魔法少女は会社員

naomikoryo

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第7章:制度の亡霊たち

第1話:柏木悠真、都より来る

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朝の会議室に、スーツ姿の男がひとり、落ち着いた笑みを浮かべて座っていた。
整えられた髪、爽やかなネイビーブルーのネクタイ、控えめな都庁の職員証。
LinkLineのメンバーたちが訝しげに見つめる中で、その男は静かに立ち上がった。

「お久しぶり。神代さん。いや、ミユキ、かな」

その声を聞いた瞬間、ミユキの肩がわずかに揺れた。

「……柏木?」

彼は柔らかく頷いた。

「うん、同期だった柏木悠真です。元・矢神総合企画株式会社 第五営業部、
“地下鉄回線調整プロジェクト”で一緒に死にかけた仲じゃないか」

「……あんた、都庁に行ってたの?」

「気づいてなかった? ちょっと前に転職したんだよ。
魔力災害対策課に呼ばれてね。
“この街で魔法がどう扱われてるのか、現場を知ってる人間が足りない”ってさ」

彼の口調は昔と変わらなかった。
おおらかで、飄々としていて、でも絶妙に“人の核心”を外さない。

ミユキは、混乱と懐かしさの入り混じる感情を胸に押し込めながら、言った。

「……なんで黙ってたのよ」

「いや、ミユキの連絡先、あのときスマホ変えたら吹っ飛んじゃってさ。
でも、LinkLineの話が都で出たとき、君の名前見てびっくりしたよ。
“このミユキって、あの神代?”って」

LinkLine本部の全体ミーティングは、柏木を迎える形で行われた。

「改めまして。都庁魔力災害対策課、制度連携担当の柏木悠真です。
今後、LinkLineと都の間で情報連携や制度調整を進める橋渡し役を担当します。
どうぞよろしくお願いします」

その物腰はあくまで丁寧で、軽やか。
つかさやすみれはまだ緊張を隠せず、未紗はきょとんとした顔。
一方、ナナはやや不機嫌に腕を組んだままだ。

「つまり、“制度の口出し役”ってことでしょ?」

「いえいえ。
あくまで“連携”です。
皆さんの活動を都としてもしっかり評価していますし、
だからこそ、社会全体と繋げるための“クッション”が必要だと思ってます」

「へえ、クッションね。柔らかそうで、実は重いのよ、そういうの」

ナナの皮肉にも、柏木は笑顔を崩さない。

「その通り。だからこそ、柔らかく見えても、痛みを受け止められる素材じゃなきゃいけませんよね。
僕は、そういう役回りを選んだつもりです」

ミユキは、口元だけで笑った。
その姿は昔と変わらない。
人当たりが良く、反論しにくい言葉を選びながら、場の中心には絶対に立たない男。

でも――その“影”の使い方が、今はほんの少しだけ、気になった。

会議後、ミユキは柏木を廊下に引き止めた。

「……本当に、都庁に?」

「うん。魔法関係の案件が増えてきた時期だったし、前職よりも手応えがあったんだ。
“人の感情が扱われる仕事”って、すごく興味があって」

「“興味”? 感情に?」

「そう。
だって、魔法って、誰かの感情が動いた瞬間にしか起きないものじゃない?
言い換えれば、それって都市の中で起きる“最も人間らしい現象”だよね。
そこに制度がどう関与すべきか――それを現場で知ってる人が、今必要とされてるんだ」

「……理屈はわかる。でも、何かが引っかかる」

「同期だから?」

「だからこそ。
“昔から知ってる人”の変化って、余計に気づくのよ」

柏木は、それを聞いてから少し笑った。

「変わったよ、僕は。
でも、変わらなかった部分も、ちゃんと残ってる。
君のこと、ずっと尊敬してるし、今でも、ね」

ミユキはそれ以上何も言わず、視線をそらした。

その夜。
柏木悠真は、夜景の差し込む高層マンションの一室で、端末を起動していた。

ID認証。暗号通信。
アクセスコード:Z-C-07

画面に、黒い影が浮かぶ。
映像は乱れている。だが、音声は――

「報告を」

その声は、低く、重く、そしてどこか懐かしい。
LinkLineの誰もが忘れられない、かつての上司――倉持課長の声によく似ていた。

「LinkLineの内部構造は変わらず。
神代ミユキは現在も、“非戦闘的な魔法運用”を組織方針に据えています。
新人契約者たちは彼女の理念に共鳴し、記録活動を強化しています」

「情報収集を続行せよ。
感情の濃度が飽和すれば、記録圧縮に適したタイミングが訪れる。
お前はその扉を開くだけでいい」

柏木は静かに頷いた。

「……了解しました、課長」

「名を呼ぶな。私は、すでに“倉持”ではない」

通信が切れる。

暗闇の中で、柏木は目を閉じた。

デスクの上には、研修時代の古い写真。
ビルの屋上で笑い合う、ミユキと彼の姿。

彼は写真を裏返し、指先で机を叩くように言った。

「君の信じた“魔法”が、どこまで届くか――
僕が、ちゃんと見届けるよ。全部、壊れても」

その声に、感情はなかった。
でも、どこかに“かつての優しさ”の残響が微かに響いていた。
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