魔法少女は会社員

naomikoryo

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第5章:拡張する日常、揺らぐ境界

第3話:魔法の“密売”

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金曜の夕方、新宿・西口地下通路。
神代ミユキは、構内の喧騒に紛れるように、目的のビルへと向かっていた。

地下三階。
外見はただのカラオケ店。
だが、ユリの解析によれば、この店のバックヤードに“非正規魔力ツール”の取引拠点があるという。

《魔力波形を感知。人工核の反応あり。
低品質・短時間型。構造的には“使い捨て”契約式です》

「つまり、“安価な魔法”ってこと……」

《そう。契約の手続きもなく、“一時的な魔力”を貸与する装置。
構成は簡単だが、危険性が高い。精神負荷が無視されており、
一定時間を超えると、“意識ごと焼かれる”リスクがある》

ミユキは息を吐いた。

(魔法は、そんな“便利グッズ”じゃない)

自分の中の剣――再契約核が、静かに脈打った。

LinkLineの仲間たちは、それぞれ別ルートで情報を集めていた。

ナナはIT系の地下掲示板を通じて、
「感情の制御をしたい者たち」の集まりに潜り込んでいた。

「社会に飲まれたくないなら、自分の感情くらいコントロールしなきゃ」
「感情処理ツール“EdenSeed”、一本でOK。1日5000円」

「……EdenSeedって何よ。
まるでサプリ感覚ね」

ナナは画面を閉じ、舌打ちした。

「魔法を“効率”で語りだしたら、もう終わりよ」

一方、アイナは技術面から密売の仕組みを解析していた。

「簡易魔力核、魔法演算コード“Type-Z”。
……これ、旧制度時代の“廃棄コード”じゃない」

「政府の封印倉庫から抜かれたものの流用……?」

「あるいは、制度の崩壊時に“持ち逃げ”した元技術者の仕業かも」

「誰がそんなものを……」

そのとき、支援班の未紗から緊急チャットが入った。

【至急】三谷つかささん(前回接触候補)が“EdenSeed”を購入した形跡あり。
使用したかどうかは不明。
ただ、直近の感応反応に変動が生じています。

ミユキは目を見開いた。

「……彼女が、使った?」

「早すぎる。本人は再契約を拒んでたはずだろ」

「拒んでいたからこそ、“簡単な魔法”に縋ったのかもしれない」

まどかが静かに言った。

土曜の午後。
LinkLineメンバーはつかさのいるカフェ「Lento」を再訪した。

静かな午後の光。
だが、その店内の空気は、前回よりも明らかに“重い”。

つかさは、カウンター席で、震える手でカップを持っていた。

「来てくれて……ありがとうございます」

声が、かすかに震えている。

「買ったんです、“それ”。EdenSeedってやつ。
職場の先輩が持ってて、……“気分が楽になる”って言われて。
最初は、ただ“気づかれない程度の魔法”って思って……」

「使ったの?」

ミユキの問いに、つかさは小さく頷いた。

「使った瞬間……本当に、何も感じなくなった。
言葉の意味も、ページの重みも、
私が“誰かのために生きよう”とした記憶も――全部、軽くなった」

「それが、“魔法”じゃないって、わかった?」

アイナが冷静に言う。

「本当の魔法は、軽くならない。
重くて、痛くて、だからこそ強い」

「私、間違えたんですか?」

まどかが前に出て、そっとつかさの手を取った。

「間違ってない。
苦しかったんだよね。
“力を持ちたくない”って言いながら、
どこかで“誰かを守れる自分”を探してた」

「……うん。
でも、それが怖くて。
“ちゃんとした魔法”を持つ人たちに比べたら、
私なんて、きっと、何もできないから」

ミユキが、深く息を吸った。

「だったら、もう一度、選び直してほしい。
“便利な魔法”じゃなくて、
“誰かの痛みに目を向けられる魔法”を」

「それが……私にも、できるかな」

「できる。もし、選ぶなら。
私たちは、誰かに与える力を持ってない。
でも、“差し出された手”を受け止める準備なら、あるから」

つかさの目に、静かに涙が浮かんだ。

その夜、LinkLineは都の魔力対策課に正式に報告書を提出した。

【報告】非合法魔力貸与装置“EdenSeed”に関する調査報告

・使用による精神感覚の鈍麻

・旧制度の技術悪用

・非戦闘時使用による自壊的異界反応の発生
 提言:再契約核の流通管理、および簡易魔力装置の規制制度の早期整備

ミユキは最後にひとことだけ添えた。

“魔法”が“安価”になった時代には、
それが“重さ”を伴うことを、何度でも伝え続けなければならない。

LinkLineの戦場は、剣の届く距離だけではない。

言葉の軽さの中にも、魔物はいる。
それを見抜くことができる者たちこそ、いま最も強い魔法使いなのだ。
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