魔法少女は会社員

naomikoryo

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第4章:都市防衛と魔法制度の再設計へ

第3話:再編の夜に

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その夜、都内・神田。
駅から徒歩3分の裏路地に、看板も控えめな小さな居酒屋があった。

テーブル席に集まったのは、神代ミユキ、山吹ナナ、白川アイナ、神林まどか。
そして中央に並ぶのは、つまみ皿と生ビールが4杯。

「おつかれさま、私たち」

ミユキが声をあげると、ジョッキが小さくぶつかり合った。
炭酸の泡がはじけて、それぞれが少しだけ、笑った。

「なんか……本当に“会議に参加した後”って感じがすごい」

まどかが、酢の物をつつきながら言う。

「うん。魔物倒すよりMP消費した気がする。
ああいう“正しい顔した人たち”の前で意見言うの、地味に怖いし」

ナナが肘をついてぼやく。

「言いたいこと飲み込んだ回数、今日だけで何十回あったことか……」

「でも、言ったでしょ。ちゃんと、“私たちの条件”を」

アイナが冷や奴に醤油を垂らしながら、淡々と続ける。

「……それがすごいと思う。10年前の私たちだったら、
“制度に呼ばれた”ってだけで、もう舞い上がってたと思う」

「そうね。呼ばれることが“存在意義”だったから」

ミユキは小さく頷いた。

「でも今は、“呼ばれなくても存在できる”って知ってる。
だから、“どう関わるか”を自分で決められる」

「大人になったってことかもね」

まどかが照れ笑いした。

「でもさ、私たち……なんか、変じゃない?」

ナナが急に言い出した。

「日中に会議で契約条件の話して、
夕方に部署の月末処理して、
夜に異界の歪み見張って、
で、こうして酒飲んでるのよ? どういう生活?」

「ほんとそれな」

アイナが笑いながら頷く。

「私、昨日の夜“魔物と戦った直後に経費精算”したからね。
頭の切り替えがバグる。
『さっき斬ってたやつの腕より、領収書の記入欄のほうが怖い』って思ったし」

ミユキも吹き出した。

「あるある過ぎる。私、剣持ったまま“お客様対応メール”考えてたもん。
『このたびは異界の浸蝕についてご不便をおかけし――』って打ちそうになった」

「それ、マジでありそう」

「“異界の浸蝕”が“システムトラブル”扱いされるの、時間の問題かもね」

まどかがくすくす笑う。

笑いの中には、疲れと、愛しさと、少しの寂しさが滲んでいた。

「……けど」

ナナが、ぽつりと続ける。

「やっぱり、“誰にも言えないこと”があるのって、しんどいね」

空気が、ふと静かになる。

「たとえば? 恋人とか?」

「それもあるけど、もっとこう……
“帰り道で魔物に会って、家の玄関で血を拭いてからご飯作る”みたいな生活を、
“誰にも言えない”ってことが。
私たち、今も“裏側の人間”のままなんだなって」

アイナがグラスを見つめながら、ゆっくり言った。

「でもさ、“裏側”を知らない人たちの生活を守ってるのも私たちでしょ。
それが嫌なら、最初から“再契約”なんてしないし」

「……うん」

ミユキは、テーブルの真ん中に箸を置いた。

「私は、もう“あの頃の気持ち”で戦ってない。
でも、今の気持ちも、嘘じゃない。
“街のどこかで、誰かが目を閉じて眠れるように”って思ってる」

「それだけで、いいと思う」

まどかがうなずいた。

「この世界は、変わらない。
むしろどんどん不安定になっていく。
でも、それでも一つでも“まっとうな選択”をしていけたら、
私たちは、ちゃんと生きてるって言えると思う」

その言葉に、誰も反論しなかった。

時計の針が午後9時を回る。

外では雨が降り出していた。
都会の夜の濡れたアスファルトに、光が反射してきらめいている。

ミユキは、ふと思った。

(私たちは、もう“少女”じゃない)

(でも、“戦える大人”になっている)

その事実が、少しだけ誇らしかった。

「じゃあ、そろそろ閉める? “再編の夜”ってことで」

ナナがジョッキを持ち上げる。

「街を守る者に、乾杯」

アイナが続けて掲げた。

「明日も、働く者たちに」

まどかが笑って言った。

「そして、なんとかなるような気がする私たちに」

最後に、ミユキが言った。

「――まだ続けよう、私たちの“仕事”を」

乾杯の音が、小さく鳴った。

雨の夜、都市の片隅で、戦士たちはほんの少し笑い、
また明日を選ぶ準備をしていた。
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