再び君に出会うために

naomikoryo

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本編

探索

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「さて・・・・・お前の仲間を探すって言っても、これ以上はどうすりゃいいんだろうなぁ?」
(そうだねぇ・・・・・・・・・・)

あれからニ週間。
学校帰りや休みの日にもあちこちと歩き回ってテレパシー、とやらを発してみた。
時には、隣町の大手スーパーであるイーオンの屋上や駅周辺のベンチに座りながら、小一時間ほどそれを発してみた。
その都度、物凄い脱力感と空腹感が起こったが、ニ、三日もすれば持ち前の身体の丈夫さでカバーできるようになった。
とはいえ、都度おにぎりを数個食べることにはなるのだが。

昼食後の校庭の滑り台の横のベンチに座っていた。
「ただ、歩き回ってもしょうがないかもしれないよな~」
(・・・・・・・・)
「俺は別に構わないんだけど・・・・・ただ・・・・・これ以上はこづかいがな~。」
おにぎりやら飲み物、時にはバス代なんかもかかっている。
「ひょっとすると・・・・・」
太一は言いかけてやめた。
(分かってるよ・・・・・・・・・・・もう、消えたかもしれないよね・・・・・・・・・)
「・・・・・・・・・・・」
そして、沈黙が5分ほど続いた時。

(あっ!!)
「ん、どうした?」
太一はうとうとしかけていたのか、目を両手でがしがしと擦った。
(もしかして・・・・・・・・)
太一は周りをきょろきょろと見渡した。
(ねぇ、ちょっと、あのブランコっていうんだっけ?・・・・・そっちの方に向かってみてくれない?)
「ブランコの方?」
太一は目をやるなり、
「げっ!!貴子たちじゃん・・・・・」

そこには際立って背の高いすらっとした女の子と、その周りを取り囲むかのようにして複数の男女がいた。
長いストレートの黒髪を風になびかせながら、その子はブランコにすっと座り何やら本を読み始めた。
周りの連中は彼女に話しかけるでもなく、ただ周りにいてそれぞれが喋っていた。
「あれに近付くのか?」
(そう、あのブランコに座っている子に近付いて。)
やれやれとベンチから腰を上げるとゆっくりと直線状に歩き出した。
だいぶ近付いたぐらいで、
「中3にもなってブランコかよ・・・・・」
太一は小さく溜息混じりに言った。
それを取り巻きの一人が耳にしたらしく、
「おい、お前!・・・・・貴子さんに向かって何を言ったんだ。」
凄い剣幕で太一に近寄り胸倉を掴もうとした。
太一はその手を軽くあしらった。
「小さな子たちがいるわけじゃないからいいけど・・・・・」
そう言って、ブランコ領域内に足を踏み入れた。

この校庭は中学校と小学校で共同で使用していた。
数年前までは小学校校舎しかなく、そこで小中一貫となっていた分校だった。
当然、この町自体が交通が不便な山間の村程度で住民も千人もいたかどうかぐらいだった。
ところが校舎の裏山の神社の境内から温泉が発掘され、あっという間に裕福な町へと発展した。
それで、広大な荒地を開発して一代タウンを築き上げてしまった。
それが神社の神主であった貴子の父親だった。
貴子の家はすっかり大豪邸となり、みんなからは『温泉御殿』と言われているが、決して馬鹿にしているわけではなく感謝しているのだ。
ホテルや飲食店、土産屋などが続々と建てられ、住民達の働き口もどんどん増えていったからだ。
そして、他の土地からの移民も増え新しく中学校も隣接して建てられたのだ。
貴子の取り巻き達はほとんどが移住してきた子供達であるため、太一と貴子たちが小さい頃仲良く校庭で遊んでいた事は知らない。
ましてや中学生になって急に大人びた貴子に、だんだん太一が声をかけられなくなったため、この二人が話している姿を見ることはなかった。

(その子に触ってみて。)
「さ、触る?!」
太一はいきなり大声になった。

それに気付いた取り巻き共が一斉に太一の前に集まった。
「おい、お前は何しようとしてんだ!」
「あっ、こいつ・・・・・ほら・・・・・スポーツだけは万能な・・・・・」
「何て言ったっけ?」
「あんた、何貴子さんに近付こうとしてんだよ!」
太一はちょっと肩を落として、また溜息混じりに、
「ほらな・・・・・このうるさい連中が面倒なんだよ・・・・・」
(そ、そのようだね・・・・・・・・でも、なんとか・・・・・)
「ハァ~」
と今度は深く溜息をついて、
「おい、貴子!!」
と大声で呼んだ。
「なんだ、てめぇ~は呼び捨てにして!!」
「あんたは2年坊主だろ~!!」
「●×△●×△●×△!!」

