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第3章:「二つの戦場」
第8話「封印の記録と地球の名残」
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タケルは、王立魔導院の地下、中央記録庫にいた。
薄暗い光に照らされた石壁と金属の扉が、数百年分の歴史を静かに閉じ込めている。
ここは、魔王が封印された際の記録、星の門に関する失われた技術、そして異世界と地球との関係を断片的に記した書物が保管された、王国最深の機密区域だ。
「本当に……ここに、地球の痕跡が?」
隣を歩くリアが、長く美しい銀髪をかき上げながら頷いた。
「ええ。あなたが剣に“記憶”を受け取った後、魔導院の記録に眠っていた、禁書指定の文献が共鳴したの。
それは“他の世界の言葉”で書かれていた。つまり、地球語」
「地球語……」
「その文献の中に、“異なる世界の核”という言葉が何度も出てきたの。
そして、“その核は、かの青き星に埋められし”と」
タケルは言葉を飲み込む。
間違いない――それは、剛と自分がすでに念話で共有していた情報と一致していた。
魔王の核は、かつて星の門から地球に流れた。
そしてそれは、今――ガルダス星人によって回収されようとしている。
だが、それは“兵器”ではない。
核とは、記憶の結晶。
異世界の魔素が、地球の歴史や想念と融合して誕生した“怨念の記録”。
「……記録を、視覚化できるって本当か?」
「うん。魔導院の技術で、“記憶の結晶”を視覚映像として再現できる。
ただし、負担が大きすぎて普通の人間じゃ耐えられない。……けど、あなたならきっと」
「やるよ。今ここで逃げても、どうせ未来は変わらない」
リアが頷き、タケルを椅子に座らせる。
彼の前に置かれたのは、拳ほどの大きさの白銀の球体――
異世界にて長く封印されていた“記憶媒体”であり、かつて星の門が開かれた直後に収集された“情報の残滓”だった。
「投影開始」
リアの指先が魔術陣をなぞると、球体が微かに浮かび上がり、ゆっくりと光を放ち始めた。
空間に波紋のような幻影が広がり、タケルの視界がにわかに反転する。
――そして、そこに映し出されたのは、
かつての地球だった。
廃墟と化した都市。
高層ビル群が斜めに傾き、空を赤黒い雲が覆っている。
そこを歩く人々の姿はなかった。
だが、空中に渦を巻く“黒い光”が、確かに何かを呑み込んでいる。
ナレーションのように、かすかな声が響く。
「――これは、二千年前の地球の“記憶”」
「文明の衝突と、感情の暴走が“闇”を生んだ」
「それは形を持たず、意思も持たず、ただ“憎しみの色”だけを増幅させていった」
「そしてそれは、門を越えた――」
次に映ったのは、異世界の山岳地帯。
星の門と呼ばれる光の柱の中から、先ほどの“黒い渦”が流れ込んでくる。
それを受け止めるように現れた、ひとりの魔術師。
その顔には仮面があり、衣服には王国の紋章が刺繍されていた。
「……これ、魔王……?」
タケルの声が震える。
「違う。まだ“魔王”になる前の人間よ。
でも、彼はその黒い渦と接触し、……取り込まれてしまった」
幻影の中の魔術師が、空に向かって手を伸ばす。
その手から放たれたのは、光ではなく、**“記録”**だった。
まるでこの世界に自らの思念を書き残すかのように、彼の体が霧のように崩れながら、空間に染み込んでいく。
「……この記録を見ている者へ」
「魔王は、かつて人間だった。名は失われたが、記憶は残る」
「汝ら、同じ過ちを繰り返すな」
「この“記録”が再び門を通るとき、世界は終焉に向かう」
映像が消える。
魔術陣も、球体も、静かに力を失って床に落ちた。
タケルはしばらく黙っていた。
目の奥に焼き付いた、“記憶の渦”と呼ばれる存在。
「……魔王は、地球の記憶と交わった、人間だった」
「その可能性が高いわ。もしかしたら、ガルダス星人の祖先も“地球”に由来する存在なのかもしれない」
「だったら……」
タケルは鏡の前へ歩み出る。
「剛。聞こえるか?」
(ああ……ちょうどこっちも、動きがあった)
「こっちで見た。地球の昔の記憶――都市が滅びる映像。そこに、“闇”があった。
それが門を越えて、こっちに来た。……そして、魔王になった」
(……!)
「剛。お前の世界には、その“記憶の核”が残ってる。たぶん、それが魔王のもう片方。ガルダス星人は、それを探してる」
(分かった……こっちも全力で探す。京も……きっと力になる)
しばらく沈黙が続いたあと、剛が言った。
(タケルさん。……地球ってさ、壊れかけてたんだね、昔から)
「ああ。たぶん、それを止めるために、今、俺たちがいる」
鏡に映る剛の表情は、力強かった。
もはや、ただの引きこもり高校生ではない。
異世界で戦い、仲間を失い、そして立ち上がった“勇者”の顔だった。
「タケルさん。……ありがとう。こうして話せて、よかった」
「おう。またすぐ話そうぜ。次は、勝利報告だ」
鏡の光が収まる。
タケルは深く息をついた。
自分が地球に呼ばれた理由、剛が異世界に行くべきだった意味、
そして、今ここに存在する理由――すべてが、少しずつ“物語”として重なり合っていく。
窓の外には、満天の星空が広がっていた。
そのどこかに、かつて扉が開き、世界が交わった“傷跡”がある。
そして再び、傷は開きかけている。
けれど、今度こそ――
誰かが、それを止めなければならない。
それが、勇者の名を継ぐ者の使命なら――
「俺は、やる。最後まで」
薄暗い光に照らされた石壁と金属の扉が、数百年分の歴史を静かに閉じ込めている。
ここは、魔王が封印された際の記録、星の門に関する失われた技術、そして異世界と地球との関係を断片的に記した書物が保管された、王国最深の機密区域だ。
「本当に……ここに、地球の痕跡が?」
隣を歩くリアが、長く美しい銀髪をかき上げながら頷いた。
「ええ。あなたが剣に“記憶”を受け取った後、魔導院の記録に眠っていた、禁書指定の文献が共鳴したの。
それは“他の世界の言葉”で書かれていた。つまり、地球語」
「地球語……」
「その文献の中に、“異なる世界の核”という言葉が何度も出てきたの。
そして、“その核は、かの青き星に埋められし”と」
タケルは言葉を飲み込む。
間違いない――それは、剛と自分がすでに念話で共有していた情報と一致していた。
魔王の核は、かつて星の門から地球に流れた。
そしてそれは、今――ガルダス星人によって回収されようとしている。
だが、それは“兵器”ではない。
核とは、記憶の結晶。
異世界の魔素が、地球の歴史や想念と融合して誕生した“怨念の記録”。
「……記録を、視覚化できるって本当か?」
「うん。魔導院の技術で、“記憶の結晶”を視覚映像として再現できる。
ただし、負担が大きすぎて普通の人間じゃ耐えられない。……けど、あなたならきっと」
「やるよ。今ここで逃げても、どうせ未来は変わらない」
リアが頷き、タケルを椅子に座らせる。
彼の前に置かれたのは、拳ほどの大きさの白銀の球体――
異世界にて長く封印されていた“記憶媒体”であり、かつて星の門が開かれた直後に収集された“情報の残滓”だった。
「投影開始」
リアの指先が魔術陣をなぞると、球体が微かに浮かび上がり、ゆっくりと光を放ち始めた。
空間に波紋のような幻影が広がり、タケルの視界がにわかに反転する。
――そして、そこに映し出されたのは、
かつての地球だった。
廃墟と化した都市。
高層ビル群が斜めに傾き、空を赤黒い雲が覆っている。
そこを歩く人々の姿はなかった。
だが、空中に渦を巻く“黒い光”が、確かに何かを呑み込んでいる。
ナレーションのように、かすかな声が響く。
「――これは、二千年前の地球の“記憶”」
「文明の衝突と、感情の暴走が“闇”を生んだ」
「それは形を持たず、意思も持たず、ただ“憎しみの色”だけを増幅させていった」
「そしてそれは、門を越えた――」
次に映ったのは、異世界の山岳地帯。
星の門と呼ばれる光の柱の中から、先ほどの“黒い渦”が流れ込んでくる。
それを受け止めるように現れた、ひとりの魔術師。
その顔には仮面があり、衣服には王国の紋章が刺繍されていた。
「……これ、魔王……?」
タケルの声が震える。
「違う。まだ“魔王”になる前の人間よ。
でも、彼はその黒い渦と接触し、……取り込まれてしまった」
幻影の中の魔術師が、空に向かって手を伸ばす。
その手から放たれたのは、光ではなく、**“記録”**だった。
まるでこの世界に自らの思念を書き残すかのように、彼の体が霧のように崩れながら、空間に染み込んでいく。
「……この記録を見ている者へ」
「魔王は、かつて人間だった。名は失われたが、記憶は残る」
「汝ら、同じ過ちを繰り返すな」
「この“記録”が再び門を通るとき、世界は終焉に向かう」
映像が消える。
魔術陣も、球体も、静かに力を失って床に落ちた。
タケルはしばらく黙っていた。
目の奥に焼き付いた、“記憶の渦”と呼ばれる存在。
「……魔王は、地球の記憶と交わった、人間だった」
「その可能性が高いわ。もしかしたら、ガルダス星人の祖先も“地球”に由来する存在なのかもしれない」
「だったら……」
タケルは鏡の前へ歩み出る。
「剛。聞こえるか?」
(ああ……ちょうどこっちも、動きがあった)
「こっちで見た。地球の昔の記憶――都市が滅びる映像。そこに、“闇”があった。
それが門を越えて、こっちに来た。……そして、魔王になった」
(……!)
「剛。お前の世界には、その“記憶の核”が残ってる。たぶん、それが魔王のもう片方。ガルダス星人は、それを探してる」
(分かった……こっちも全力で探す。京も……きっと力になる)
しばらく沈黙が続いたあと、剛が言った。
(タケルさん。……地球ってさ、壊れかけてたんだね、昔から)
「ああ。たぶん、それを止めるために、今、俺たちがいる」
鏡に映る剛の表情は、力強かった。
もはや、ただの引きこもり高校生ではない。
異世界で戦い、仲間を失い、そして立ち上がった“勇者”の顔だった。
「タケルさん。……ありがとう。こうして話せて、よかった」
「おう。またすぐ話そうぜ。次は、勝利報告だ」
鏡の光が収まる。
タケルは深く息をついた。
自分が地球に呼ばれた理由、剛が異世界に行くべきだった意味、
そして、今ここに存在する理由――すべてが、少しずつ“物語”として重なり合っていく。
窓の外には、満天の星空が広がっていた。
そのどこかに、かつて扉が開き、世界が交わった“傷跡”がある。
そして再び、傷は開きかけている。
けれど、今度こそ――
誰かが、それを止めなければならない。
それが、勇者の名を継ぐ者の使命なら――
「俺は、やる。最後まで」
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