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出席番号10番:中村 海翔(なかむら かいと)
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俺の名前は中村海翔(なかむら かいと)。
2年A組、出席番号10番。部活は水泳部、専門は自由形。
昔から泳ぐのが好きだった。水の中にいると、余計なことを考えなくて済む。水をかく感覚、息継ぎのタイミング、ゴールまでの距離——そういうことだけに集中していると、世界がシンプルになる。
でも、最近は水の中にいても、どうしても考えてしまうことがある。
それは——佐々木美空(ささき みく)のこと。
◆水泳一家に生まれて
俺の家は、いわゆる水泳一家だ。
親父は元オリンピック代表候補だったスイマーで、今はコーチをやっている。母親も学生時代は競泳選手で、今はスイミングスクールのインストラクターをしている。
「海翔」という名前も、水にちなんでつけられたらしい。
物心ついた時にはもう水に親しんでいて、気づいたら泳ぐのが当たり前になっていた。
小学校の頃は、何の疑問もなく水泳を続けていた。でも、中学に入った頃から、だんだんプレッシャーを感じるようになった。
「お前なら全国に行ける」
親父がよく言っていた言葉。プレッシャーをかけるつもりはないのかもしれない。でも、俺には「やらなきゃいけない」という強制力のある言葉に聞こえた。
泳ぐことは嫌いじゃない。でも、本当に俺は心から水泳が好きなのか?
そう思うことが増えてきた。
◆水の外の世界、美空の存在
そんなモヤモヤを抱えている中、俺は最近、気になる存在ができた。
それが、佐々木美空だ。
美空は、保育士の母親の影響で子どもが好きで、放課後にはボランティアで児童館に通っているらしい。いつも優しくて、クラスの誰にでも気さくに話しかける。
最初は特に意識してなかった。ただのクラスメイト。
でも、ある時、美空と二人きりになったことがあった。
◆美空の言葉が、俺を変えた
夏の放課後、部活帰りに俺は一人で購買の前にいた。喉が渇いて、水を買おうとしたんだけど、財布を開けたら小銭が足りなくてさ。
「うわ、最悪……」
そうつぶやいた時、後ろから声がした。
「どうしたの?」
振り向くと、美空が立っていた。
「いや、ジュース買おうと思ったら金が足りなくて」
「ふふっ、そんなこと?」
そう言って、美空は俺の前に100円玉を差し出した。
「ほら、貸してあげる」
「え、いや、いいよ。そんなの」
「遠慮しないの。あとで返してくれればいいから」
そう言われて、俺は結局その100円を借りて、スポーツドリンクを買った。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして。でも……」
「ん?」
「中村くんって、普段クールだけど、意外とそういうところ抜けてるよね」
美空はクスクス笑いながら言った。
それを聞いた時、なんだか変な気分になった。
普段、俺は周りから「ストイック」とか「冷静」とか言われることが多い。でも、美空はそんな俺を「抜けてる」と言った。
なんか、それが妙に心地よかった。
◆俺の「今」
俺は、ずっと水泳のことしか考えてこなかった。
でも、美空と話してると、なんかそれ以外のことを考える余裕ができる。
「俺、水泳が好きなのかな」
この間、美空にふとそんなことを言った。
すると、美空は少し考えてから、優しく微笑んだ。
「好きかどうかなんて、無理に決めなくてもいいんじゃない?」
「……そうなのか?」
「うん。今はまだわからなくても、そのうち答えが出るかもしれないよ」
美空の言葉は、不思議とすっと心に入ってきた。
俺はずっと、「泳ぐことに意味があるのか」とか「親の期待に応えないといけない」とか、そういうことばかり考えてた。
でも、美空の言葉を聞いて、初めて「ただ泳ぐのが楽しい」と思えた気がする。
水泳も、美空のことも——俺の気持ちは、まだはっきりとはわからない。
