魔法少女は会社員

naomikoryo

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第6章:都市の深層

第4話:感情はシステムにできない

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月曜日の午後、LinkLine本部。

新たに設置された「記録管理班」のミーティングテーブルには、一つのファイルが置かれていた。

【記録名】実験体記録_アカリ(旧コード番号A)
【内容】魔法制度崩壊前の非登録契約者。
旧魔法庁地下保管層にて発見された感情融合体。
物理的な被害要素なし。ただし、魔力圧は一定範囲で感応影響あり。

「……正直に言って、この存在を“公式記録”に提出するのは難しいわ」

アイナがそう断じた。

「理由は?」

ミユキが訊く。

「“制度に合わない”から。
今の行政が“再契約者”をどう定義しているか、知ってる?
“契約履歴が記録され、適合率60%以上で、都の監査下にある魔力保有者”。
アカリは、どれにも該当しない」

「でも、生きてた。……いや、存在していた」

まどかがそっと口を開く。

「心があったよ。話せなかっただけで。
ずっと誰かを待ってた目だった」

ナナは腕を組み、しばらく黙ったのちに言った。

「問題は、“誰がその存在を保証するか”よ。
記録に出せば、都は必ずこう言うわ。
『証拠は?』『契約履歴は?』『責任は?』
アカリを“存在させること”自体が、今の制度の“瑕疵”になる。
彼女が証明されるってことは、
制度の外に、“見捨てられた命”があったって認めることになるのよ」

アイナがため息をつく。

「都がそれを受け入れると思う?」

ミユキは、少しだけ黙った。

そして、テーブルに置かれたアーカイヴ申請書の一行を見つめながら、静かに言った。

「じゃあ、記録は――私たちの中で残そう。
制度が受け取らないなら、それでもいい。
“忘れない”ってことが、私たちの魔法なんだ」

「非公式に記録するってこと?」

「うん。“市民記録”として、“魔法少女制度外の感情事例”として。
都に受け入れられないなら、“私たちの物語”にする」

しかし――

その夜、都庁災害対策課から届いた返信は、予想以上に冷たかった。

【返信:記録申請 却下】
該当記録は、登録制度外の情報であり、
現在の監査ガイドラインの対象外です。
また、“感情を主体とした存在の承認”は、制度上のリスクを伴うため不可。

つきましては、今後、類似の情報提出は“非推奨”といたします。

LinkLineのチャットルームに沈黙が落ちた。

アイナ:
……これが現実。
「感情は魔法にできるけど、制度にはできない」って証明されたわね。

ナナ:
むしろ、制度は“感情を切り捨てて成立してる”のよ。

まどか:
それって、悲しいね……

ミユキ:
……うん。
でも、それでも私たちは、“声を聞いてしまった”
聞いた以上、忘れられない。
だったら、記録する。それだけでも魔法になる。

未紗(支援班):
私は、皆さんの言葉を“記録”として整理しておきます。
都の公式じゃなくても、市民の中に残していける場所はあると思うから。

その言葉に、誰も反論はしなかった。

火曜の昼。
LinkLineの小さな資料室にて。

まどかと未紗が、アカリに関する手書きの記録を整理していた。

「ねえ……“誰かを覚えている”って、
それだけで救いになるんだね」

「うん。私たちは“戦えない魔法少女”かもしれないけど、
“記録して、繋げる魔法少女”にはなれると思う」

まどかが静かに頷いた。

「魔法って、剣じゃなくてもできるんだね」

その夜、LinkLineのページにひとつの非公開記録がアップされた。

【記録:灯(アカリ)】
登録番号:なし
適合率:不明
現存:非確認
状態:感情融合体
概要:制度の影にいた、ひとりの存在。
備考:存在は確認されたが、社会制度には収まらない。
それでも、“ここにいた”という記憶を、私たちは持ち続ける。

最後に添えられた一行。

この記録は、私たち自身が“忘れないため”に残します。

魔法は、システムでは測れない。
感情は、制度には収まらない。

それでも、「忘れない」という意志が、
LinkLineのもう一つの武器だった。
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