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67)ねこまどの未来、二人の未来
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1
「ミネコさん、ちょっといいかしら?」
昼過ぎのねこまど。
ランチタイムの忙しさもひと段落し、猫たちもお客さんもまどろんでいる頃――。
オーナー・川島静(しず)は、カウンターで紅茶を淹れながら、静かに話し始めた。
「……なんですか、改まって」
「ええ。実は、あなたにこの店を譲りたいの」
「……え?」
思ってもみなかった言葉に、峰子(みねこ)は紅茶を飲む手を止めた。
2
「……お店を譲るって、どういうことですか?」
「そのままの意味よ」
オーナーは 紅茶のカップをゆっくりと置き、峰子の目をまっすぐに見つめる。
「クラウドファンディングで集まったお金の中から、300万円を使って、あなたにこの店の権利を譲渡したいの」
「……!!」
「私がここを始めたのは、もう何年も前のこと」
「ええ……」
「このお店は私にとって大切な場所だけど……今、本当にこの店を必要としているのは、あなたじゃないかしら?」
「……」
静かに告げられたその言葉に、峰子の胸がじんわりと熱くなった。
3
「もちろん、突然のことで戸惑うかもしれないわね」
「……」
「でも、私はあなたならこの店を守れると信じているの」
「オーナー……」
「あなたは、猫たちを心から愛している」
「……」
「そして、お客様にも、スタッフにも、誠実に向き合っているわ」
「……私が、この店を……」
峰子は ゆっくりと店内を見渡した。
日向ぼっこをしている猫たち。
猫と触れ合っているお客さんの柔らかい笑顔。
カウンターの奥で作業をしている昭人(あきと)の後ろ姿。
(……ここは、私にとってかけがえのない場所)
そして――。
(この場所を、守り続けたい)
「……やらせてください」
峰子は まっすぐにオーナーを見た。
「私、この店を引き継ぎます!」
「……ありがとう、ミネコさん」
オーナーは 優しく微笑んだ。
4
その夜――。
「……なぁ、峰子さん」
「ん?」
閉店後の店内で、昭人が 少し照れくさそうに峰子を呼んだ。
「……もう、“さん”はいらないって言ったでしょ」
「……そ、そうだけど!」
昭人は 少し顔を赤くしながら、ため息をついた。
「……俺、決めた」
「?」
「俺は、これからも“ねこまど”にいる」
「……!」
「バイトじゃなくて、ちゃんと“ここを守る人”として」
「……昭人……」
5
「俺、ずっとここが好きだった」
「……」
「最初は、ただのバイトのつもりだったけど……気づいたら、猫たちのことも、みんなのことも、本気で大切に思うようになってた」
「……」
「だから、これからもずっとここにいたい」
昭人は 真っ直ぐに峰子を見つめる。
「そして――」
「俺は、恋人としても、峰子のそばにいたい」
「……!!」
「これからも一緒に、ねこまどを守っていきたい」
「……」
峰子は 驚きと喜びが入り混じった表情で、昭人を見つめた。
6
「……本当に?」
「本気だよ」
「……私、10歳も年上よ?」
「関係ない」
「私、頑固だし、面倒くさいし、猫みたいに気まぐれよ?」
「知ってる」
「……本当にいいの?」
「むしろ、俺にとってはそれがいい」
「……」
峰子は くすっと笑った。
「……じゃあ、よろしくね」
「……ああ」
二人は、そっと手を重ねた。
7
「にゃ!(よし! これで決まり!)」
「にゃん!(ずっと仲良くするんだぞ!)」
「にゃぁ~!(もうラブラブすぎて見てられない!)」
「……はっ!?」
峰子は、猫たちの声に驚いた。
(今……私、猫たちが“ありがとう”って言ってるのが、聞こえた……!?)
