私の部下 ~マザコンでしたが、今では恋人で、夫です。

naomikoryo

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第18話 「ギャルママの恋愛トラブル、社長と大喧嘩」

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 金曜日の夕方。
 外回りから戻った私のスマホに、社長秘書・藤岡さんからのチャットが入っていた。

【藤岡】
至急、社長室へ来てください。
※「例の件」で社長、機嫌最悪です。

 

(……例の件?)

 少しイヤな予感を抱えつつ社長室へ行くと、そこには険しい表情をした五十嵐社長がいた。
 部屋の空気が――重い。冷たい。低気圧が充満してる。

「黒瀬くん。すまない、呼び出して」

「いえ……あの、何かありました?」

「……玲奈さんのことだ」

 その一言に、私は全身の筋肉がピキッと硬直するのを感じた。

「昨日の夜、彼女と喧嘩してね……」

 

***

 

 話を要約すると、こうだ。

 昨夜、ギャルママこと真木玲奈が社長の家に泊まりに行った。
 そこで“結婚”についての話題が出たらしい。

 ――しかも、自分たちの将来ではなく、陽翔の将来の“結婚相手”に美月(私)を推薦した件で。

 

「あの子に美月ちゃんみたいな嫁来たら最高じゃない?」
「社長も、義理の父親になるとかどう? うちら、家族になるとか」
「あ、でも陽翔の苗字が“黒瀬”になるのもアリじゃない?婿入り的な?」

 

「……あの人、酔ってたとはいえ、正気とは思えん」

 社長はこめかみを押さえていた。

「で、何て返したんですか?」

「“ふざけるな、結婚は当人同士の問題だ”って怒鳴ったよ。
 そしたら“あたしの息子にあたしの意見を無視する資格はない!”って返されて」

「……まごうことなきママ爆弾ですね」

 

 その後、玲奈さんはバッグを叩きつけて帰っていき、現在連絡を無視している状態らしい。

 

***

 

 「これは、真木にもいずれ伝わるだろう。
 君には先に伝えておくべきだと思って」

「……ありがとうございます」

「俺はあの人のこと、ちゃんと好きだったんだが……
 でも、あの夜、彼女が“あの子が幸せになれるなら、何でもする”って言った瞬間、
 なぜか“俺の隣にはもういられないのかもな”って思った」

「……」

 

 五十嵐社長は、少しだけ目を伏せて続けた。

「黒瀬くん。……君が真木とどうなっていくか、それはもう俺が口出しすべきことじゃない。
 でもひとつだけ伝えたい。
 “親が恋に破れた時、子どもはどう感じるのか”――それを、忘れないでくれ」

 

 その言葉は、私の胸にずっしりと落ちた。

 陽翔にとって、“母親”は絶対的な存在。
 その母が、恋に破れ、傷ついた時――彼の世界は、また一歩崩れるかもしれない。

 そしてその時、私は――

 彼の隣に、立てるのか。

 

***

 

 その夜、帰宅後のリビング。

 陽翔はカレーを煮込みながら、私にぽつりと尋ねてきた。

「……主任。ママ、今日なんか変でした?」

「……え?」

「連絡しても、“今日は話す気分じゃない”って返ってきたんです。
 あの人、俺に対してそんな態度、珍しくて」

「……そうなんだ」

 私は嘘をついた。
 彼に、“母の恋が破れた”ことを、まだ伝えるべきじゃない気がした。

 

「主任は、親が恋してるのって、どう思いますか?」

 陽翔のその質問に、私は一瞬、答えを見失った。

「……正直に言うと、ちょっと戸惑うかな。でも、“幸せならいい”って思えるようになりたい。
 子どもとしてじゃなくて、一人の人間として、親を見るって、そういうことじゃないかな」

 

 彼はしばらく黙ったあと、小さく頷いた。

「……なんか、主任って、やっぱりすごいです」

「いやいや、急に褒めるのやめて。気持ち悪いって思うでしょ」

「……思わないです。むしろ、“主任が好き”って気持ち、また強くなりました」

 その言葉に、私は何も返せなかった。

 

 カレーのいい匂いが、鍋からふわりと立ち上る。
 それが、なぜか涙が出そうなほど優しくて、私は思わずキッチンの方を見た。

 

 この子が、傷つくかもしれない未来を想像してしまって。
 その時、自分が何を守れるのか、不安でたまらなかった。

 

(つづく)
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