でも、それでいいのかもしれない。
答えを焦らず、今はただ、目の前のことを大切にしよう。
2年A組、出席番号10番。部活は水泳部、専門は自由形。
昔から泳ぐのが好きだった。水の中にいると、余計なことを考えなくて済む。水をかく感覚、息継ぎのタイミング、ゴールまでの距離——そういうことだけに集中していると、世界がシンプルになる。
でも、最近は水の中にいても、どうしても考えてしまうことがある。
それは——佐々木美空(ささき みく)のこと。
◆水泳一家に生まれて
俺の家は、いわゆる水泳一家だ。
親父は元オリンピック代表候補だったスイマーで、今はコーチをやっている。母親も学生時代は競泳選手で、今はスイミングスクールのインストラクターをしている。
「海翔」という名前も、水にちなんでつけられたらしい。
物心ついた時にはもう水に親しんでいて、気づいたら泳ぐのが当たり前になっていた。
小学校の頃は、何の疑問もなく水泳を続けていた。でも、中学に入った頃から、だんだんプレッシャーを感じるようになった。
「お前なら全国に行ける」
親父がよく言っていた言葉。プレッシャーをかけるつもりはないのかもしれない。でも、俺には「やらなきゃいけない」という強制力のある言葉に聞こえた。
泳ぐことは嫌いじゃない。でも、本当に俺は心から水泳が好きなのか?
そう思うことが増えてきた。
◆水の外の世界、美空の存在
そんなモヤモヤを抱えている中、俺は最近、気になる存在ができた。
それが、佐々木美空だ。
美空は、保育士の母親の影響で子どもが好きで、放課後にはボランティアで児童館に通っているらしい。いつも優しくて、クラスの誰にでも気さくに話しかける。
最初は特に意識してなかった。ただのクラスメイト。
でも、ある時、美空と二人きりになったことがあった。
◆美空の言葉が、俺を変えた
夏の放課後、部活帰りに俺は一人で購買の前にいた。喉が渇いて、水を買おうとしたんだけど、財布を開けたら小銭が足りなくてさ。
「うわ、最悪……」
そうつぶやいた時、後ろから声がした。
「どうしたの?」
振り向くと、美空が立っていた。
「いや、ジュース買おうと思ったら金が足りなくて」
「ふふっ、そんなこと?」
そう言って、美空は俺の前に100円玉を差し出した。
「ほら、貸してあげる」
「え、いや、いいよ。そんなの」
「遠慮しないの。あとで返してくれればいいから」
そう言われて、俺は結局その100円を借りて、スポーツドリンクを買った。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして。でも……」
「ん?」
「中村くんって、普段クールだけど、意外とそういうところ抜けてるよね」
美空はクスクス笑いながら言った。
それを聞いた時、なんだか変な気分になった。
普段、俺は周りから「ストイック」とか「冷静」とか言われることが多い。でも、美空はそんな俺を「抜けてる」と言った。
なんか、それが妙に心地よかった。
◆俺の「今」
俺は、ずっと水泳のことしか考えてこなかった。
でも、美空と話してると、なんかそれ以外のことを考える余裕ができる。
「俺、水泳が好きなのかな」
この間、美空にふとそんなことを言った。
すると、美空は少し考えてから、優しく微笑んだ。
「好きかどうかなんて、無理に決めなくてもいいんじゃない?」
「……そうなのか?」
「うん。今はまだわからなくても、そのうち答えが出るかもしれないよ」
美空の言葉は、不思議とすっと心に入ってきた。
俺はずっと、「泳ぐことに意味があるのか」とか「親の期待に応えないといけない」とか、そういうことばかり考えてた。
でも、美空の言葉を聞いて、初めて「ただ泳ぐのが楽しい」と思えた気がする。
水泳も、美空のことも——俺の気持ちは、まだはっきりとはわからない。
でも、それでいいのかもしれない。
答えを焦らず、今はただ、目の前のことを大切にしよう。
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