元ヤン女子、婚活はじめました ~結婚って魂のぶつけ合いだよね!

naomikoryo

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第1話「30歳、婚活デビュー(でも中身は元ヤン)」

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「……もう無理だわ。心が折れた」

目の前のLINEグループ『地元女子会』に、今日だけで3件目の結婚報告スタンプが弾けていた。
しかも投稿主は、あの冴えなかった保育士の斉藤。
学生時代、給食のたまごスープを机の中に隠していたことで、私が“謎の除霊儀式”を行った子である。

「……あたし、呪われてんのか?」

美容室の一角、オフの日である今日の私は、フルメイク&パック中の顔を鏡に映しながら、ひとりごちた。
美顔ローラーでゴリゴリと頬をしばくように転がしつつ、内心では焦燥がうねっていた。

誕生日を迎え、30歳。

美人とはよく言われる。男友達もそこそこいる。
仕事だって自分のサロンを構えるまでになった。だけど、肝心の恋愛は――

「5年、彼氏いません!!」

鏡に向かって叫んだ瞬間、隣の部屋から「うるせえ!」と階下の大家さんの怒号が飛んできた。
うるさくてすみません。でもこれ、悲鳴なんです。

かつて私は、地元でも有名な“女番長”だった。
ケンカ上等、バイク全開。まゆ毛はないわ、スカートは地面すれすれ、口癖は「シメるぞテメェ」。

でも、変わったのだ。人は変われる。
20代で美容専門学校に通い直し、修行の末に自分の店を持った。
今ではご近所マダムの間でも評判の美容師だ。昔の私を知る人は、ほぼいない。

――そう、昔の私は封印したはずだった。

しかし、だ。

「なんで結婚だけ、こんなにうまくいかねぇんだよ……」

人を美しくする仕事をしているのに、自分の人生は彩りゼロ。
彼氏ができても3ヶ月持たず、気づけばSNSは赤ちゃん写真と挙式報告で埋め尽くされる。
何が“ナチュラルウェディング”だ、こっちは“ナチュラルに独身”だわ!

私はついに決意した。

婚活をする。

結婚相談所に登録し、アプリに手を出し、パーティにも出てやる。

元ヤン根性、見せてやるわい。

初戦は、婚活アプリ。

プロフィールには「ナチュラル志向で、笑顔が好きな美容師です」と書いた。
ちょっと盛ったが、元ヤン丸出しの「よろしく頼むわコラ」よりマシだ。
写真は美容室のヘアカタログ風の奇跡の一枚。加工なし。奇跡だけ。

すると――数時間でいいねが100件以上。

「これ、いけんじゃね?」

浮かれた私は、メッセージをくれた“けんじ@公務員”という好青年とアプリ内でやり取りを始めた。

「趣味は映画鑑賞と神社巡りです」
「自炊もしますよ~カレーが得意!」
「美容師さんってオシャレで素敵ですね」

あれ、めっちゃまとも。神様か?

数日後、会うことになった。

待ち合わせは、渋谷のカフェ。

相手の“けんじ”は、写真どおりの誠実そうな見た目。
眼鏡にベージュのジャケット、言動も丁寧。
これは当たりかもしれない、と私の心が小さく踊った――のも、最初の15分。

「実はですね、僕、お母さんとすごく仲が良くて。今でも毎朝LINEで“今日の予定”報告してるんです。えへへ」

「へ、へえ……」

「今日も、“今からデートしてきます”って送りました」

「……へええ……」

「そしたら、“肉食うなら脂っこくないものにしときなさい”って返ってきて(笑)」

「あ、はい」

どんだけママ好きなんだお前は。

しかも、その後も彼はスマホをチラチラ。
「すみません、母が心配性で」って、30歳超えて親にGPS共有してんのか?

頭の中で、うすら笑う昔の私が囁く。

――殴る?一発。いや、やめとけやめとけ。

「じゃ、また会いましょうか」と最後に言われ、「あ、はい~」と愛想笑いして帰ったけど、帰宅直後に即ブロックしたのは言うまでもない。

婚活、初戦敗退。

「現実、しんどいわ……」

フローリングにごろんと寝転び、天井を睨む。

その瞬間、スマホに新着通知。

《婚活エージェンシー「MarryStep」から面談予約のご連絡》

あ、そういえば申し込んでた。

もうアプリは懲りた。次はプロに頼る。

翌週、指定されたオフィスビルの15階に到着。内装は明るく、カフェのような受付。担当の名前は、川原翔太。

「大庭ひかりさんですね。担当させていただきます、川原です」

現れた男は――なんか爽やかすぎた。

短髪、スーツ、シュッとした輪郭。美容師の私から見ても「ちゃんと整ってる顔」。だがそれ以上に気になったのは、彼の目。

なんか、見覚えがある。

「よろしくお願いします」と彼がにこやかに笑ったとき、確信が走った。

この男、どこかで会ってる。

「……えーと。川原って、昔……」

「俺、地元で“キレたら誰でもぶっ飛ばす川原”って呼ばれてました」

「あーーーっ!!」

高校時代、対立してた不良高の番長!
私が“白河連合”と呼ばれたグループでケンカしてた、あの川原!

「おまえ、なんで婚活アドバイザーなんかやってんの!?」

「更生したんで。てかあんたこそ、元ヤンだったのに、猫かぶりすぎじゃない?」

「うるせえ!」

「ははは、まぁ頑張って隠してたけど、歩き方と敬語のクセでバレバレだったよ」

この男、ウザい。でもなんか、ムカつくくらい懐かしい。

私は思った。

――この人、担当でよかったかも。

数日後、川原が言った。

「まず、プロフィール直そうか。“おしとやかで清楚な美容師”とか書いてあるけど、全然違うでしょ?」

「ちょっ、おしとやかは本気で思ってたんだけど!」

「“口悪いけど根は優しい元ヤン美容師”にしなよ」

「……やだ、でもちょっと、そっちのほうがウケるかも」

こうして、私の元ヤン婚活デビューが、正式に始まった。

次回、早くも第二の刺客が登場。恋の地雷原を、私はヒールで突き進む!
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