魔法少女は会社員

naomikoryo

文字の大きさ
43 / 64
第6章:都市の深層

第5話:忘れられた契約

しおりを挟む
水曜日、LinkLine資料室。

静かな午後。
壁一面の書架には、都市魔法災害関連の報告書や、異界事例の記録、
そして、まだ誰の目にも触れていない“非公式アーカイヴ”のファイルが並んでいた。

「……私、読みました。アカリさんの記録」

カウンターに肘をついたまま、つかさが言った。
その隣で、すみれが無言のまま頷いた。

「“魔法を与えられなかった人”の記録。
読んでて、胸が苦しくなりました。
だって、彼女、“間違って生まれた”んじゃない。
“制度が彼女を間違いだと決めた”だけで……」

すみれがゆっくりと声を出す。

「わたしも、LinkLineの人たちと出会ってなかったら……
ああいう場所に、いたかもしれないなって、思ったんです。
“ちゃんと話す前に決められる”。
“名前をもらえない”。
そんなの、誰にでも起こりうることで……」

つかさは静かに言った。

「だから、会いに行こうと思います」

「……え?」

「アカリさんに。
直接じゃなくていい。
でも、あの場所に“記録者”として立ちたい。
記録って、ただ“事実を並べる”んじゃないんです。
“忘れないようにする”って、誰かに誓うことだから」

すみれは、それを聞いて、ゆっくりと笑った。

「じゃあ、私も行きます。
私は“剣を持てない魔法少女”だから、
代わりに、言葉を持ちます」

木曜の夜。
新宿地下、第六層のアーカイヴ跡。

再契約者つかさとすみれ、支援班の未紗の3人は、
ミユキたちの了承を得て、施設の再訪を許された。

結界は安定しており、異界反応はなし。
空間は沈黙のままだったが、どこか“見守られているような”静けさだった。

「……ここが、“忘れられた契約”の場所」

すみれは、床にそっと手を当てる。

「何かが“始まらなかった”場所。
でも、それでも誰かが生きていた証なんだよね」

つかさは、肩掛けのバッグから小さなノートを取り出した。
表紙には、銀のペンで「契約ノート」と書かれていた。

「これは、私たちの記録。
でも、“制度に登録されるもの”じゃない。
私たちが“勝手に”始める、“もうひとつの契約”」

未紗が驚いたように目を見開く。

「え……勝手に?」

「うん。行政の認可も、LinkLineの承認もいらない。
これは、“忘れたくない”っていう気持ちだけで書かれる契約。
だから、私はここに書くんです」

つかさは、ノートの1ページ目にこう綴った。

【非公式契約書】
本記録は、魔法の届かなかった者たちの名前を記す。
名を持たず、語られず、記録にも残らなかった感情に対して、
私たちは「ここにいた」と証明する。

すみれがその隣に、こう書き添える。

“契約”とは、力を貸し借りすることではない。
“この世界にあなたが確かにいた”と、もう一人が信じることだ。

最後に未紗が、震える手で記した。

記録は、戦いのあとに残るものだと思っていました。
でも、戦いが起こる前に、
誰かの痛みを残せる記録があるのなら、
それはもう“魔法”だと思います。

ページが閉じられた瞬間、地下の空間が、ほのかに光を帯びた。

「……反応あり」

ユリの声が通信に割って入った。

《微弱な魔力波。だが攻撃性ゼロ。
これは……“共鳴”です。記録された言葉に対し、
空間が“肯定”を返してきている》

まるで、そのページに刻まれた一文字一文字が、
長い時間をかけてようやく、誰かの心に届いたかのようだった。

地上に戻ったつかさとすみれは、ミユキたちに報告を終えたあと、
そっと、契約ノートを差し出した。

「これは、“制度に乗らない記録”です。
でも、“魔法としての記録”にはなると思います」

ミユキは、それを受け取り、静かに頁をめくった。

そして、うなずいた。

「ありがとう。
こういう形で、“魔法”を残してくれる人がいるなら、
私たちは、剣を振るうだけじゃない場所で、生きていける」

魔法とは、何かを倒す力ではない。
何かを見つめ続ける意志だ。

制度には書かれない。
記録にも残らない。
でも、確かにここにいる。

それが“もうひとつの契約”。
LinkLineの中で、静かに灯る“第二の魔法”だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...