魔法少女は会社員

naomikoryo

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第4章:都市防衛と魔法制度の再設計へ

第4話:昼休みの侵蝕

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火曜日の昼。
12時を知らせるチャイムが鳴った瞬間、営業三課の社員たちは一斉に腰を上げた。
それぞれに弁当を手に、外へ出る者、休憩室に向かう者。
会議と数字に縛られる日常の、わずかな“人間らしい時間”。

神代ミユキは、自席で簡単なパンをかじりながら、社内チャットの通知を読み流していた。
そのときだった。

――“バチッ”。

モニターが、一瞬ちらついた。

(……停電?)

そう思った矢先、フロアの奥から誰かが叫んだ。

「おい……なんだこれ……コピー機が止まったぞ!」

続いて別の声。

「え、スマホ繋がんない!? Wi-Fi死んだ……?」

次第に、空気が変わっていくのが分かった。
目には見えないけれど、室内の“何か”が揺らいでいる。

「ユリ、今の反応は?」

《魔力波形感知――社内ネットワークを媒介に、“異界浸蝕”が進行中。
これは……かなりまずい。》

「ビルの中で?」

《否――“社内システムそのもの”が、侵入されている。
情報と感情のループが発熱し、仮想領域から“魔物”が実体化を試みている。
いわば、“会社全体が敵にされている”状態だ》

ミユキは立ち上がり、そっと会議室へ向かう。

ナナとアイナにはすでにユリから連絡が入っているはずだった。
案の定、階段の踊り場には先にナナが立っていた。

「来たわね。予想より早かった」

「何が?」

「“異界が、日常を侵食してくる速度”よ」

続いて、アイナも駆け込んできた。

「社内ネットワークを通して魔力が波及してる。
これ、多分“攻撃”じゃなくて“感情の過剰処理”からくるもの。
人間のストレスと情報過多が、異界側とリンクした結果よ」

「そんな……私たちが気づかなかった間に?」

《異界との接続は、必ずしも“明確な開門”とは限らない。
人間の感情の渦が、自ら門を作ることもある。
今、この会社の中に“開きかけの門”が存在する》

ユリの声が、低く響いた。

「特定できる?」

《西側フロア、休憩室付近。
集団感情の停滞と、デバイスの混線。
そこが“発端”だ》

三人は無言で顔を見合わせ、歩き出した。

休憩室は――異様だった。

昼休みにしては静かすぎる。
いつもなら弁当のにおいと雑談で満ちている空間。
なのに、今日は――無音。

そこにいた社員たちは、全員がスマホを見ていた。
だが、その目は空ろで、動きがなかった。

「……これって、まさか……」

「感情を吸われてる。“焦燥と倦怠のループ”が形を成したわね」

アイナが、鞄から魔力装具を取り出す。

「変身する」

ミユキとナナも、それぞれ変身を起動。
小さな光の粒が三人を包み込み、静かに“非日常の戦闘形態”へと切り替わっていく。

――そのときだった。

空間の空気が“ねじれた”。

コピー機のスロットが開き、そこから黒いコード状の物体が這い出てきた。
床のタイルが歪み、文字化けのような模様が浮かび上がる。

「っ、来たわね……」

魔物は人型だった。

だが、その身体はすべて“デジタル表示された文字列”で構成されていた。
「エラー」「未送信」「感情不明」「応答なし」――
人間の抱える“言語化されないストレス”そのものが実体化していた。

「“デジ・クラッド”。情報過多による魔力の異界化。
現代社会では最も頻繁に生まれる魔物種の一つだ」

ユリが冷静に解説する。

「だが、これは異常だ。強度が高すぎる。
ここまで成長するには、何十人分もの感情が必要だ」

「この社内に、十分すぎるくらいあるわよ、そんなの」

ナナが低く言い、鞭を構える。

「行くよ!」

ミユキが先陣を切る。

剣が音もなく空を裂き、魔物の腕に一閃を与える。
しかし――裂けない。

「固い……!」

「文字構成だから、“意味”で守ってる。
下手に物理攻撃しても“無効化”される」

アイナが呟きながら、結界を展開。

「意味反転フィールド展開、《エラー=破壊》!」

彼女の魔法が、空間の“前提”を一時的に書き換える。
デジ・クラッドの体が歪み、バグったように揺れた。

「今よ!」

ナナの鞭が脚部を拘束し、ミユキが再度跳び上がる。

「ソリッド・スラスト!」

直線の突きが、胸元を貫いた――ように見えたが、
瞬間、魔物が“データ化”されて分解し、フロア全体に拡散した。

「分裂!?」

「ううん、“通信”! これは“クラウド型魔物”よ!」

アイナが叫ぶ。

「このままだと、社内全体に拡散して、
社員全員の意識が“ネットワークごと乗っ取られる”!」

「止める!」

まどかの声が響いた。

彼女はフロアの中心に飛び出し、両手を広げる。

「記憶遮断フィールド、展開――
《ログアウト・ドーム》!」

光の結界が波紋のように広がり、空間を丸ごと包み込む。
魔物の信号が遮断され、ひとつずつ“未送信”のまま消えていく。

そして、残された“本体”が動きを止めた。

ミユキは、最後の一閃でその心臓部を貫いた。

「終わり!」

光が収束し、沈黙が戻る。

社員たちは、いつの間にか自分のスマホから顔を上げ、
「……あれ?」と不思議そうに辺りを見回していた。

異界の痕跡は、もうどこにもなかった。

ミユキたちは、魔法を解除し、何事もなかったように階段へ戻った。

「……ねえ」

ナナが、ぼそりと言った。

「もう“日常”と“非日常”の境目、なくなってきてない?」

「うん。
戦場は、もう完全に“職場”に混ざってる」

ミユキは、曇りのない目で答えた。

そしてその現実を、受け止めるように深く息を吸った。

「でも……それでも、明日もここで働く。
剣を持って、PCも叩いて、メールも返す。
私たちは、“この生活”を護るんだ」

それが、彼女たちの今の魔法だった。
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