42 / 64
第6章:都市の深層
第4話:感情はシステムにできない
しおりを挟む
月曜日の午後、LinkLine本部。
新たに設置された「記録管理班」のミーティングテーブルには、一つのファイルが置かれていた。
【記録名】実験体記録_アカリ(旧コード番号A)
【内容】魔法制度崩壊前の非登録契約者。
旧魔法庁地下保管層にて発見された感情融合体。
物理的な被害要素なし。ただし、魔力圧は一定範囲で感応影響あり。
「……正直に言って、この存在を“公式記録”に提出するのは難しいわ」
アイナがそう断じた。
「理由は?」
ミユキが訊く。
「“制度に合わない”から。
今の行政が“再契約者”をどう定義しているか、知ってる?
“契約履歴が記録され、適合率60%以上で、都の監査下にある魔力保有者”。
アカリは、どれにも該当しない」
「でも、生きてた。……いや、存在していた」
まどかがそっと口を開く。
「心があったよ。話せなかっただけで。
ずっと誰かを待ってた目だった」
ナナは腕を組み、しばらく黙ったのちに言った。
「問題は、“誰がその存在を保証するか”よ。
記録に出せば、都は必ずこう言うわ。
『証拠は?』『契約履歴は?』『責任は?』
アカリを“存在させること”自体が、今の制度の“瑕疵”になる。
彼女が証明されるってことは、
制度の外に、“見捨てられた命”があったって認めることになるのよ」
アイナがため息をつく。
「都がそれを受け入れると思う?」
ミユキは、少しだけ黙った。
そして、テーブルに置かれたアーカイヴ申請書の一行を見つめながら、静かに言った。
「じゃあ、記録は――私たちの中で残そう。
制度が受け取らないなら、それでもいい。
“忘れない”ってことが、私たちの魔法なんだ」
「非公式に記録するってこと?」
「うん。“市民記録”として、“魔法少女制度外の感情事例”として。
都に受け入れられないなら、“私たちの物語”にする」
しかし――
その夜、都庁災害対策課から届いた返信は、予想以上に冷たかった。
【返信:記録申請 却下】
該当記録は、登録制度外の情報であり、
現在の監査ガイドラインの対象外です。
また、“感情を主体とした存在の承認”は、制度上のリスクを伴うため不可。
つきましては、今後、類似の情報提出は“非推奨”といたします。
LinkLineのチャットルームに沈黙が落ちた。
アイナ:
……これが現実。
「感情は魔法にできるけど、制度にはできない」って証明されたわね。
ナナ:
むしろ、制度は“感情を切り捨てて成立してる”のよ。
まどか:
それって、悲しいね……
ミユキ:
……うん。
でも、それでも私たちは、“声を聞いてしまった”
聞いた以上、忘れられない。
だったら、記録する。それだけでも魔法になる。
未紗(支援班):
私は、皆さんの言葉を“記録”として整理しておきます。
都の公式じゃなくても、市民の中に残していける場所はあると思うから。
その言葉に、誰も反論はしなかった。
火曜の昼。
LinkLineの小さな資料室にて。
まどかと未紗が、アカリに関する手書きの記録を整理していた。
「ねえ……“誰かを覚えている”って、
それだけで救いになるんだね」
「うん。私たちは“戦えない魔法少女”かもしれないけど、
“記録して、繋げる魔法少女”にはなれると思う」
まどかが静かに頷いた。
「魔法って、剣じゃなくてもできるんだね」
その夜、LinkLineのページにひとつの非公開記録がアップされた。
【記録:灯(アカリ)】
登録番号:なし
適合率:不明
現存:非確認
状態:感情融合体
概要:制度の影にいた、ひとりの存在。
備考:存在は確認されたが、社会制度には収まらない。
それでも、“ここにいた”という記憶を、私たちは持ち続ける。
最後に添えられた一行。
この記録は、私たち自身が“忘れないため”に残します。
魔法は、システムでは測れない。
感情は、制度には収まらない。
それでも、「忘れない」という意志が、
LinkLineのもう一つの武器だった。
新たに設置された「記録管理班」のミーティングテーブルには、一つのファイルが置かれていた。
【記録名】実験体記録_アカリ(旧コード番号A)
【内容】魔法制度崩壊前の非登録契約者。
旧魔法庁地下保管層にて発見された感情融合体。
物理的な被害要素なし。ただし、魔力圧は一定範囲で感応影響あり。
「……正直に言って、この存在を“公式記録”に提出するのは難しいわ」
アイナがそう断じた。
「理由は?」
ミユキが訊く。
「“制度に合わない”から。
今の行政が“再契約者”をどう定義しているか、知ってる?
