魔法少女は会社員

naomikoryo

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第5章:拡張する日常、揺らぐ境界

第4話:それでも守るということ

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月曜の朝、通勤ラッシュの駅構内で、小さな異変が起きた。

最初に異常を感じたのは、まどかだった。
自動改札を抜けようとしたとき、一瞬、空間が“たわんだ”のだ。

「……今の、魔力反応?」

ユリの返答は速かった。

《感応確認。構内第3ホーム、魔力の突発膨張。
契約識別コード:β-0409-K》

「つかさ……!?」

わずか30分前、地下鉄D07線のホームで。
三谷つかさは、何の変哲もない人混みのなかで、立っていた。

ただ一つ違ったのは、彼女の左手に、薄青く光る核結晶が浮かんでいたことだった。

「……これが、“魔法”……」

簡易核ではない。
それは、LinkLineが手渡したものではないが、
つかさが“自分の意志”で再契約した“本物の核”だった。

しかし、それは未安定だった。

(怖い。怖い。怖い――)

周囲の雑踏、通勤の焦り、ため息、咳、ぶつかりあう肩――
つかさの中にあった“共鳴感受”の力が、勝手に他人の感情を吸い上げ、
彼女の魔力核が暴走を始めた。

「やだ……ちがう……こんなふうに使いたくなかった……!」

その悲鳴が漏れた瞬間、空間が音もなく裂けた。

現場に駆けつけたミユキたちは、異様な光景を目にする。

改札フロア一帯に、薄膜のような“感情の霧”が張り巡らされ、
人々の表情が一様に“ぼんやりと”曇っていた。

「……これは“自動共鳴波”」

アイナが即座に判断する。

「彼女が“周囲の感情”に無意識にアクセスしてる。
その結果、自分も周囲も曖昧になって、感情の境界が溶けてる」

「このままだと、“街全体が感情麻痺”になるわ」

ナナが言った。

「つかさは悪くない。
でも、止めなきゃ……」

まどかの言葉に、ミユキが頷いた。

「私が行く。
彼女は、私たちの“初めての候補者”だった。
ちゃんと向き合う」

改札の先、空間の一番奥に、つかさがいた。

彼女の周囲には、まるで図書館のような幻影が広がっていた。
人々の“声にならなかった言葉”が、本となって積み上がり、
彼女はその真ん中で、身動きもせずに立ち尽くしていた。

「……ミユキさん」

つかさの声は、はっきりと届いた。

「私……自分の魔法、わからなくて……
気づいたら、周りの人たちの“感情”ばかり見えるようになって。
“この人、会社で辛い”
“この人、本当は怒ってる”
“この人、自分の声、もう聞いてない”
――全部、私に入ってくるんです……!」

ミユキは剣を抜かなかった。

代わりに、そっと手を差し出した。

「それでも、守っていいんだよ」

「……!」

「“誰かの感情を抱えてしまう”って、すごく重いよ。
でも、それは、“あなたが誰かを守りたかった”証拠でもある。
だから、間違ってなんかない。
ただ、ひとりで抱えちゃいけなかった」

つかさの瞳に、ぶわりと涙が広がった。

「でも、私なんかが……」

「“私なんか”って言葉が出るうちは、
あなたはまだ誰かを救える」

そう言って、ミユキはそっと近づいた。

「剣なんて、いらないよ。
今あなたに必要なのは――“受け止めてもらうこと”」

その瞬間、つかさの核が静かに脈動し、
幻影の図書館が崩れ始めた。

魔力は、暴れるものではない。
伝えるものだ。
繋げるものだ。

ミユキの指先が、つかさの手に触れたとき――
感情の霧が、音もなく晴れていった。

異界閉鎖、完了。

改札フロアに残っていた人々は、
一瞬の“集中力の乱れ”のような感覚を訝しみながら、
何事もなかったように歩き去っていった。

LinkLineのメンバーは、その静けさのなかで、
ただつかさを支えながら、深く息を吐いた。

「……ごめんなさい、私」

「謝る必要なんてないよ」

まどかが優しく言う。

「“選ぶ”って、何度でもやり直していいんだから」

つかさは、涙を拭きながら、はっきりと頷いた。

「……私、“この魔法”で、“誰かの言葉を受け止められる人”になりたいです。
剣は振れないけど、心には触れられる。
そういう魔法を、使いたい」

ミユキは微笑んだ。

「ようこそ、LinkLineへ。
“戦わない魔法少女”って、ちょっとかっこいいよね」

つかさが笑った。

その笑顔の中に、魔法の核よりも強い光が宿っていた。

それは、守られる側から、守る側へと歩き始めた証だった。

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