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第5章:拡張する日常、揺らぐ境界
第6話:信じる力、疑う視線
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日曜日の朝。
カフェで開かれたLinkLine定例ミーティングに、珍しく“外部の空気”が混じっていた。
「こちら、都庁の特別対策広報課から派遣された、広報連携官の海老原さんです」
神代ミユキの紹介に、場の空気が一瞬だけ張り詰める。
「どうも。“市民理解のための制度広報”を担当しております。
LinkLineの活動、非常に注目しています」
控えめなスーツ姿の女性――海老原。
その言葉遣いは丁寧で、所作も静か。
だが、その瞳の奥には、明らかな“行政の論理”が透けていた。
「まず確認させてください。
現在、LinkLineには都からの補助金が年次計上されています。
その見返りとして、今後は“活動の可視化”と“対市民説明責任”が強く求められます」
「……具体的には?」
アイナが問いかける。
「たとえば、戦闘記録の一部公開。
再契約者の基本情報の提示。
さらには、“今後の新人契約者に対する倫理基準”の明文化です」
ナナが眉をひそめた。
「言っておくけど、私たちは“ヒーロー”じゃない。
注目を集めるために魔法を使ってるんじゃないの」
「もちろんです。
ですが、“理解されなければ、存在できない”のもまた、現実です。
市民の中には、魔力保有者への根強い不安感を持つ層が存在します。
その不安を放置すれば、いずれ“排除”の言葉に変わります」
まどかが、かすかに口を開いた。
「……じゃあ、私たちは“信じてくれない人たち”にも、自分を説明しなきゃいけないんですか?」
「はい。
それが、“制度と共にある魔法”ということです」
静かな肯定。
けれど、それは突き放すような響きを持っていた。
会議後、LinkLineの内部チャットはざわついた。
ナナ:
本音を言えば、私は自分の履歴を晒す気はないわ。
どうせ“魔法少女だった過去”を見たら、色眼鏡でしか見られない。
アイナ:
けど、無視できる話じゃない。
メディアが“魔力暴走”を煽れば、一瞬で信用は吹き飛ぶ。
まどか:
でも、“誰かを守る”ために力を使ってるのに、
“疑われる側”になるのって、やっぱりつらい……
ミユキ:
わかる。
でも私たちは、どこかで“剣を抜かない戦い方”を選ばなきゃいけない。
魔法が社会と繋がるってことは、“信頼のコスト”を払うことでもあるんだよね。
未紗からも、静かな意見が届いた。
未紗(支援班):
私は、戦う力を持っていないからこそ思います。
魔法の力を持つ人が“何を考えてるか”が見えないと、
怖くなってしまう一般市民の気持ちも、少しだけわかるんです。
……でも、それでも信じたいって思えるのは、
あなたたちが“ちゃんと説明してくれる人たち”だからです。
それは、言葉というより、祈りのようだった。
数日後。
LinkLineは自主的に、“情報公開ガイドライン草案”を提出した。
・戦闘ログの記録保持(内部共有用)
・再契約時のカウンセリング体制の整備
・新人契約者に対する選定基準の公開
・感情干渉魔法の使用履歴管理と、暴走リスクに対する説明義務
その文面には、戦う者の正義ではなく、
**誰かの不安に正面から向き合おうとする“誠意”**が滲んでいた。
都庁広報課は、短いが肯定的な返答を寄せた。
“魔力保有者が、自らを律する意志を持っている”。
それが、市民の最大の安心材料になると信じています。
その日の帰り道、LinkLineメンバーは四人でビルの屋上にいた。
東京の夜景はいつもどおり美しく、誰も“魔法が存在する都市”だなんて思っていないようだった。
「……ミユキ」
まどかがぽつりと口を開いた。
「これって、私たちが“普通の市民じゃなくなる”ってこと?」
ミユキは一瞬、黙ってから答えた。
「逆かもしれない。
“普通の市民でいたい”って思いながら、それでも何かを守ろうとする――
それが今の、私たちの“魔法少女”なんだと思う」
ナナがふっと笑った。
「だったらまあ、少しくらい晒されてもいいかもね。
“信じてもらえるうちは”って条件付きだけど」
「信じてもらえなくなったら?」
アイナが尋ねた。
ミユキは空を見上げ、静かに答えた。
「それでも、守る」
信じる力と、疑う視線。
