魔法少女は会社員

naomikoryo

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第6章:都市の深層

第5話:忘れられた契約

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水曜日、LinkLine資料室。

静かな午後。
壁一面の書架には、都市魔法災害関連の報告書や、異界事例の記録、
そして、まだ誰の目にも触れていない“非公式アーカイヴ”のファイルが並んでいた。

「……私、読みました。アカリさんの記録」

カウンターに肘をついたまま、つかさが言った。
その隣で、すみれが無言のまま頷いた。

「“魔法を与えられなかった人”の記録。
読んでて、胸が苦しくなりました。
だって、彼女、“間違って生まれた”んじゃない。
“制度が彼女を間違いだと決めた”だけで……」

すみれがゆっくりと声を出す。

「わたしも、LinkLineの人たちと出会ってなかったら……
ああいう場所に、いたかもしれないなって、思ったんです。
“ちゃんと話す前に決められる”。
“名前をもらえない”。
そんなの、誰にでも起こりうることで……」

つかさは静かに言った。

「だから、会いに行こうと思います」

「……え?」

「アカリさんに。
直接じゃなくていい。
でも、あの場所に“記録者”として立ちたい。
記録って、ただ“事実を並べる”んじゃないんです。
“忘れないようにする”って、誰かに誓うことだから」

すみれは、それを聞いて、ゆっくりと笑った。

「じゃあ、私も行きます。
私は“剣を持てない魔法少女”だから、
代わりに、言葉を持ちます」

木曜の夜。
新宿地下、第六層のアーカイヴ跡。

再契約者つかさとすみれ、支援班の未紗の3人は、
ミユキたちの了承を得て、施設の再訪を許された。

結界は安定しており、異界反応はなし。
空間は沈黙のままだったが、どこか“見守られているような”静けさだった。

「……ここが、“忘れられた契約”の場所」

すみれは、床にそっと手を当てる。

「何かが“始まらなかった”場所。
でも、それでも誰かが生きていた証なんだよね」

つかさは、肩掛けのバッグから小さなノートを取り出した。
表紙には、銀のペンで「契約ノート」と書かれていた。

「これは、私たちの記録。
でも、“制度に登録されるもの”じゃない。
私たちが“勝手に”始める、“もうひとつの契約”」

未紗が驚いたように目を見開く。

「え……勝手に?」

「うん。行政の認可も、LinkLineの承認もいらない。
これは、“忘れたくない”っていう気持ちだけで書かれる契約。
だから、私はここに書くんです」

つかさは、ノートの1ページ目にこう綴った。

【非公式契約書】
本記録は、魔法の届かなかった者たちの名前を記す。
名を持たず、語られず、記録にも残らなかった感情に対して、
私たちは「ここにいた」と証明する。

すみれがその隣に、こう書き添える。

“契約”とは、力を貸し借りすることではない。
“この世界にあなたが確かにいた”と、もう一人が信じることだ。

最後に未紗が、震える手で記した。

記録は、戦いのあとに残るものだと思っていました。
でも、戦いが起こる前に、
誰かの痛みを残せる記録があるのなら、
それはもう“魔法”だと思います。

ページが閉じられた瞬間、地下の空間が、ほのかに光を帯びた。

「……反応あり」

ユリの声が通信に割って入った。

《微弱な魔力波。だが攻撃性ゼロ。
これは……“共鳴”です。記録された言葉に対し、
空間が“肯定”を返してきている》

まるで、そのページに刻まれた一文字一文字が、
長い時間をかけてようやく、誰かの心に届いたかのようだった。

地上に戻ったつかさとすみれは、ミユキたちに報告を終えたあと、
そっと、契約ノートを差し出した。

「これは、“制度に乗らない記録”です。
でも、“魔法としての記録”にはなると思います」

ミユキは、それを受け取り、静かに頁をめくった。

そして、うなずいた。

「ありがとう。
こういう形で、“魔法”を残してくれる人がいるなら、
私たちは、剣を振るうだけじゃない場所で、生きていける」

魔法とは、何かを倒す力ではない。
何かを見つめ続ける意志だ。

制度には書かれない。
記録にも残らない。
でも、確かにここにいる。

それが“もうひとつの契約”。
LinkLineの中で、静かに灯る“第二の魔法”だった。
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