青春高校2年A組:それぞれの未来(アオハル・シリーズ)

naomikoryo

文字の大きさ
163 / 166

『佐久間 正人~春は、生徒たちだけのものじゃない~』第7話:「あの人じゃなきゃ、ダメなんです」

しおりを挟む
先生と初めてカフェに行ったあの日から、
ずっと、心の奥がぽかぽかしていた。

楽しいとか、うれしいとか、そういう単純な言葉じゃない。

あったかい。
安心する。
ずっとこのまま、ここにいられたらいいのにって思う。

そんな気持ちを、私は知ってしまった。

(やっぱり、先生は特別だ)

何度も、そう思った。

**

最初は、ただ「優しそうな人だな」って思っただけだった。
合コンの場に馴染めなくて、ぽつんと座っていた先生。

私、ちょっとだけ酔ってて、ふらっと後ろによろけたとき――
誰よりも自然に、すぐに手を差し伸べてくれた。

強くもなく、弱くもなく。
ただ、ちゃんと私を支えてくれる感じ。

(……ああ、こういうの、久しぶりだな)

あの瞬間、心のどこかが、すっとほどけた。

**

私の父親は、私が小学校に上がる前に亡くなった。

病気だった。
あっという間だった。

母は必死に働いてくれたけど、
家族の中から「お父さん」という存在が消えてしまったことは、
私の中にぽっかりと穴を開けた。

友達が「お父さんとキャッチボールした」とか、
「週末は家族で遊園地行った」とか言うたびに、
私は笑ってごまかした。

(いいな)

(羨ましいな)

でも、それを口にすることはできなかった。

**

それからずっと。
私は“誰かに頼りたい”って思う気持ちを、どこかにしまい込んできた。

恋愛も何度かした。
同世代の男の子たちは、みんな楽しかったけど――

どこか、物足りなかった。

ちょっとしたケンカで拗ねたり、
わがままを言ったり、
「オレの方が辛い」とか言い出したり。

(……違う)

私が欲しかったのは、
「守ってくれる誰か」だった。

自分勝手じゃなくて、
ちゃんと受け止めてくれる人。

でも、そんな人には、なかなか出会えなかった。

**

だから――

あの合コンで出会った先生に、
私は自然と惹かれてしまったんだと思う。

地味で、控えめで、服のセンスも正直イマイチだけど。

でも、
先生の隣にいると、心が落ち着く。

焦らなくていい。
無理に笑わなくてもいい。

そんな風に感じさせてくれる人なんて、
これまで一度もいなかった。

**

文化祭に行ったときも、思った。

先生は、教室の中では誰よりも静かで、
だけど確かに、生徒たちから信頼されていた。

派手なことはしない。
でも、ちゃんとそこにいる。

その存在が、みんなを支えている。

(ああ、やっぱり――)

私は確信した。

私は、
「この人じゃなきゃ、ダメなんだ」って。

**

でも、現実は簡単じゃない。

先生は40歳。私は25歳。
15歳も歳が離れている。

周りから見たら、
きっとおかしいって思われるかもしれない。

(そんなの、気にしない)

心の中で、何度も自分に言い聞かせた。

だけど、やっぱり怖かった。

もし先生が、
「子供扱い」しかしなかったら。

もし先生が、
「年の差」を理由に距離を置こうとしたら。

それを考えるだけで、胸がぎゅっと痛くなった。

**

だから――

私は、ちゃんと気持ちを伝えなきゃって思った。

LINEじゃなくて、
軽い冗談でもなくて。

ちゃんと、目を見て、言わなきゃって。

「先生、私、先生のこと――」

言葉にしようとすると、喉が震える。

こんなに緊張するの、初めてだった。

でも、
この想いだけは、絶対に嘘じゃない。

年齢とか、立場とか、そんなこと全部関係ない。

私は――

佐久間先生が、好き。

それだけは、揺るがなかった。

**

次の休み。
私は、先生とふたりで散歩に行く。

川沿いの遊歩道。
ゆっくり歩きながら、たぶん、話をする。

その時、
私はちゃんと伝えようと思う。

怖いけど。
ドキドキするけど。

でも、もう逃げたくない。

だって私は――

先生と一緒に、
これからを歩いていきたいんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...