青春高校2年A組:それぞれの未来(アオハル・シリーズ)

naomikoryo

文字の大きさ
68 / 166

『内田陽翔と大山さくら~ちょっと空回りな僕たちは~』第1話:「空回り男子、花びら女子」

しおりを挟む
俺の名前は内田陽翔(うちだ はると)。
2年A組、出席番号11番。
母子家庭で育ったせいか、よく「しっかりしてるよね」なんて言われる。
けど、本当はそんなことない。ただ、必要に迫られて覚えただけだ。

小学生の頃から、家の電気代を気にしていた。
中学になってからは、スーパーのチラシを見るのが日課だったし、
今では週に三回、コンビニでアルバイトをしている。

「今どき高校生で、そんなに節約してどうするの?」と笑われたこともある。
でも、俺にとっては笑いごとじゃない。

母さんはいつも笑ってるけど、
その裏でどれだけ我慢してるか、俺は知ってるから。

そんな生活の中で、学校は――正直、ちょっとだけ肩の力を抜ける場所だ。

授業を聞いて、ノートを取り、たまに友達と昼飯を食べる。
そこには“節約”も“家計簿”もなくて、俺はただの高校生でいられる。

……とはいえ。
最近、どうしても気になる存在ができてしまった。

大山さくら。
出席番号は24番、俺の十人以上後ろ。
だから席も離れてて、普段はあまり話さない。

話さない、どころか――
彼女は、あまり誰とも話していない。

彼女のことを、最初に意識したのは、美術の授業だった。

写生の時間、誰よりも静かにスケッチブックと向き合っている彼女の姿が、ふと目に留まった。

その目線は、真剣で、どこか怯えてるようでもあって。
でも、描かれた線はすごくやわらかくて、繊細だった。

(……うまいな)

それが第一印象だった。

それから、気づけば目で追うようになった。
休み時間、窓際で一人本を読んでる姿。
授業中、前髪を指で直す仕草。
図工室から出てくる時の、ちょっとだけほっとした表情。

(……あの子は、何を考えてるんだろう)

声に出せば気持ちがバレそうで、言えなかった。
ただ、気づけば彼女のことばかり考えていた。

ある日、下校時刻が近い教室で、偶然彼女とふたりきりになった。

……いや、正確には“俺が忘れ物を取りに来た”だけなんだけど。

静かな教室。
夕方の光が窓から差し込んで、彼女のスケッチブックのページが、ふわっとめくれていた。

(いまだ……!)

何を“いま”なのか、自分でもよくわからないまま、俺は声をかけた。

「……それ、絵?」

彼女は、ビクッと肩を揺らした。
こっちを見て、驚いたような、困ったような表情。

「……うん」

たった一言。
でも、その声が耳に残った。

「……あ、ごめん。いきなり話しかけて。驚かせたよね。
なんか、すごく集中してたみたいだから」

「……ううん、大丈夫」

それだけ言って、彼女はスケッチブックを閉じた。
表紙には、桜の花びらが描かれていた。

「……それ、オリジナル?」

「え?」

「その表紙。すごく綺麗だなって」

彼女は少し目を見開いてから、また視線を逸らして、小さくうなずいた。

「ありがとう……」

それ以上、言葉は続かなかった。

俺も、それ以上話しかけることができなかった。

なにか、言いたいのに。
なにか、伝えたいのに。
言葉が、喉の奥で空回って、出てこない。

帰り道、コンビニのバイトに向かう途中で、自分に呆れた。

(あーもう、なんなんだよ俺……!)

もっとちゃんと話せばよかった。
もっと自然に、「絵、見せてよ」とか言えたはずだ。
でも、いざ目の前にすると、頭が真っ白になる。

俺の中の「しっかり者」なんて、こんなもんだった。

けど、変な話だけど――
彼女の“ありがとう”って言葉が、なんかずっと頭に残ってる。

小さくて、けれどちゃんと届いた言葉。

あれは、
俺の今日一日を、ちょっとだけ温かくしてくれた。

夜、バイトの休憩中。
レジ横の紙ナプキンに、何気なくペンを走らせた。

「大山さんの絵、もっと見てみたい」

そんな言葉を書いて、すぐに丸めて捨てた。

言えるわけがない。
でも、たしかに“そう思った”。

翌朝。
教室で、彼女の席の上に色鉛筆のケースが置かれていた。

ピンク、グレー、やわらかい青。
見慣れない色の並びに、なんとなく目を引かれる。

彼女は、静かに椅子に座って、それを一つひとつ丁寧に並べていた。

(……いつか、話せたらいいな)

今度は、空回らずに。
ちゃんと、届くように。

そう思いながら、俺は今日もひとつ深呼吸した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...