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第3章:「二つの戦場」
第3話「黒炎の騎士団と古の予言」
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アリステリア王国の北端――〈黒き森〉と呼ばれる禁域の境界線を越えた場所で、
タケルは再び剣を抜いていた。
空気が重く、湿っていた。
朝も夜もないような薄曇りの空の下、朽ちた塔と廃村の遺跡に、魔物たちの影が蠢く。
彼の背には、銀と青の意匠が刻まれた大剣。
かつて魔王討伐の旅で握った伝説の武器《竜喰いの剣》の“再封印型”だ。
「数が多いな……」
剣の柄を握り直し、タケルは静かに目を細める。
周囲を取り囲んでいたのは、黒い鎧に身を包んだ騎士たち。
その姿は明らかに“人型”だったが、兜の奥には瞳も声もなく、代わりに微かに呻くような魔素の音だけが響いている。
――黒炎の騎士団。
かつて魔王軍の幹部直属部隊として恐れられた存在であり、タケル自身が倒したはずの“死者たち”だった。
「やっぱり……本格的に動き出してるな」
つぶやくと同時に、剣を斜めに構える。
地面が低く震え、黒炎騎士のひとりが突進してくる。
「――風刃《セラレイ》!」
剣を振ると同時に、タケルの足元から風の魔法が奔る。
瞬間、黒炎騎士の体が切り裂かれ、鎧の奥から“影の霧”が噴き出した。
それは血ではない。
“命の代わりに宿っている魔素”――死者の擬態である。
「やはり、完全に甦ったわけじゃない……けど」
タケルは、剣を構えたまま、ゆっくりと前に出る。
敵の動きには、“知性”が混じっていた。
「タケル、後方注意っ!」
リアの声が飛ぶ。
すぐさまタケルは地面を蹴り、側転で飛び退く。
その背後に、暗黒の斬撃が突き抜け、空を裂いた。
現れたのは、一際大きな黒炎騎士。
全身を包む鎧の紋章が、かつて魔王の右腕と呼ばれた者のものと一致していた。
「お前は……」
だが、その騎士は何も答えない。
代わりに、左手を掲げた。
空間がねじれ、そこに異様な模様を刻んだ黒い石版が浮かび上がる。
そして、それを“空に向かって掲げる”と――
――空が一瞬、軋んだ。
まるで、何かが“向こう側”と繋がったかのような、奇妙な感覚。
(……今の、なんだ?)
タケルの中に“地球の空”の記憶がよぎる。
剛が言っていた、空が濁るような違和感。
だが、それを考える暇はなかった。
黒炎騎士たちが一斉に襲い掛かってきたのだ。
「――まとめて斬るしかない!」
タケルの足元に魔法陣が浮かぶ。
「《剣陣・轟雷》!」
瞬間、地面から複数の剣状の雷が突き上がり、騎士たちの動きを一掃する。
爆音と閃光の中、鎧が砕け、影が霧散する。
だが、先ほどの“黒い石版”だけは、空中に留まり続けていた。
それを回収したのは、リアだった。
「これ……タケル、見て」
「これは……術式回路だな」
「ううん、ただの術式じゃない。これ……“星の門”の座標を書いてる」
「……!」
星の門。
それは、古の伝承において、“異なる星々を繋ぐ鍵”とされる幻の魔導具。
大昔、いにしえの文明が空に穴を開け、別世界と行き来していたという逸話に登場する言葉だった。
「まさか……本当に実在してるってのか」
「しかもこの術式、タケルがこっちに来たときに使った“鏡の揺らぎ”と似てる。……地球との接点が、意図的に操作されてる可能性がある」
タケルの脳裏に、剛の顔が浮かぶ。
(まさか……お前の方にも、“こっちの力”が流れてるのか?)
その夜、タケルとリアは王城へ戻り、報告のために書庫を訪れていた。
宰相ディラフと老魔術師ヨーゼフが、古文書を片手にふたりを迎える。
「やはり、“星の門”が動き始めておるのか……。あれは決して開いてはならぬものじゃ」
「なぜ?」
「門が開いたとき、かつてこの世界は一度“崩壊”しかけた。時空の境界が壊れ、魔王と呼ばれる者が“外側”の力を取り込んだのじゃ」
「外側……?」
「うむ。つまり、異なる星――地球の力を」
空気が張りつめた。
リアが震える声で問う。
「……では、もし今また門が開けば、魔王は“こっちの力”だけでは足りず、“地球の力”をも手に入れてしまうのでは……?」
「それが“完全なる復活”の条件かもしれん」
タケルは拳を握った。
「その前に止める。絶対に、あの門を開かせない」
「だが、止めるには門の場所、そして鍵が必要だ。お主が地球から来たように、地球にもまた“何か”が残されているはずじゃ」
「つまり……地球に“鍵”がある?」
「そうじゃ。お主の仲間――“剛”とやら。彼が持っているかもしれん。あるいは、近くに“継承者”がいる可能性もある」
星の門、地球との力の交錯、魔王の完全復活――
すべてが、繋がり始めていた。
夜。
タケルは、宿舎の自室にある古い鏡の前に立った。
手をかざすと、ふっと波紋が走る。
そして――
(……タケルさん?)
(剛か)
(こっちも、少しずつ変な気配が強まってきてる。都市にガルダス星人が潜り込んでる)
(やはり……こっちでは魔王の配下が、“星の門”を使おうとしてる)
(星の門……?)