「あぁ~うるせ~!!」
と叫びかけたとき、
「太一じゃん!!」
取り巻き共を押しのけて貴子が近付いてきた。
太一よりも十センチ以上は背が高く、すっとした切れ目の感じで上から見下ろしている。
「あんたから声をかけてくるなんて・・・・・小学生以来だねぇ。」
フン、と鼻にかけたような感じで話しかけてきた。
周りの外野は静かに見守っている。

(やっぱり・・・・・何か・・・・・・・・)
「ん、どうした?」
「??」
貴子も様子のおかしい太一を見て少し首をかしげた。
「私に何か用なの?」
「ん~と・・・・・・・・・」
太一は少し考えて、
「ちょっと、俺の手を握ってみてくれないか?」

その言動に、また周りがギャーギャーわめき始めた。
「何を言ってるんだお前は!!」
「そうだよ!!俺達だって、神聖な貴子さんには一切触れられないでいるのに!!」
「●×△●×△●×△!!」

「ちょっと!!」
貴子の一言で一瞬で静かになった。
「それは何のつもり?」
「何って・・・・・ちょ、ちょっと訳があるんだよ!」
太一は少し慌てた。
「ふ~ん・・・・・・それって、まさか美智子に関係あるんじゃないよねぇ?」
「はっ?!・・・・・な、なんで・・・・・っていうか・・・・・・」
「あんたは昔から分かりやすいねぇ・・・・・」
そう言うと、
「あんたが美智子以外の事で人に頼み事をするのを見たことがないからねぇ・・・・・」
と言いながらも、
「はいはい。」
と太一に近付き、右手を伸ばした。
太一も右手を差し出して、貴子の手をとった。

「!!!!!」
貴子が雷にでも打たれたように大きくびくっと身体を縦に一回動かした。
(やっぱり!!)
「ん・・・・・なんだ・・・・・やっぱりって?」
貴子は俯いた状態になったが、顔をゆっくり上げて、
「お久しぶりです。」
と、穏やかな口調で囁いた。
「はい?!」
釣り目のはずが、トロンと垂れ目のように見えるぐらい優しい顔になっている。

(ちょっと、目を閉じて!!)
「なに?・・・目を?・・・・・・はいはい。」
太一は目を瞑った。
(ちょっと口を借りるね?)
「借りる?はい?・・・・・・・・・・んんんん・・・」
太一は自分の意思で話せなくなった事に驚いた。

「久しぶりだね。元気だったんだね?」
「えぇ、何とか。」
「もしかすると、消えてしまったかと・・・」
「そう、そうなる寸前だったかもしれないけど、運よくこの方に出会って。」
「彼女も事情を?」
「いえ、今の今までじっとしていましたので。」
「そう・・・・・」
「でも、どうしましょう?」
「そうだね・・・・・・・とりあえず、自力では出られないだろうから何かこちらに取り入れる手段を。」
「そうですね。・・・・・でも、これ以上はここで話しているのも何なので。」
「そうだね。」
太一は目を瞑ったまま貴子の手をぐっと引き寄せた。

「!!!!!」
呆気に取られて口をポカンと開けたまま黙って見ていた連中も流石にびっくりして騒ぎ出そうとした。
それを貴子が左手を大きく横に伸ばして後ろに下がれとばかりに手を横に振った。
貴子は太一に抱きつく感じになっていたが、更に少し身をかがめて太一の顔を真正面に見た。
太一は貴子の耳元にそっと口を近付け、
「今夜9時に君の家の境内で。」
と囁いた。
「はい。」
と貴子もまた小さく返事をした。

そのまま15秒ほど経ってようやく、
「おいおい、いつまで人の身体を!」
と太一が貴子の手を離しパッと離れた。
その瞬間に貴子も又雷が落ちたかのようにびくっと動いた。

「はっ!!な、なに???・・・・・あんた何したの???」
貴子もびっくりして太一を見た。
急に顔も真っ赤になってしまった。
周りの連中が、
「た、貴子さん?」
「貴子さん、大丈夫??」
みんな貴子の様子を心配しているようだ。
貴子自身も手や足を動かしてみて、自分が自分であることを確かめているようだった。

「じゃあな!」
そんな様子を気にするでもなく、太一は貴子にそう言って走って校庭を後にした。

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