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番外編⑤「うちら、まだまだ“新婚”やで?」
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▶1. 「えっ、今日!?」
朝7時。
目覚ましより少し早く目が覚めた舞子は、隣に寝ている本庄の寝顔を見つめた。
無防備な表情。寝癖。
くしゃっとしたTシャツ。
どれも、結婚してから何度も見てきたはずなのに――
「……なんやろなあ。いっつも“好き”ってなるわ」
声に出さずにそう呟いて、そっと髪を撫でる。
今日は――結婚1周年記念日。
舞子は1週間前からウキウキしながら、特別なプランを練っていた。
✔ 夜は手料理フルコース(関西風アレンジ付き)
✔ 思い出の写真アルバム作成
✔ 手書きの手紙(ちょっと泣かせる系)
✔ サプライズでペアグラスのプレゼント
完璧。
「やる気のある嫁」フル装備で迎えるつもりやった。
が。
朝食時――事件は起こる。
「……あ、今夜少し遅くなるかもしれません」
「え?」
「先方との会食が入ってしまって。多分、21時過ぎるかと」
「……え?」
舞子の箸が止まった。
「……今日って、なんの日か知ってます?」
「ん?」
本庄は一瞬考えて――
「……あ、奈々さんの誕生日?」
「ちがーーーーーう!!!」
▶2. “冷戦”スタート
「もうええわ……いってらっしゃい……」
「……いや、待ってください。何か、まずいことを……」
「ええから、行ってください。目、合わせられへんわ。自動ドアのほうがまだ気ぃ使うわ」
本庄はネクタイを直しながら、玄関で頭を下げた。
「本当に……すみません」
「はいはいはいはい、どうぞ気ぃつけて。帰ってからも気ぃつけて」
バタン。
静かに玄関が閉まり、
舞子はソファに倒れ込んだ。
「……嘘やろ? あの人、結婚記念日、忘れてた?」
信じていた。
いつも無口で不器用でも、絶対そういうのは覚えてると思ってた。
むしろ、あの人は「記念日」というものを、一般人の5倍くらい重く受け止めてるタイプやと思ってた。
「それが、よりによって今日……」
舞子は思わず冷蔵庫を開けて、用意していたステーキ肉を見つめた。
(この霜降り、どうすんの。うちの愛、脂と共に溶けるんやけど……!)
▶3. 夜。舞子、爆発寸前
夜9時15分。
舞子は、ワインを1杯……いや2杯あけていた。
LINEは既読のまま返事なし。
(※会食中だから当然)
テレビではバラエティ番組が流れていたが、笑えない。
(最悪や……せっかく手紙も書いたのに……)
舞子の脳内では、“忘れられた女”劇場が全開になっていた。
「もうええ、うちが勝手に浮かれてただけや。結婚1周年とか、うちだけの記念日やったんや……」
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
(……誰? 宅配? いやこの時間に?)
不審に思いながらドアを開けると――
「……本庄さん!?」
そこには、紙袋を抱えて立つ、いつものスーツ姿の本庄誠がいた。
「……すみません。遅くなりました」
「え……何しに……」
彼は、紙袋を開けて見せた。
中には――小さな花束と、二人の名前が刻まれた“オーダーの革表紙アルバム”。
「……それ……」
「今日の会食は、実は、打ち合わせにかこつけた“準備”でした。
会社のデザイナーと、アルバムを作っていたんです。
舞子さんが“作ってくれてたら嬉しいな”と思っていたので」
舞子は言葉を失った。
「……忘れてたんちゃうん?」
「……ええ、実は一度、忘れてました。
でも3日前に思い出して、そこから必死でした。
完全に隠し通せなかったことを、今、深く後悔しています」
舞子はソファに崩れ落ちた。
「……はああぁぁ……もぉ、心臓もたへんわ……!」
「すみません……怒ってますか?」
「……怒ってへん。けど、うちの“記念日魂”をなめんなよ……」
▶4. “記念日”の本当の意味
そのあと、ふたりは並んでアルバムを見た。
ロンドン赴任前の写真。
初めて手をつないだ夜。
代々木公園のベンチ。
プロポーズの日。
そして――結婚式の日。
「これ……全部、覚えてくれてたんや」
「もちろんです。忘れたくても、忘れられないものばかりですから」
「……ずるいわ、ほんま。
うちがいじけてたの、アホみたいやん」
「いじけてくれたおかげで、もっと大事にしようと思えました」
舞子はワインをくいっと飲んで、ため息。
「なあ、本庄さん」
「はい」
「記念日って、たぶん、ただ“覚えてるかどうか”やなくて……
“ふたりが今も一緒にいてよかったな”って、思える日なんやろな」
「……そうですね」
「うち、今日もあなたと笑えてるから、それだけで勝ちやわ」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
▶5. 翌朝の追いアルバム(奈々の地雷)
翌朝、舞子が社内のチャットグループにうっかりアルバム写真を1枚送ってしまった。
奈々:
「なにこれ、え、昨日? え、え、え?? 1周年? 結婚してもう1年!?!?」
営業部:
「え、マジで? おめでとうございます……てか言ってよ!!!」
本庄:
「……お騒がせしてすみません」
舞子:
「ちょ、ちょっと手が滑っただけで!!!」
