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最終話:帰還
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10月1日の朝。
あの島に、初めて朝日が差した。
風は柔らかく、波は穏やかだった。
空の青さが、まるで何かの鎖が解けたかのように澄んでいた。
「……船が……来てる……!」
貴子の震えた声に、誰もが足元の砂を蹴って走り出す。
桟橋の先には、小さな漁船。
現代のものだった。
「こっちだ! おい、生きてるか!?」
男の声。
警察の制服。
衛星電話。
全てが、現代のものだった。
慎吾は、静かに息を吐いた。
(帰ってきた)
圭吾が言った。
「“裁き”は完了した。
神の器は、その役目を終えた。
ここからは……“人間の時間”だ」
慎吾は、うなずいた。
(でも――)
(忘れない)
(俺は、この島で、人を救いたいと本気で思った)
(そして、救えなかった過去に、ようやく手を伸ばせた)
(それだけは、消えない)
*
帰還後、ニュースは一斉に報じた。
「大学生24人、青神島付近で遭難、全員生存で保護」
「船の沈没、漂流、そして無人島への上陸」
「数日間の遭難生活の末、他の島民により発見され救助」
……と、説明された。
だが、救助隊は「青神島に他には人影などなかった」と報告していた。
島の地図にも、“あの島”の記録は残されていない。
あれほど大きな寺も、施設も、村も――どこにも存在しなかった。
それでも、彼らは確かに生きて帰ってきた。
慎吾たちにだけ、あの記憶が残っていた。
……いや。
ひとつだけ、完全に失われていたものがあった。
それは、“白石杏奈”という名前。
彼女の記録は、大学にも、名簿にも、写真にも、一切なかった。
誰も思い出せず、誰もその名を口にしなかった。
ただ、慎吾だけが――覚えていた。
忘れてはいけない、“最もやさしい神の姿”を。
*
帰還後、慎吾はひとり、大学を辞めた。
人前に出ることも少なくなり、どこかの町の図書館で働くようになったと聞いた者もいる。
だが、誰も彼の“現在”をはっきりとは知らない。
彼は、ある日、海辺の町の小さな古寺に現れた。
その寺の裏庭に、名もない小さな石碑を建てた。
彫られていたのは――
「わたしは ここに いました」
それだけ。
風が吹き、鈴の音が静かに鳴った。
慎吾は、目を閉じて微笑む。
(もう、裁きは終わった)
(だけど、祈ることはできる。忘れないこともできる)
(それが、俺にできる……“神の器の終わり”)
彼の耳に、最後に――あの声が囁く。
「ありがとう。
私を、見てくれて。
忘れないでいてくれて。
最後に、誰かを救ってくれて」
「……あなたは、最初からずっと、
“誰かの神さま”だったよ」
風が止んだ。
雲の切れ間から、まばゆい光が差し込んでいた。
あの島に、初めて朝日が差した。
風は柔らかく、波は穏やかだった。
空の青さが、まるで何かの鎖が解けたかのように澄んでいた。
「……船が……来てる……!」
貴子の震えた声に、誰もが足元の砂を蹴って走り出す。
桟橋の先には、小さな漁船。
現代のものだった。
「こっちだ! おい、生きてるか!?」
男の声。
警察の制服。
衛星電話。
全てが、現代のものだった。
慎吾は、静かに息を吐いた。
(帰ってきた)
圭吾が言った。
「“裁き”は完了した。
神の器は、その役目を終えた。
ここからは……“人間の時間”だ」
慎吾は、うなずいた。
(でも――)
(忘れない)
(俺は、この島で、人を救いたいと本気で思った)
(そして、救えなかった過去に、ようやく手を伸ばせた)
(それだけは、消えない)
*
帰還後、ニュースは一斉に報じた。
「大学生24人、青神島付近で遭難、全員生存で保護」
「船の沈没、漂流、そして無人島への上陸」
「数日間の遭難生活の末、他の島民により発見され救助」
……と、説明された。
だが、救助隊は「青神島に他には人影などなかった」と報告していた。
島の地図にも、“あの島”の記録は残されていない。
あれほど大きな寺も、施設も、村も――どこにも存在しなかった。
それでも、彼らは確かに生きて帰ってきた。
慎吾たちにだけ、あの記憶が残っていた。
……いや。
ひとつだけ、完全に失われていたものがあった。
それは、“白石杏奈”という名前。
彼女の記録は、大学にも、名簿にも、写真にも、一切なかった。
誰も思い出せず、誰もその名を口にしなかった。
ただ、慎吾だけが――覚えていた。
忘れてはいけない、“最もやさしい神の姿”を。
*
帰還後、慎吾はひとり、大学を辞めた。
人前に出ることも少なくなり、どこかの町の図書館で働くようになったと聞いた者もいる。
だが、誰も彼の“現在”をはっきりとは知らない。
彼は、ある日、海辺の町の小さな古寺に現れた。
その寺の裏庭に、名もない小さな石碑を建てた。
彫られていたのは――
「わたしは ここに いました」
それだけ。
風が吹き、鈴の音が静かに鳴った。
慎吾は、目を閉じて微笑む。
(もう、裁きは終わった)
(だけど、祈ることはできる。忘れないこともできる)
(それが、俺にできる……“神の器の終わり”)
彼の耳に、最後に――あの声が囁く。
「ありがとう。
私を、見てくれて。
忘れないでいてくれて。
最後に、誰かを救ってくれて」
「……あなたは、最初からずっと、
“誰かの神さま”だったよ」
風が止んだ。
雲の切れ間から、まばゆい光が差し込んでいた。
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