初めて、猫たちの感謝の言葉に気づいた瞬間だった。
「……ありがとう」
「にゃ!(いいってことよ!)」
「にゃん!(これからも、みんなでねこまどを守ろうな!)」
そして――。
二人は 猫たちと共に、これからも“ねこまど”を守っていくことを誓った。
「ミネコさん、ちょっといいかしら?」
昼過ぎのねこまど。
ランチタイムの忙しさもひと段落し、猫たちもお客さんもまどろんでいる頃――。
オーナー・川島静(しず)は、カウンターで紅茶を淹れながら、静かに話し始めた。
「……なんですか、改まって」
「ええ。実は、あなたにこの店を譲りたいの」
「……え?」
思ってもみなかった言葉に、峰子(みねこ)は紅茶を飲む手を止めた。
2
「……お店を譲るって、どういうことですか?」
「そのままの意味よ」
オーナーは 紅茶のカップをゆっくりと置き、峰子の目をまっすぐに見つめる。
「クラウドファンディングで集まったお金の中から、300万円を使って、あなたにこの店の権利を譲渡したいの」
「……!!」
「私がここを始めたのは、もう何年も前のこと」
「ええ……」
「このお店は私にとって大切な場所だけど……今、本当にこの店を必要としているのは、あなたじゃないかしら?」
「……」
静かに告げられたその言葉に、峰子の胸がじんわりと熱くなった。
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「もちろん、突然のことで戸惑うかもしれないわね」
「……」
「でも、私はあなたならこの店を守れると信じているの」
「オーナー……」
「あなたは、猫たちを心から愛している」
「……」
「そして、お客様にも、スタッフにも、誠実に向き合っているわ」
「……私が、この店を……」
峰子は ゆっくりと店内を見渡した。
日向ぼっこをしている猫たち。
猫と触れ合っているお客さんの柔らかい笑顔。
カウンターの奥で作業をしている昭人(あきと)の後ろ姿。
(……ここは、私にとってかけがえのない場所)
そして――。
(この場所を、守り続けたい)
「……やらせてください」
峰子は まっすぐにオーナーを見た。
「私、この店を引き継ぎます!」
「……ありがとう、ミネコさん」
オーナーは 優しく微笑んだ。
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その夜――。
「……なぁ、峰子さん」
「ん?」
閉店後の店内で、昭人が 少し照れくさそうに峰子を呼んだ。
「……もう、“さん”はいらないって言ったでしょ」
「……そ、そうだけど!」
昭人は 少し顔を赤くしながら、ため息をついた。
「……俺、決めた」
「?」
「俺は、これからも“ねこまど”にいる」
「……!」
「バイトじゃなくて、ちゃんと“ここを守る人”として」
「……昭人……」
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「俺、ずっとここが好きだった」
「……」
「最初は、ただのバイトのつもりだったけど……気づいたら、猫たちのことも、みんなのことも、本気で大切に思うようになってた」
「……」
「だから、これからもずっとここにいたい」
昭人は 真っ直ぐに峰子を見つめる。
「そして――」
「俺は、恋人としても、峰子のそばにいたい」
「……!!」
「これからも一緒に、ねこまどを守っていきたい」
「……」
峰子は 驚きと喜びが入り混じった表情で、昭人を見つめた。
6
「……本当に?」
「本気だよ」
「……私、10歳も年上よ?」
「関係ない」
「私、頑固だし、面倒くさいし、猫みたいに気まぐれよ?」
「知ってる」
「……本当にいいの?」
「むしろ、俺にとってはそれがいい」
「……」
峰子は くすっと笑った。
「……じゃあ、よろしくね」
「……ああ」
二人は、そっと手を重ねた。
7
「にゃ!(よし! これで決まり!)」
「にゃん!(ずっと仲良くするんだぞ!)」
「にゃぁ~!(もうラブラブすぎて見てられない!)」
「……はっ!?」
峰子は、猫たちの声に驚いた。
(今……私、猫たちが“ありがとう”って言ってるのが、聞こえた……!?)
初めて、猫たちの感謝の言葉に気づいた瞬間だった。
「……ありがとう」
「にゃ!(いいってことよ!)」
「にゃん!(これからも、みんなでねこまどを守ろうな!)」
そして――。
二人は 猫たちと共に、これからも“ねこまど”を守っていくことを誓った。
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