(※全然滑ってない)
結果的に、朝から全社の祝福を浴びる夫婦となった。
朝7時。
目覚ましより少し早く目が覚めた舞子は、隣に寝ている本庄の寝顔を見つめた。
無防備な表情。寝癖。
くしゃっとしたTシャツ。
どれも、結婚してから何度も見てきたはずなのに――
「……なんやろなあ。いっつも“好き”ってなるわ」
声に出さずにそう呟いて、そっと髪を撫でる。
今日は――結婚1周年記念日。
舞子は1週間前からウキウキしながら、特別なプランを練っていた。
✔ 夜は手料理フルコース(関西風アレンジ付き)
✔ 思い出の写真アルバム作成
✔ 手書きの手紙(ちょっと泣かせる系)
✔ サプライズでペアグラスのプレゼント
完璧。
「やる気のある嫁」フル装備で迎えるつもりやった。
が。
朝食時――事件は起こる。
「……あ、今夜少し遅くなるかもしれません」
「え?」
「先方との会食が入ってしまって。多分、21時過ぎるかと」
「……え?」
舞子の箸が止まった。
「……今日って、なんの日か知ってます?」
「ん?」
本庄は一瞬考えて――
「……あ、奈々さんの誕生日?」
「ちがーーーーーう!!!」
▶2. “冷戦”スタート
「もうええわ……いってらっしゃい……」
「……いや、待ってください。何か、まずいことを……」
「ええから、行ってください。目、合わせられへんわ。自動ドアのほうがまだ気ぃ使うわ」
本庄はネクタイを直しながら、玄関で頭を下げた。
「本当に……すみません」
「はいはいはいはい、どうぞ気ぃつけて。帰ってからも気ぃつけて」
バタン。
静かに玄関が閉まり、
舞子はソファに倒れ込んだ。
「……嘘やろ? あの人、結婚記念日、忘れてた?」
信じていた。
いつも無口で不器用でも、絶対そういうのは覚えてると思ってた。
むしろ、あの人は「記念日」というものを、一般人の5倍くらい重く受け止めてるタイプやと思ってた。
「それが、よりによって今日……」
舞子は思わず冷蔵庫を開けて、用意していたステーキ肉を見つめた。
(この霜降り、どうすんの。うちの愛、脂と共に溶けるんやけど……!)
▶3. 夜。舞子、爆発寸前
夜9時15分。
舞子は、ワインを1杯……いや2杯あけていた。
LINEは既読のまま返事なし。
(※会食中だから当然)
テレビではバラエティ番組が流れていたが、笑えない。
(最悪や……せっかく手紙も書いたのに……)
舞子の脳内では、“忘れられた女”劇場が全開になっていた。
「もうええ、うちが勝手に浮かれてただけや。結婚1周年とか、うちだけの記念日やったんや……」
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
(……誰? 宅配? いやこの時間に?)
不審に思いながらドアを開けると――
「……本庄さん!?」
そこには、紙袋を抱えて立つ、いつものスーツ姿の本庄誠がいた。
「……すみません。遅くなりました」
「え……何しに……」
彼は、紙袋を開けて見せた。
中には――小さな花束と、二人の名前が刻まれた“オーダーの革表紙アルバム”。
「……それ……」
「今日の会食は、実は、打ち合わせにかこつけた“準備”でした。
会社のデザイナーと、アルバムを作っていたんです。
舞子さんが“作ってくれてたら嬉しいな”と思っていたので」
舞子は言葉を失った。
「……忘れてたんちゃうん?」
「……ええ、実は一度、忘れてました。
でも3日前に思い出して、そこから必死でした。
完全に隠し通せなかったことを、今、深く後悔しています」
舞子はソファに崩れ落ちた。
「……はああぁぁ……もぉ、心臓もたへんわ……!」
「すみません……怒ってますか?」
「……怒ってへん。けど、うちの“記念日魂”をなめんなよ……」
▶4. “記念日”の本当の意味
そのあと、ふたりは並んでアルバムを見た。
ロンドン赴任前の写真。
初めて手をつないだ夜。
代々木公園のベンチ。
プロポーズの日。
そして――結婚式の日。
「これ……全部、覚えてくれてたんや」
「もちろんです。忘れたくても、忘れられないものばかりですから」
「……ずるいわ、ほんま。
うちがいじけてたの、アホみたいやん」
「いじけてくれたおかげで、もっと大事にしようと思えました」
舞子はワインをくいっと飲んで、ため息。
「なあ、本庄さん」
「はい」
「記念日って、たぶん、ただ“覚えてるかどうか”やなくて……
“ふたりが今も一緒にいてよかったな”って、思える日なんやろな」
「……そうですね」
「うち、今日もあなたと笑えてるから、それだけで勝ちやわ」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
▶5. 翌朝の追いアルバム(奈々の地雷)
翌朝、舞子が社内のチャットグループにうっかりアルバム写真を1枚送ってしまった。
奈々:
「なにこれ、え、昨日? え、え、え?? 1周年? 結婚してもう1年!?!?」
営業部:
「え、マジで? おめでとうございます……てか言ってよ!!!」
本庄:
「……お騒がせしてすみません」
舞子:
「ちょ、ちょっと手が滑っただけで!!!」
(※全然滑ってない)
結果的に、朝から全社の祝福を浴びる夫婦となった。
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