そのどちらにも折れない魔法を、
彼女たちは今日も握りしめている。
カフェで開かれたLinkLine定例ミーティングに、珍しく“外部の空気”が混じっていた。
「こちら、都庁の特別対策広報課から派遣された、広報連携官の海老原さんです」
神代ミユキの紹介に、場の空気が一瞬だけ張り詰める。
「どうも。“市民理解のための制度広報”を担当しております。
LinkLineの活動、非常に注目しています」
控えめなスーツ姿の女性――海老原。
その言葉遣いは丁寧で、所作も静か。
だが、その瞳の奥には、明らかな“行政の論理”が透けていた。
「まず確認させてください。
現在、LinkLineには都からの補助金が年次計上されています。
その見返りとして、今後は“活動の可視化”と“対市民説明責任”が強く求められます」
「……具体的には?」
アイナが問いかける。
「たとえば、戦闘記録の一部公開。
再契約者の基本情報の提示。
さらには、“今後の新人契約者に対する倫理基準”の明文化です」
ナナが眉をひそめた。
「言っておくけど、私たちは“ヒーロー”じゃない。
注目を集めるために魔法を使ってるんじゃないの」
「もちろんです。
ですが、“理解されなければ、存在できない”のもまた、現実です。
市民の中には、魔力保有者への根強い不安感を持つ層が存在します。
その不安を放置すれば、いずれ“排除”の言葉に変わります」
まどかが、かすかに口を開いた。
「……じゃあ、私たちは“信じてくれない人たち”にも、自分を説明しなきゃいけないんですか?」
「はい。
それが、“制度と共にある魔法”ということです」
静かな肯定。
けれど、それは突き放すような響きを持っていた。
会議後、LinkLineの内部チャットはざわついた。
ナナ:
本音を言えば、私は自分の履歴を晒す気はないわ。
どうせ“魔法少女だった過去”を見たら、色眼鏡でしか見られない。
アイナ:
けど、無視できる話じゃない。
メディアが“魔力暴走”を煽れば、一瞬で信用は吹き飛ぶ。
まどか:
でも、“誰かを守る”ために力を使ってるのに、
“疑われる側”になるのって、やっぱりつらい……
ミユキ:
わかる。
でも私たちは、どこかで“剣を抜かない戦い方”を選ばなきゃいけない。
魔法が社会と繋がるってことは、“信頼のコスト”を払うことでもあるんだよね。
未紗からも、静かな意見が届いた。
未紗(支援班):
私は、戦う力を持っていないからこそ思います。
魔法の力を持つ人が“何を考えてるか”が見えないと、
怖くなってしまう一般市民の気持ちも、少しだけわかるんです。
……でも、それでも信じたいって思えるのは、
あなたたちが“ちゃんと説明してくれる人たち”だからです。
それは、言葉というより、祈りのようだった。
数日後。
LinkLineは自主的に、“情報公開ガイドライン草案”を提出した。
・戦闘ログの記録保持(内部共有用)
・再契約時のカウンセリング体制の整備
・新人契約者に対する選定基準の公開
・感情干渉魔法の使用履歴管理と、暴走リスクに対する説明義務
その文面には、戦う者の正義ではなく、
**誰かの不安に正面から向き合おうとする“誠意”**が滲んでいた。
都庁広報課は、短いが肯定的な返答を寄せた。
“魔力保有者が、自らを律する意志を持っている”。
それが、市民の最大の安心材料になると信じています。
その日の帰り道、LinkLineメンバーは四人でビルの屋上にいた。
東京の夜景はいつもどおり美しく、誰も“魔法が存在する都市”だなんて思っていないようだった。
「……ミユキ」
まどかがぽつりと口を開いた。
「これって、私たちが“普通の市民じゃなくなる”ってこと?」
ミユキは一瞬、黙ってから答えた。
「逆かもしれない。
“普通の市民でいたい”って思いながら、それでも何かを守ろうとする――
それが今の、私たちの“魔法少女”なんだと思う」
ナナがふっと笑った。
「だったらまあ、少しくらい晒されてもいいかもね。
“信じてもらえるうちは”って条件付きだけど」
「信じてもらえなくなったら?」
アイナが尋ねた。
ミユキは空を見上げ、静かに答えた。
「それでも、守る」
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そのどちらにも折れない魔法を、
彼女たちは今日も握りしめている。
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