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第十九話『対峙』
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月詠堂に帰還した時也たちの前に、予想通り、激しい攻撃が待ち受けていた。
佐伯の張っていた結界は、彼らが「記憶の器」を手に入れたことを察知した寂滅会の、より強力な術によって易々と破られた。
夜空に邪悪な光が瞬き、無数の札が月詠堂目掛けて降り注ぐ。
「来るぞ!」
玄翁の叫びと同時に、土壁が崩れ、戸板が吹き飛ぶ。
寂滅会の術者たちが、蜘蛛の子を散らすように月詠堂に侵入してきた。
その先頭には、冷酷な瞳で時也たちを見据える桐生院咲耶の姿があった。
彼女の全身からは、以前にも増して強大な妖気が放たれている。
「貴様ら…やはり我々の邪魔をするか。」
咲耶の声は、一切の感情を排し、氷のように冷たかった。
彼女の視線は、時也の胸元、古布に包まれた「お守り」に一瞬向けられたが、すぐに無表情に戻った。
「咲耶さん! あなたには…あなたには、大切な記憶があるはずだ! これを見てくれ!」
時也は胸元から「お守り」を取り出し、咲耶に見せようとした。
しかし、咲耶はまるでそれが見えていないかのように、無慈悲な術を放った。
「無駄だ。私には、お前たちが差し出すものなど、何も必要ない。必要なのは、この世に蔓延る穢れを、全て浄滅することだけだ。」
咲耶の放った術は、月詠堂の床をえぐり、時也の足元を狙う。
玄翁が間一髪で時也を突き飛ばし、攻撃を避けた。
「時也様、ここは私たちが食い止めます! あなたは、あの娘にその石を!」
玄翁が叫び、侵入してきた術者たちに向かっていく。
琥珀もまた、素早い身のこなしで術者たちを翻弄し、佐伯は冷静に術の応酬を指揮する。
白磁の君は、恐怖に震えながらも、時也のそばを離れようとはしなかった。
「咲耶さん! 寂滅会は、あなたから大切なものを奪ったんだ! あなたの母親との思い出、温かい家族の記憶を…!」
時也は言葉を投げかけながら、咲耶に近づこうとする。
しかし、咲耶は時也の言葉には耳を貸さず、次々と強力な術を繰り出す。
彼女の瞳の奥には、わずかな動揺が見え隠れしていたが、それを振り払うかのように、より一層強く術を放つ。
「私は…寂滅会の教えに、全てを捧げた。穢れた記憶など、私には不要だ!」
咲耶の術は、まるで嵐のように時也を襲う。
彼はかわすのが精一杯で、なかなか咲耶に近づくことができない。
そのたびに、月詠堂の壁や柱が破壊されていく。
「くそっ…!」
時也は歯を食いしばる。
このままでは、月詠堂が、そして大切な仲間たちが危険に晒されてしまう。
彼は、祖父がかつて寂滅会の術者に行ったという方法を思い出した。
直接、記憶に訴えかけるのだ。
時也は、護符のように「お守り」を握りしめ、自身の妖力を最大まで高めた。
そして、咲耶の術が途切れた一瞬の隙を突き、全身全霊を込めて、その石を咲耶の額目掛けて投げつけた。
石は、まるで吸い寄せられるかのように咲耶の額に吸着した。
その瞬間、咲耶の全身が痙攣し、目を見開いたまま、動きを止めた。
彼女の瞳の奥で、激しい光が明滅する。
◆◇◆
「ああああああああああああああああああああああ!!!」
咲耶は絶叫した。
その声は、苦痛に満ちており、しかし同時に、心の奥底から迸るような、人間らしい悲鳴だった。
彼女の体から放たれていた強大な妖力が乱れ、月詠堂全体が激しく震動する。
他の術者たちは、咲耶の異変に驚き、動きを止める。
玄翁、琥珀、佐伯もまた、その凄まじい妖気の乱れに息を呑んだ。
咲耶の脳裏には、時也が石から読み取った記憶の断片が、洪水のように流れ込んでいた。
母親の優しい笑顔、暖かな日差しの中で遊んだ日々、そして、その手に握られた小さなお守り…。
しかし、それらの記憶は、寂滅会の教えによって塗り潰され、封じられていたはずのもの。
彼女の心の中で、二つの「真実」が激しく衝突し、葛藤が生まれていた。
「私は…私は、何者だ…?」
咲耶は、混乱した表情で呟いた。
その声は、かつての冷徹さを失い、幼い少女のようにか細く、震えていた。
時也は、その姿をじっと見つめる。
これが、彼が望んだ、咲耶の心の揺らぎだった。
しかし、同時に、彼女を苦しめていることへの痛みも感じていた。