“契約履歴が記録され、適合率60%以上で、都の監査下にある魔力保有者”。
アカリは、どれにも該当しない」
「でも、生きてた。……いや、存在していた」
まどかがそっと口を開く。
「心があったよ。話せなかっただけで。
ずっと誰かを待ってた目だった」
ナナは腕を組み、しばらく黙ったのちに言った。
「問題は、“誰がその存在を保証するか”よ。
記録に出せば、都は必ずこう言うわ。
『証拠は?』『契約履歴は?』『責任は?』
アカリを“存在させること”自体が、今の制度の“瑕疵”になる。
彼女が証明されるってことは、
制度の外に、“見捨てられた命”があったって認めることになるのよ」
アイナがため息をつく。
「都がそれを受け入れると思う?」
ミユキは、少しだけ黙った。
そして、テーブルに置かれたアーカイヴ申請書の一行を見つめながら、静かに言った。
「じゃあ、記録は――私たちの中で残そう。
制度が受け取らないなら、それでもいい。
“忘れない”ってことが、私たちの魔法なんだ」
「非公式に記録するってこと?」
「うん。“市民記録”として、“魔法少女制度外の感情事例”として。
都に受け入れられないなら、“私たちの物語”にする」
しかし――
その夜、都庁災害対策課から届いた返信は、予想以上に冷たかった。
【返信:記録申請 却下】
該当記録は、登録制度外の情報であり、
現在の監査ガイドラインの対象外です。
また、“感情を主体とした存在の承認”は、制度上のリスクを伴うため不可。
つきましては、今後、類似の情報提出は“非推奨”といたします。
LinkLineのチャットルームに沈黙が落ちた。
アイナ:
……これが現実。
「感情は魔法にできるけど、制度にはできない」って証明されたわね。
ナナ:
むしろ、制度は“感情を切り捨てて成立してる”のよ。
まどか:
それって、悲しいね……
ミユキ:
……うん。
でも、それでも私たちは、“声を聞いてしまった”
聞いた以上、忘れられない。
だったら、記録する。それだけでも魔法になる。
未紗(支援班):
私は、皆さんの言葉を“記録”として整理しておきます。
都の公式じゃなくても、市民の中に残していける場所はあると思うから。
その言葉に、誰も反論はしなかった。
火曜の昼。
LinkLineの小さな資料室にて。
まどかと未紗が、アカリに関する手書きの記録を整理していた。
「ねえ……“誰かを覚えている”って、
それだけで救いになるんだね」
「うん。私たちは“戦えない魔法少女”かもしれないけど、
“記録して、繋げる魔法少女”にはなれると思う」
まどかが静かに頷いた。
「魔法って、剣じゃなくてもできるんだね」
その夜、LinkLineのページにひとつの非公開記録がアップされた。
【記録:灯(アカリ)】
登録番号:なし
適合率:不明
現存:非確認
状態:感情融合体
概要:制度の影にいた、ひとりの存在。
備考:存在は確認されたが、社会制度には収まらない。
それでも、“ここにいた”という記憶を、私たちは持ち続ける。
最後に添えられた一行。
この記録は、私たち自身が“忘れないため”に残します。
魔法は、システムでは測れない。
感情は、制度には収まらない。
それでも、「忘れない」という意志が、
LinkLineのもう一つの武器だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる