氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo

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スピンオフ編《悠真の“タコパ”事件》 〔後編〕「静かなる息子、バレる」

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▶1. たこ焼きは友情を焼く音

タコパが始まって30分。
うちのリビングは、すっかり“たこ焼き焼場(スタジアム)”と化していた。

ホットプレートでは生地がジュウジュウと踊り、たこ、ウインナー、チーズ、明太子、コーンなど、好き放題に放り込まれ、焼かれ、回される。

そしてその中心に――

「おっしゃ、焼けてきたな!ちょい待ち、あかん、まだや!焦るな!じっくり焼くんがうまいねん!」

「うわぁ、悠真くん、めっちゃ本気……!なんでそんなプロっぽいの?」

「家訓や。“たこ焼きは魂で焼け”ってばあばが言うてた」

「魂!?関西深い……!」

女子たちは目をキラキラさせながら僕の姿を見ていた。

(しまった……しゃべりすぎた……)

男子たちも、最初は緊張してたけど、
今は「これチーズ入りだ!うまっ!」「明太子は革命や!」と完全に戦友。

舞子(母さん)はというと、リビングの端で腕を組みながら、

「うんうん……子らが笑う姿は尊いやねぇ……母、満足や……」

と、なぜか井戸端人生語りモードに入っていた。

(なんで今日に限ってこんなに“本性”出たんや……)

いや、ちゃうな。
“本性”というより
――“地元”なんや。

ここは東京やけど、うちは大阪から来た家族。
父さんは東京の人やけど、母さんとじいじばあばが持ってきた空気は、ちゃんと家の中に息づいとる。

それを、みんなに見られた。

正確には、“見せてもうた”。

(……あー……こら、明日以降やばいかもしれん)
 

▶2. 女子の異変、始まる

食後。みんなでソファに座ってテレビを見ながら雑談してたときのこと。

女子たちの様子が、なんかおかしい。

「ねぇ……悠真くんって、家ではこんなに楽しいの?」

「しかもあの笑顔、反則……」

「関西弁と標準語、使い分けてるの、ほんまに尊い……」

(え、なにそれ、急に“推し語り”始まってる……)

僕はそっとソファの隅に寄る。

そのとき、男子の一人・大志がボソッとつぶやいた。

「なあ、悠真。おまえ……モテてるぞ?」

「……知ってる。今日はさすがに空気でわかった」

「気づくのおせぇよ!!」

「だって、基本ノータッチ主義やし……それに家の母が全力出すとは思ってなかったし」

「いや、むしろお母さんファン出てたぞ。
“あのママ最高”ってLINE来てたからな」

(もうあかん……家庭まで推されとる……)

女子たちは最後、なぜか全員、僕の方を見て同時に言った。

「今日はほんとにありがとう。また、来ていい?」

僕:「……また“話し合い”とかあったら、うん……来てもええよ」

そのとき、全員の顔がパァァァァッ!!と光った。

(やってもた。扉開いてもうた……)

 
▶3. 翌週、学校にて

月曜の朝。
教室に入った瞬間、なんか……視線を感じる。

女子の。

圧倒的に。

僕:「……なに?なにか付いてる?」

女子1:「……タコパ、楽しかったらしいねぇ~?」

女子2:「“ギャップの神”って聞いたけど?」

女子3:「私もたこ焼き、好きだなぁ~♡」

女子4:「悠真くんちって、いつ空いてます?」

(あーーーー……広まってもうたーーーー!!)

放課後、下駄箱の中には
――謎の封筒が15通。

「私もタコパに招待してください!」
「本庄家で青春したいです」
「悠真君と一緒に、明太子チーズ食べたいです♡」
「ママにも会いたいです」

(なんで親の人気も上がってんねん!!!)

僕は封筒をランドセルに詰めながら、心の中で祈った。

(頼むから、母さんにだけは見つかりませんように)

 
▶4. 帰宅。そして、事件はバレる

帰宅して、自室で手紙をまとめてると、
背後からガチャリとドアが開いた。

「ただいま~~!悠真~?お手紙来てるで~~!」

「えっ、なにが!?」

「ほら、うちの郵便受けにぎょうさんあったわ!なんか“タコパ希望”って書いてるけど?」

「うわぁぁぁああああ!!!!」

母さんはすでにソファで読みながら、にやにやしていた。

「悠真、これはもうなぁ、“本庄家整理券配布”案件やで」

「やめて!やめてくれ!ほんまに……学校で生活できんくなる!!」

「せやけど、女の子って素直やなぁ~。ほらこれ、たこ焼きの味に感動した子もおるで!」

「味ちゃう!母さんのボケとツッコミで空気ぶっ壊れただけや!!」

「ふふん……これぞ、“大阪の血の力”やな」

(大阪、強すぎんか……!?)

そのとき、父さん(誠)が静かにリビングに現れた。

「なにやら……にぎやかですね。帰宅したら、玄関に**“たこパ希望”ののぼり**が立ってたんですが」

「立てたん、母さんやろ!?」

誠:「……これはもう、パーティー会場と化したようですね。
では、次は僕が焼きます。関東のたこ焼きの意地を見せましょう」

舞子:「あんた、関西のノリ入ってきてるやん!!!」
 

▶5. 締めのセリフ、それは伝説に

ソファで大笑いする母と父を見ながら、僕はため息をついた。

そして、ふと母さんが言った。

「なぁ悠真。次のタコパ、20人くらい応募あったねんけど」

「は!?誰が受け付けてんの!?」

「うちや!ほな、整理券配ってき~~!!」

(……なんやねんこの家……もう、どこにも逃げ場ないやん……)

でも、不思議と
――ちょっとだけ、嬉しかったりした。
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