魔法少女は会社員

naomikoryo

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第1章:再起動(リブート)

第6話:再契約:光刃を手に

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深夜0時15分。
神代ミユキは、会社近くの河川敷に立っていた。

オフィスビルの光が遠くに揺らめいている。
川面には月が映り、街の喧騒は消えていた。
ここには、何の予定もない。だが、彼女のスマホには確かにスケジュールが記されている。

《再契約:今日の夜》

コートのポケットに手を突っ込みながら、ミユキは深く息を吐いた。

「来たか」

影の中からユリが姿を現す。
月光がその銀の毛を鈍く照らす。琥珀の瞳が静かにミユキを見据えた。

「この場所を選んだのは、あの時と同じだな」

「……覚えてたの?」

「忘れたことはない。お前の最初の契約も、ここだった。
覚悟とは、同じ場所に戻ることでしか生まれない」

ミユキは苦笑した。

「詩人みたいなこと言うね」

「生きた時間が長いのでな」

夜風が吹く。街の灯りが一瞬滲んで見えた。

ミユキは目を閉じ、静かに言った。

「……再契約するわ、ユリ」

「理由は?」

「守りたいからよ。
世界でも、人でもない。“私の今”を。
仕事だって、仲間だって、生活だって、もう全部捨てる気はない。
でもそれでも、誰かの苦しみに背を向けるのは、もっと嫌だから」

ミユキの声には迷いがなかった。

ユリは小さく頷いた。

「わかった。では、再契約の儀を行う」

彼の身体が淡く輝き出す。空気が震え、夜の世界が変容を始めた。

風景が色を失い、時間が止まったように静かになる。
この空間は、現実と異界の狭間。“魔法の境域”。

「神代ミユキ、かつての魔法少女《クリスタル・フレア》。
再び、汝に問う――」

ユリの声が空間に響く。

「光と炎の力を以て、人と世界の均衡を護る意思は、今なお汝に在りや?」

「在り」

「苦しみと痛みを引き受け、それでも尚、進む覚悟は?」

「ある」

「では、“光刃”をその手に。
再び、この世界に、君自身の名を刻め」

ミユキの胸元に、あたたかな光が生まれた。

それは、かつて失ったはずの魔法核の輝き。
火花のように弾け、指先から肩、胸元、そして背中へと魔力が走る。

(懐かしい……でも、これは……)

体の奥から湧き上がる感覚。
魔力が脈打ち、骨の芯を叩くように身体中を巡る。

視界が鮮やかになり、夜の景色が別の色で塗り直される。

彼女の右手に、光の刃が現れた。

かつてと同じ――けれど違う。
まばゆく硬質な光の剣は、スーツ姿の彼女の手に馴染んでいた。

装飾のような変身はない。
あるのは、覚悟を纏った“現実の魔法少女”の姿。

ミユキは、目を開いた。

「……やれる」

刹那、空間が震える。

ビルの屋上――そこに、大型の“魔物”が出現した。

禍(まが)ノ形。
欲望とストレスの集合体。人間の負の感情から生まれた魔法災害。

黒い翼に金属の触手。人の顔を持たぬ仮面のような頭部。
それが咆哮を上げ、ビルの壁を貫いた。

「現れたか」

ユリが跳ねるように後退しながら言う。

「戦えるか?」

「戦うしか、ないでしょ」

ミユキはビルに向かって跳躍する。

人間の筋力では不可能なはずの動き――だが、魔力が脚に宿った今、それは可能だった。

彼女の姿が夜の空気を切って駆ける。
スーツの裾が舞い、剣が光る。

屋上に飛び乗った瞬間、魔物の触手が迫る。

ミユキは即座に剣を回し、光の防壁を展開。

――キィン!

高音が響き、火花が散る。

「こいつ……昔の魔物より、ずっと重い!」

「人の負のエネルギーは、あの頃よりも強くなっている。
君たちが“守った結果”、社会は進化し、複雑化した。
その分、闇もまた深くなっているのだ」

ユリの言葉を聞きながら、ミユキは呼吸を整える。

(昔のままじゃ通じない)

彼女は、一度後ろに跳び退き、体勢を立て直す。

(なら、今の私のやり方で戦う)

魔物が翼を広げ、空へと浮かび上がる。

街を見下ろすその姿に、怒りが走った。

「ふざけないでよ。
あんたたちは、いつだって人の弱さに付け込んで……
でも、私はもう、あんたに飲まれたりしない!」

ミユキの剣が強く輝いた。

彼女は剣を握りしめて、魔力を込める。

――炎の剣。

光と熱が合わさり、実体化した“業火”が刃を包む。

「リフレクション・フレア!」

叫びと同時に、彼女は突進した。

剣が振るわれ、火線が空を裂いた。

魔物の翼が焼け落ち、仮面の頭部に深々と光が突き刺さる。

一瞬の静寂。

次に、光が爆ぜて魔物が崩れ落ちた。

破片のように、黒い影が散って消えていく。

夜が、元の静けさを取り戻す。

屋上に降り立ったミユキは、剣を地面に突いて肩で息をしていた。

スーツの袖が焦げ、髪が乱れている。
それでも、その顔は確かに生きていた。

ユリが近づいてくる。

「見事だ」

「……全身、筋肉痛になりそう」

ミユキは苦笑しながら剣を見た。
まだ、手の中に温もりが残っている。

「これが、私の再契約なんだね」

「君の意思が力に変わる。それが、今の魔法の在り方だ。
過去のような“無垢な願い”ではない。
だがそれゆえに、強い。成熟した魔法だ」

ミユキは、静かに頷いた。

「これから、またこんなのが来るの?」

「間違いない。異界の裂け目は、完全には閉じていない。
君は、再び“世界の守り手”となった」

彼女は夜空を見上げた。

月が、静かに光っていた。

(また、始まったんだ)

(でも、今度は――私が選んだんだ)

ミユキの手には、再び剣が握られていた。

かつてのヒロインではない。
いまや彼女は、「魔法少女であり、会社員でもある」現実の戦士だった。
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