魔法少女は会社員

naomikoryo

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第4章:都市防衛と魔法制度の再設計へ

第7話:言葉にならないSOS

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月曜の午後三時。
社内は、いつもどおりの“疲労感”に包まれていた。

神代ミユキは営業会議を終え、自席に戻ったところだった。
スプレッドシートを開きながら、ふと横目で社内チャットを見る。

──未紗(支援班)
《件名なし:気になることがあって、共有します。
今日の午前、取引先の社員の一人が突然、“社内で話せない”と言って会議室を出ました。
その後、ずっと戻ってこないとのこと。
連絡もつかず、スマホも置いたまま。
これまでの異界干渉と比べると“兆候”が曖昧ですが、違和感があります》

ミユキは、目を細めた。

(“話せない”……?)

過去に見てきた異界反応とは、明らかに質が違う。
それは“恐怖”でも“怒り”でもない。

《ユリ、魔力の反応は?》

《……微弱。だが、消えかけた灯のようなものを感知。
このケースは通常の干渉とは異なる。
“消音型沈黙侵蝕”の可能性がある》

「沈黙侵蝕……?」

《言葉や感情の“未処理”が限界を超えると、
それは魔力に転化せず、“自我の奥に沈む”形で溜まる。
つまり、“発せられなかったSOS”が、自壊的な異界化を起こす現象だ》

「感情が……形になる前に、壊れてる?」

《その通り。
こうなると、魔物のような明確な“敵”ではなく、
“気配すら見せないまま、心の中で自滅する魔”になる。
最も発見が難しく、最も回復が困難なタイプだ》

ミユキは席を立った。

「未紗に、場所を聞いて。すぐ行く」

取引先のオフィスビル。
午後5時、退勤の足音が聞こえ始める中、ミユキは指定された会議室へと入った。

そこは空だった。
椅子は乱れておらず、空気も異常なし。
だが、部屋の中心に立った瞬間、何かが胸にひっかかった。

(……重い)

空気が“感情の重力”のように沈んでいた。
形にならなかったもの。
吐き出せなかった想い。
それらが、静かに空間を圧迫していた。

「ユリ、どこに?」

《部屋の左奥。ホワイトボードの裏に、“感情の残響”が残っている》

ミユキは歩み寄り、ボードの裏側に手を当てた。

冷たい。
でも、じっとりと温度があった。

──その瞬間、耳元で“声にならない声”が響いた。

──「……たす、けて」

(……!)

すぐさま魔法を展開する。

剣ではない。
攻撃では意味がない。
必要なのは、“感情の輪郭を掬い上げる”こと。

ミユキは静かに目を閉じ、魔力を展開した。

「……私は、ここにいるよ」

──沈黙は、長く深い谷だった。

だが、その底に、かすかに揺れる光があった。

誰にも聞かれなかった願い。
誰にも言えなかった痛み。
それらが、ようやく“存在を認められる瞬間”を待っていた。

「……あなたの言葉が出てくるまで、待ってる。
だから、今はただ、ここにいていい」

光が、ふわりと脈打った。

その直後、部屋の空気がふっと軽くなった。

ユリの声が、少しだけ和らいで聞こえた。

《沈黙侵蝕、解除を確認。
残響反応は消失。該当人物の魔力過敏状態も解消された模様。
彼女は今、ビルの屋上で深呼吸している》

ミユキはそっと目を開け、剣を消した。

その夜。

LinkLineのチャットに、ミユキから報告があがった。

【対応完了】沈黙侵蝕:ケースA-01
状況:解決
対応:対話型魔力共鳴による感情解放
備考:初期反応の把握に支援班(大槻未紗)の報告が有効だった。感謝。

未紗からの返信は、少し時間をおいて返ってきた。

……私、何もできなかった気がしてました。
でも、少しでも役に立てていたのなら、嬉しいです。

ミユキは、チャットに一言だけ添えた。

“気づく”ことが、一番最初の魔法だよ。

深夜。
まどかが、ふと一言だけグループに投稿した。

人の心って、ほんとむずかしいね

ナナが返す。

魔物より厄介

アイナも続ける。

でも、それを“面倒だ”って思わないでいられるうちは、
まだ魔法を使えるってことだと思う

ミユキは、画面を見つめながら呟いた。

「……言葉にならないSOS。
それに、ちゃんと気づける組織でありたいね、LinkLineは」

そして彼女は、またひとつ、剣とは違う“戦い方”を覚えた。

沈黙の奥でこぼれた一粒の言葉は、確かに、彼女たちの魔法になっていた。
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