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第四十七話:「“これからのあなた”に、私がしてあげられることってなんだろう」
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一日が終わり、
社内が静まり返った夜八時過ぎ。
私のデスクの上に、
一冊の印刷された原稿用紙の束が置かれていた。
新田純の新作――恋愛小説。
彼が初めて“本気”で書いた恋の物語。
タイトルは、まだ仮題だという。
でも、原稿の冒頭には、たった一行だけ、こんな言葉が添えられていた。
『誰かの人生に、触れたくて書いた。』
その“誰か”が誰なのか。
考えるまでもなかった。
**
私の目の前に積まれた原稿は、
整然と並んだ文章の中に、
彼の真っ直ぐすぎるほどの心が、静かに宿っていた。
語り手は年上の女性。
彼女は編集者で、
過去に愛する人を失い、
恋という感情に距離を置いて生きてきた。
そこに現れるのは――
小説家志望の、年下の青年。
物語が進むほどに、
“彼女の目線”に自分が溶けていくのがわかる。
あの子の筆致は、荒削りだけど情熱的で、
どこか誠実すぎて、嘘がつけない人間の体温があった。
**
10ページも進まないうちに、
私は、自分が泣きそうになっていることに気づく。
それは、恋の展開が切ないからじゃない。
彼の目を通して描かれる“私”が、
どこまでも綺麗に、優しく、そして誇らしく存在していたからだ。
(私……こんなふうに見えてたのね)
あの子の目には、
私はいつも凛としていて、
静かに微笑んで、
時に不器用で、
でも、誰よりも強く、優しく見えていたらしい。
そんな“フィクション”の中に、
私は生まれて初めて、
自分という人間の“価値”を見た気がした。
(こんなにも……私を見てくれていたんだ)
**
物語の終盤。
年上の彼女は、
年下の彼の言葉を信じられずに、距離を取ろうとする。
でも彼は、ただ一言だけ、こう言う。
「あなたが歩いてきた全部を、
美しいって思える人間でいたい。
そう思えるほど、あなたのことが好きです」
その言葉に、
紙面越しに心を撃ち抜かれた気がした。
**
あの子の“好き”は、
何かを求めるものじゃない。
手に入れるためのものでもない。
ただ、そこにある存在を、
尊くて、眩しくて、
壊したくないと思う気持ちそのもの。
私は、
そんなふうに誰かを想ったことがあっただろうか。
(……私、また恋を教えられてる)
私は彼に恋を教えているつもりだった。
擬似的でも、経験としてでも、
年上として導いているつもりだった。
でも違った。
私は、この子から“愛されるということ”を教えられていた。
**
原稿を読み終えたとき、
ふと、彼の笑顔が浮かんだ。
少し照れたように笑うとき。
何かを黙って頷いて聞いているとき。
そのどれもが、
今はもう愛しくて仕方がない。
彼の“これから”を見たいと思った。
もっと小説を書いて、
もっとたくさんの読者に届いて、
きっといつか、彼は“誰かの人生を変える物語”を書ける人になる。
そうなったとき、
私が隣にいられるなら――
どれだけ幸せだろう。
(……私に、あなたの“これから”を守らせて)
それはきっと、恋ではなく、
誓いのような感情だった。
**
原稿に、そっと手を置く。
「すばらしい作品です」とだけ言えば、
それでいいかもしれない。
でも今の私は、
編集者じゃなくて――
ただ一人の“女”として、
彼の隣に立ちたいと思っている。
だからメッセージには、こう打ち込んだ。
『原稿、読ませてもらいました。
とても素敵な物語でした。
……こんなふうに誰かを愛せるあなたを、
私が信じてよかったって、心から思っています。』
『この小説を、
一番最初に読ませてくれてありがとう。』
送信ボタンを押したあと、
深呼吸をしてから椅子を立った。
