25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第四十八話:「理奈さんが“最初の読者”でいてくれたこと――それが、僕の一番の勲章です」

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原稿を提出してから三日目。
理奈さんからのメッセージは、夕方の静かな時間に届いた。

『原稿、読ませてもらいました。
とても素敵な物語でした。
……こんなふうに誰かを愛せるあなたを、
私が信じてよかったって、心から思っています。』

『この小説を、
一番最初に読ませてくれてありがとう。』

読んだ瞬間、
指の先から背筋の奥まで、熱い何かが通り抜けた。

(……読んでくれた)

ただそれだけのことが、
どうしてこんなに嬉しいんだろう。

**

ずっと思っていた。
この小説は、理奈さんに向けて書いたのだと。

恋愛を知らない僕が、
誰かを好きになるという気持ちを学ぶために、
そして、
その“好き”がどんな形で本物になるのかを、探すために。

気がつけば、
書いていたのは「彼女との恋」じゃなかった。

“彼女を想うということ”のすべてだった。

**

彼女が最初の読者になってくれたこと。
それは、どんな賞をもらうよりも、
何倍も、何十倍も誇らしい勲章だった。

(ありがとう、理奈さん)

胸の中で静かに呟く。

“あなたを想って書いた物語を、
あなたが美しいと感じてくれた”

たったそれだけで、
作家になってよかったと思えた。

**

その翌日、
出版社の小会議室で、担当編集者の吉田さん(清美)を中心に、
僕の原稿についての編集会議が開かれた。

理奈さんも、そこに出席していた。

社員たちの前で、初めて“作家”として紹介される。
胸が高鳴るのを、なんとか表に出さないようにして席についた。

理奈さんは、編集者としての顔をしていた。

けれど、時折、
ちらりとこちらを見るその目が、
あの夜のメッセージと同じ光を宿していて、
それだけで僕の中のすべてが報われるような気がした。

**

「とても良い作品だと思いました」
そう言ってくれたのは、営業部の佐久間凜華さんだった。

「文章はまだ粗い部分もありますが、
想いの強さとキャラクター造形は抜群。
これ、女性読者に刺さりますよ。
年上女性と年下男性の関係性って、
今一番ウケるテーマですし」

隣で清美さんがうんうんと頷いていた。

「SNSとの相性も良さそうです。
告白シーンとか、台詞だけ切り取ってバズりそうですし。
何より、リアリティがある。
きっと誰かの“現実”に寄り添える作品になります」

**

その言葉に、
少しだけ照れながら目を伏せる。

(現実、か)

そうだ。
これはフィクションだけれど、
現実の僕の気持ちを詰め込んだ。

誰よりも“彼女”を想って書いた。

**

「それで……」と理奈さんがゆっくり言葉を継いだ。

「この作品は、弊社の新レーベル立ち上げ第一弾として刊行します。
恋愛小説レーベル“Rémiel(レミエル)”――
“誰かを想う物語だけを届ける場所”として、
最初にふさわしい一冊だと思いました」

“Rémiel(レミエル)”――

それはフランス語で「慈しみ」と「癒し」の意味を含む名前だと、
以前の雑談の中で、理奈さんがふと口にしていた名前だった。

(……僕のために、作ってくれたんだ)

言葉にできなかったけど、
その意味を、ちゃんと受け取った。

彼女は僕の“初めて”に、
誇りを持たせようとしてくれている。

**

会議が終わり、皆が部屋を出て行ったあと、
理奈さんが最後に僕の横に来て、
小さく囁くように言った。

「――素晴らしい物語だったわ。
あなたが、あれほど誰かをまっすぐに想える人だったなんて……
正直、少し、嫉妬したのよ。小説の中の“彼女”に」

驚いて彼女の顔を見ると、
少しだけ、イタズラっぽく笑っていた。

(……反則だって、ほんとに)

そんな顔されたら、
もう何も言えなくなるじゃないか。

**

でも、そのあと、
彼女がほんの少し、視線を落として小さく呟いた。

「ねえ……あなたの“これから”に、
私がしてあげられることって、何かあるかしら」

その声は、震えていた。

まるで、
恋を始めたばかりの少女みたいな――
そんな、小さな勇気のかけらのような声だった。

僕は、ただ頷くことしかできなかった。

でも、
その一言が、
僕の人生にとっての“未来への扉”だったと、
今も確信している。
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