戦いは、まだ終わっていない。
だが、確かな一歩は踏み出されたのだ。
佐伯の張っていた結界は、彼らが「記憶の器」を手に入れたことを察知した寂滅会の、より強力な術によって易々と破られた。
夜空に邪悪な光が瞬き、無数の札が月詠堂目掛けて降り注ぐ。
「来るぞ!」
玄翁の叫びと同時に、土壁が崩れ、戸板が吹き飛ぶ。
寂滅会の術者たちが、蜘蛛の子を散らすように月詠堂に侵入してきた。
その先頭には、冷酷な瞳で時也たちを見据える桐生院咲耶の姿があった。
彼女の全身からは、以前にも増して強大な妖気が放たれている。
「貴様ら…やはり我々の邪魔をするか。」
咲耶の声は、一切の感情を排し、氷のように冷たかった。
彼女の視線は、時也の胸元、古布に包まれた「お守り」に一瞬向けられたが、すぐに無表情に戻った。
「咲耶さん! あなたには…あなたには、大切な記憶があるはずだ! これを見てくれ!」
時也は胸元から「お守り」を取り出し、咲耶に見せようとした。
しかし、咲耶はまるでそれが見えていないかのように、無慈悲な術を放った。
「無駄だ。私には、お前たちが差し出すものなど、何も必要ない。必要なのは、この世に蔓延る穢れを、全て浄滅することだけだ。」
咲耶の放った術は、月詠堂の床をえぐり、時也の足元を狙う。
玄翁が間一髪で時也を突き飛ばし、攻撃を避けた。
「時也様、ここは私たちが食い止めます! あなたは、あの娘にその石を!」
玄翁が叫び、侵入してきた術者たちに向かっていく。
琥珀もまた、素早い身のこなしで術者たちを翻弄し、佐伯は冷静に術の応酬を指揮する。
白磁の君は、恐怖に震えながらも、時也のそばを離れようとはしなかった。
「咲耶さん! 寂滅会は、あなたから大切なものを奪ったんだ! あなたの母親との思い出、温かい家族の記憶を…!」
時也は言葉を投げかけながら、咲耶に近づこうとする。
しかし、咲耶は時也の言葉には耳を貸さず、次々と強力な術を繰り出す。
彼女の瞳の奥には、わずかな動揺が見え隠れしていたが、それを振り払うかのように、より一層強く術を放つ。
「私は…寂滅会の教えに、全てを捧げた。穢れた記憶など、私には不要だ!」
咲耶の術は、まるで嵐のように時也を襲う。
彼はかわすのが精一杯で、なかなか咲耶に近づくことができない。
そのたびに、月詠堂の壁や柱が破壊されていく。
「くそっ…!」
時也は歯を食いしばる。
このままでは、月詠堂が、そして大切な仲間たちが危険に晒されてしまう。
彼は、祖父がかつて寂滅会の術者に行ったという方法を思い出した。
直接、記憶に訴えかけるのだ。
時也は、護符のように「お守り」を握りしめ、自身の妖力を最大まで高めた。
そして、咲耶の術が途切れた一瞬の隙を突き、全身全霊を込めて、その石を咲耶の額目掛けて投げつけた。
石は、まるで吸い寄せられるかのように咲耶の額に吸着した。
その瞬間、咲耶の全身が痙攣し、目を見開いたまま、動きを止めた。
彼女の瞳の奥で、激しい光が明滅する。
◆◇◆
「ああああああああああああああああああああああ!!!」
咲耶は絶叫した。
その声は、苦痛に満ちており、しかし同時に、心の奥底から迸るような、人間らしい悲鳴だった。
彼女の体から放たれていた強大な妖力が乱れ、月詠堂全体が激しく震動する。
他の術者たちは、咲耶の異変に驚き、動きを止める。
玄翁、琥珀、佐伯もまた、その凄まじい妖気の乱れに息を呑んだ。
咲耶の脳裏には、時也が石から読み取った記憶の断片が、洪水のように流れ込んでいた。
母親の優しい笑顔、暖かな日差しの中で遊んだ日々、そして、その手に握られた小さなお守り…。
しかし、それらの記憶は、寂滅会の教えによって塗り潰され、封じられていたはずのもの。
彼女の心の中で、二つの「真実」が激しく衝突し、葛藤が生まれていた。
「私は…私は、何者だ…?」
咲耶は、混乱した表情で呟いた。
その声は、かつての冷徹さを失い、幼い少女のようにか細く、震えていた。
時也は、その姿をじっと見つめる。
これが、彼が望んだ、咲耶の心の揺らぎだった。
しかし、同時に、彼女を苦しめていることへの痛みも感じていた。
戦いは、まだ終わっていない。
だが、確かな一歩は踏み出されたのだ。
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