この夜を越えたら、
きっと私はもう――
“彼の隣にいる未来”から、目を逸らさなくなる。
社内が静まり返った夜八時過ぎ。
私のデスクの上に、
一冊の印刷された原稿用紙の束が置かれていた。
新田純の新作――恋愛小説。
彼が初めて“本気”で書いた恋の物語。
タイトルは、まだ仮題だという。
でも、原稿の冒頭には、たった一行だけ、こんな言葉が添えられていた。
『誰かの人生に、触れたくて書いた。』
その“誰か”が誰なのか。
考えるまでもなかった。
**
私の目の前に積まれた原稿は、
整然と並んだ文章の中に、
彼の真っ直ぐすぎるほどの心が、静かに宿っていた。
語り手は年上の女性。
彼女は編集者で、
過去に愛する人を失い、
恋という感情に距離を置いて生きてきた。
そこに現れるのは――
小説家志望の、年下の青年。
物語が進むほどに、
“彼女の目線”に自分が溶けていくのがわかる。
あの子の筆致は、荒削りだけど情熱的で、
どこか誠実すぎて、嘘がつけない人間の体温があった。
**
10ページも進まないうちに、
私は、自分が泣きそうになっていることに気づく。
それは、恋の展開が切ないからじゃない。
彼の目を通して描かれる“私”が、
どこまでも綺麗に、優しく、そして誇らしく存在していたからだ。
(私……こんなふうに見えてたのね)
あの子の目には、
私はいつも凛としていて、
静かに微笑んで、
時に不器用で、
でも、誰よりも強く、優しく見えていたらしい。
そんな“フィクション”の中に、
私は生まれて初めて、
自分という人間の“価値”を見た気がした。
(こんなにも……私を見てくれていたんだ)
**
物語の終盤。
年上の彼女は、
年下の彼の言葉を信じられずに、距離を取ろうとする。
でも彼は、ただ一言だけ、こう言う。
「あなたが歩いてきた全部を、
美しいって思える人間でいたい。
そう思えるほど、あなたのことが好きです」
その言葉に、
紙面越しに心を撃ち抜かれた気がした。
**
あの子の“好き”は、
何かを求めるものじゃない。
手に入れるためのものでもない。
ただ、そこにある存在を、
尊くて、眩しくて、
壊したくないと思う気持ちそのもの。
私は、
そんなふうに誰かを想ったことがあっただろうか。
(……私、また恋を教えられてる)
私は彼に恋を教えているつもりだった。
擬似的でも、経験としてでも、
年上として導いているつもりだった。
でも違った。
私は、この子から“愛されるということ”を教えられていた。
**
原稿を読み終えたとき、
ふと、彼の笑顔が浮かんだ。
少し照れたように笑うとき。
何かを黙って頷いて聞いているとき。
そのどれもが、
今はもう愛しくて仕方がない。
彼の“これから”を見たいと思った。
もっと小説を書いて、
もっとたくさんの読者に届いて、
きっといつか、彼は“誰かの人生を変える物語”を書ける人になる。
そうなったとき、
私が隣にいられるなら――
どれだけ幸せだろう。
(……私に、あなたの“これから”を守らせて)
それはきっと、恋ではなく、
誓いのような感情だった。
**
原稿に、そっと手を置く。
「すばらしい作品です」とだけ言えば、
それでいいかもしれない。
でも今の私は、
編集者じゃなくて――
ただ一人の“女”として、
彼の隣に立ちたいと思っている。
だからメッセージには、こう打ち込んだ。
『原稿、読ませてもらいました。
とても素敵な物語でした。
……こんなふうに誰かを愛せるあなたを、
私が信じてよかったって、心から思っています。』
『この小説を、
一番最初に読ませてくれてありがとう。』
送信ボタンを押したあと、
深呼吸をしてから椅子を立った。
この夜を越えたら、
きっと私はもう――
“彼の隣にいる未来”から、目を逸らさなくなる。
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