双星の記憶(そうせいのきおく)

naomikoryo

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第3章:「二つの戦場」

第4話「封印の記録と剣の声」

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アリステリア王国・王立魔導院、禁書の間。

 それは王城の地下に隠された、一般の魔術師すら立ち入ることを禁じられた領域だった。

 闇に沈む石壁に、古代言語で刻まれた数百冊の書物が並ぶ。
 ろうそくの光がそれを照らし、煙の香りが空気を微かに汚していた。
 

「ここに、“星の門”に関する記録があるはずです」

 そう案内したのは、老魔導師ヨーゼフと、王女直属の学術官リア。
 タケルは重たい扉を抜け、静かに部屋の中心に足を踏み入れた。

 書庫というよりは、“封印”のような空間だった。


「これ……全部、禁書なのか?」

「はい。主に“異界との干渉”に関する記録や、過去に封印された存在との接触に関わるものです。多くは読むことすら禁じられてきました」

「なんで、そんな大事なものを隠す?」

「……怖いからですよ」
 

 リアの声には、ほんのわずかな震えがあった。

「この世界には、知ってはならないことがある。知られた瞬間、それは“現実”になる。だから、封じられてきた」
 

 タケルは、何も言わず頷いた。

 異世界で生きてきた彼には、そうした“沈黙の重さ”がよくわかる。
 ――真実はいつも、人を試す。

 
 リアが差し出した一冊の書物。
 それは、見開きの最初のページにたった一行だけ書かれていた。

「星の門は、異なる意志が出会うとき、再び開かれる」

 
「異なる意志……?」

「おそらく、“この世界の者”と“別世界の者”の接触のことです」

「……俺と、剛」

「はい。あなたたち二人が入れ替わったとき、門は開きかけた。けれど、完全には開かなかった。何かが“足りなかった”から」
 

 ページをめくっていくと、そこには門の構造や起動の条件、そしてかつて“門”が一度開いたとされる歴史の記述が現れる。

 
「……これは……」

 
 星の門は、千年前、一度だけ開かれた。
 そのとき、門を通じてやって来た“存在”が、封印された“魔王”の一部を持ち去った――

 その存在は、明らかに「ガルダス星」との関係を匂わせる記述だった。

 
「つまり、魔王の一部が……地球に持ち去られた?」

「その可能性が高いです。今、地球に現れている異星人たちが、それを求めて侵略を始めたのかもしれません」

「だったら……向こうでも、剛が動いてるはずだ」

 
 そのとき。

 タケルの背中で、“剣”がかすかに振動した。

 
「……?」

 腰に下げた《竜喰いの剣》――かつて魔王を討つために使われた伝説の武器。
 封印の後、力を失ったはずのその剣が、今、静かに呼吸しているかのように揺れている。

 
「リア……この剣、何か……反応してる」

「……もしかして……!」
 

 リアは焦ったように、剣の柄に手をかざした。

「――“声”が……聞こえる」

 
 瞬間、部屋の中心に幻影のような光が浮かび上がった。

 それは、一人の騎士の姿。

 銀の鎧に身を包み、額に刻印を持つ彼は、かつて剣に意志を宿した存在――《剣精レイヴ》だった。

 
「勇者タケルよ。再びこの世界に立ったか」

「……あんたは?」

「この剣を鍛えし者にして、記憶の守り人。我は“星の門”の封印者の一人だ」
 

 タケルとリアは息をのんだ。

「お前たちが開いた門。その先にあるのは、“世界の記憶”だ。かつてこの世界が何をしたのか、そして“何を失ったのか”」

 
「……俺たちが開いたのは、ただの出入口じゃないってことか」

「ああ。その門の向こうにあるのは、希望ではない。お前たちの“罪”だ」

 
 剣精レイヴの声は、どこか悲しげだった。
 

「タケル。魔王を倒すためには、再び門を開かねばならぬ。だが、同時に、“地球にある鍵”も必要となる」

「地球の……?」

「この世界から持ち出された“魔王の核”。それは今、地球のどこかに眠っている。ガルダス星の者どもは、それを手に入れようとしている」

「つまり、あいつらが求めてるのは……“俺たちの世界の闇”か」

「ああ。そしてその闇は、魔王をも超える存在を呼び起こす。気をつけろ、タケル」

 
 剣の光が、ゆっくりと消えていく。

 空気が静まり返ったとき、タケルの中に一つの決意が生まれていた。
 

「俺は、この剣で、もう一度世界を守る。今度は、地球のためでもあるんだ」

「……私も、支える。リアとして、そしてこの世界の魔導師として」

 
 二人は剣に手を添えた。

 再び動き出した“世界の記憶”。
 それは罪であり、希望であり、運命の分岐でもあった。

 
 夜。
 タケルは宿舎に戻り、剣を膝に置きながら、鏡の前に座った。

 
(……剛、聞こえるか)

 
 かすかな共鳴が返る。

 
(……ああ、聞こえてる)

(地球の中に、“魔王の核”があるらしい。そっちはどうだ?)

(俺の方も、ガルダス星人の行動が“探し物”中心になってる。座標を探ってるらしい)

(なら、やっぱり……すべては繋がってるんだな)
 

 ふたりは言葉を交わすごとに、確信を深めていた。

 世界はもう、別れてはいない。
 タケルの剣と剛の勇気が、再び一つになるその時まで、彼らは戦い続ける。
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