(ああ。たぶん、それを動かす“鍵”が……お前のいる世界にある)
(……わかった。探してみる)
二人の意識が、少しだけ確かに結びついた。
戦場は別でも、目的は同じ。
守るべき世界と人があり、挑むべき災厄がある。
剣を研ぎながら、タケルは呟く。
「こっちは任せろ、剛。……お前も、気をつけろよ」
タケルは再び剣を抜いていた。
空気が重く、湿っていた。
朝も夜もないような薄曇りの空の下、朽ちた塔と廃村の遺跡に、魔物たちの影が蠢く。
彼の背には、銀と青の意匠が刻まれた大剣。
かつて魔王討伐の旅で握った伝説の武器《竜喰いの剣》の“再封印型”だ。
「数が多いな……」
剣の柄を握り直し、タケルは静かに目を細める。
周囲を取り囲んでいたのは、黒い鎧に身を包んだ騎士たち。
その姿は明らかに“人型”だったが、兜の奥には瞳も声もなく、代わりに微かに呻くような魔素の音だけが響いている。
――黒炎の騎士団。
かつて魔王軍の幹部直属部隊として恐れられた存在であり、タケル自身が倒したはずの“死者たち”だった。
「やっぱり……本格的に動き出してるな」
つぶやくと同時に、剣を斜めに構える。
地面が低く震え、黒炎騎士のひとりが突進してくる。
「――風刃《セラレイ》!」
剣を振ると同時に、タケルの足元から風の魔法が奔る。
瞬間、黒炎騎士の体が切り裂かれ、鎧の奥から“影の霧”が噴き出した。
それは血ではない。
“命の代わりに宿っている魔素”――死者の擬態である。
「やはり、完全に甦ったわけじゃない……けど」
タケルは、剣を構えたまま、ゆっくりと前に出る。
敵の動きには、“知性”が混じっていた。
「タケル、後方注意っ!」
リアの声が飛ぶ。
すぐさまタケルは地面を蹴り、側転で飛び退く。
その背後に、暗黒の斬撃が突き抜け、空を裂いた。
現れたのは、一際大きな黒炎騎士。
全身を包む鎧の紋章が、かつて魔王の右腕と呼ばれた者のものと一致していた。
「お前は……」
だが、その騎士は何も答えない。
代わりに、左手を掲げた。
空間がねじれ、そこに異様な模様を刻んだ黒い石版が浮かび上がる。
そして、それを“空に向かって掲げる”と――
――空が一瞬、軋んだ。
まるで、何かが“向こう側”と繋がったかのような、奇妙な感覚。
(……今の、なんだ?)
タケルの中に“地球の空”の記憶がよぎる。
剛が言っていた、空が濁るような違和感。
だが、それを考える暇はなかった。
黒炎騎士たちが一斉に襲い掛かってきたのだ。
「――まとめて斬るしかない!」
タケルの足元に魔法陣が浮かぶ。
「《剣陣・轟雷》!」
瞬間、地面から複数の剣状の雷が突き上がり、騎士たちの動きを一掃する。
爆音と閃光の中、鎧が砕け、影が霧散する。
だが、先ほどの“黒い石版”だけは、空中に留まり続けていた。
それを回収したのは、リアだった。
「これ……タケル、見て」
「これは……術式回路だな」
「ううん、ただの術式じゃない。これ……“星の門”の座標を書いてる」
「……!」
星の門。
それは、古の伝承において、“異なる星々を繋ぐ鍵”とされる幻の魔導具。
大昔、いにしえの文明が空に穴を開け、別世界と行き来していたという逸話に登場する言葉だった。
「まさか……本当に実在してるってのか」
「しかもこの術式、タケルがこっちに来たときに使った“鏡の揺らぎ”と似てる。……地球との接点が、意図的に操作されてる可能性がある」
タケルの脳裏に、剛の顔が浮かぶ。
(まさか……お前の方にも、“こっちの力”が流れてるのか?)
その夜、タケルとリアは王城へ戻り、報告のために書庫を訪れていた。
宰相ディラフと老魔術師ヨーゼフが、古文書を片手にふたりを迎える。
「やはり、“星の門”が動き始めておるのか……。あれは決して開いてはならぬものじゃ」
「なぜ?」
「門が開いたとき、かつてこの世界は一度“崩壊”しかけた。時空の境界が壊れ、魔王と呼ばれる者が“外側”の力を取り込んだのじゃ」
「外側……?」
「うむ。つまり、異なる星――地球の力を」
空気が張りつめた。
リアが震える声で問う。
「……では、もし今また門が開けば、魔王は“こっちの力”だけでは足りず、“地球の力”をも手に入れてしまうのでは……?」
「それが“完全なる復活”の条件かもしれん」
タケルは拳を握った。
「その前に止める。絶対に、あの門を開かせない」
「だが、止めるには門の場所、そして鍵が必要だ。お主が地球から来たように、地球にもまた“何か”が残されているはずじゃ」
「つまり……地球に“鍵”がある?」
「そうじゃ。お主の仲間――“剛”とやら。彼が持っているかもしれん。あるいは、近くに“継承者”がいる可能性もある」
星の門、地球との力の交錯、魔王の完全復活――
すべてが、繋がり始めていた。
夜。
タケルは、宿舎の自室にある古い鏡の前に立った。
手をかざすと、ふっと波紋が走る。
そして――
(……タケルさん?)
(剛か)
(こっちも、少しずつ変な気配が強まってきてる。都市にガルダス星人が潜り込んでる)
(やはり……こっちでは魔王の配下が、“星の門”を使おうとしてる)
(星の門……?)
(ああ。たぶん、それを動かす“鍵”が……お前のいる世界にある)
(……わかった。探してみる)
二人の意識が、少しだけ確かに結びついた。
戦場は別でも、目的は同じ。
守るべき世界と人があり、挑むべき災厄がある。
剣を研ぎながら、タケルは呟く。
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