中庭では、住人たちがまた集まっていた。
コーヒー。
サンドイッチ。
焼きすぎたベーコン(またか)。
猫がつまみ食いを狙っている。
誰も、「昨日までの騒動」について口にしない。
でも、全員が、何かしらの記憶を取り戻していた。
「じゃ、今日の予定は?」
「特になし」
「俺、午後ジム」
「私は読書」
「クロと昼寝」
「バイト……さぼりたい」
笑い声がふわりと上がる。
日常が戻ってくる。
いいや、新しい日常が、今、始まった。
◆
その日の夜。
ルーナは、封印具を手に、静かに術式を閉じた。
「これで本当に、“終わった”わね」
隣にいたレナが、目を伏せる。
「いいえ。
私たちは“終わらせた”んじゃなくて、“生き直してる”のよ」
ルーナは、少しだけ微笑んだ。
「なら、悪くないわね。この結末も」
彼女たちは歩き出す。
もう“魔王”も“勇者”も“賢者”もいない。
けれど、“私たち”はここにいる。
このアパートに、今日も明かりが灯る。
ここで、誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが少しずつ変わっていく。
──そして、物語は続く。
“自称25歳”たちの、不思議で、少しおかしな、けれど確かな第二の人生。
(完)
さくらハイツの屋上。
そこに立つのは、佐倉直也。
魔王としての顔は、もう“少しだけ”戻っていた。
空は濃紺から群青へ。
朝が、静かに世界を侵食しはじめている。
「思い出しちまったよ、ルーナ。
全部──何もかも。お前らと過ごしたあの世界も、俺が壊したことも」
後ろからやってくる足音。
「やっと思い出したか、魔王様」
振り向けば、ルーナが腕を組んで立っていた。
いつものコート。無表情。けれど、目だけがどこか優しかった。
「……で? 世界、滅ぼす?」
「滅ぼさねぇよ。面倒くさいし」
「は?」
「……今さら“また魔王に戻る”とか、無理。
アイスもプリンも筋トレも、普通に楽しんでるしな」
しばらく無言のあと、ルーナが噴き出した。
「ぶはっ……! あー、もう、
……なんでアンタだけそういうトコだけ上手いのよ」
「魔王だからな」
「バカ」
◆
その頃、202号室。
レナとライカが、静かに向かい合っていた。
ライカの瞳には、うっすらと金の光。
「……全部、思い出したの?」
ライカは、かすかに首を振った。
「……ちょっとだけ。
でもそれだけで、心臓がずっとバクバクしてる」
「怖い?」
「うん、少し。でもね、
“あの頃”のわたしより、今のわたしのほうが……好きかも」
レナは小さくうなずいた。
「あなたが“今を選ぶ”なら、それでいいの。
それがどんな存在でも──“選んだ自分”なら、もう脅威じゃない」
「……ありがとう」
彼女の頬に涙が一筋。
その涙は、強さの証だった。
◆
そして朝。
さくらハイツの中庭では、住人たちがまた集まっていた。
コーヒー。
サンドイッチ。
焼きすぎたベーコン(またか)。
猫がつまみ食いを狙っている。
誰も、「昨日までの騒動」について口にしない。
でも、全員が、何かしらの記憶を取り戻していた。
「じゃ、今日の予定は?」
「特になし」
「俺、午後ジム」
「私は読書」
「クロと昼寝」
「バイト……さぼりたい」
笑い声がふわりと上がる。
日常が戻ってくる。
いいや、新しい日常が、今、始まった。
◆
その日の夜。
ルーナは、封印具を手に、静かに術式を閉じた。
「これで本当に、“終わった”わね」
隣にいたレナが、目を伏せる。
「いいえ。
私たちは“終わらせた”んじゃなくて、“生き直してる”のよ」
ルーナは、少しだけ微笑んだ。
「なら、悪くないわね。この結末も」
彼女たちは歩き出す。
もう“魔王”も“勇者”も“賢者”もいない。
けれど、“私たち”はここにいる。
このアパートに、今日も明かりが灯る。
ここで、誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが少しずつ変わっていく。
──そして、物語は続く。
“自称25歳”たちの、不思議で、少しおかしな、けれど確かな第二の人生。
(完)
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