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第十八話『記憶の器』
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「見つけた…!」
時也の声が、古びた空き家に響き渡った。
掌に握られた小さな石は、微かな温もりを放っている。
その温かさは、時也の心に安堵と、確かな希望をもたらした。
外では、玄翁と琥珀、佐伯が寂滅会の術者を圧倒する音が聞こえていたが、時也の意識は、完全にこの石に集中していた。
時也が石に触れた瞬間、脳裏に流れ込んできたのは、幼い咲耶の記憶だった。
それは、温かい光景だった。
母親が、この石を咲耶の小さな手に握らせ、「サクヤの心を強く守ってくれるお守りだよ」と優しく語りかけている。
幼い咲耶は、その言葉に目を輝かせ、大切そうに石を抱きしめていた。
満面の笑みを浮かべた親子の姿。
それは、現在の桐生院咲耶からは想像もできない、純粋で、温かい愛情に満ちた記憶だった。
時也は、その記憶の断片を通して、咲耶の心の奥底に、まだ人間としての温かさが残っていることを確信した。
この石は、単なるお守りではない。
咲耶が寂滅会に染まる前の、かけがえのない記憶と感情が凝縮された、「記憶の器」なのだ。
◆◇◆
やがて、外の騒ぎが収まった。
佐伯たちが家の中に入ってくる。
「時也様、ご無事でしたか!」
玄翁が駆け寄ってくる。
その手には、完全に意識を失った寂滅会の術者が捕らえられていた。
「この術者は、我々が咲耶様の故郷を探していることを察知し、先回りしてこの家を監視していたようです。我々が踏み込んだことに気づき、妨害しようとしたのでしょう。」
佐伯は冷静に状況を説明した。
寂滅会は、咲耶の過去が暴かれることを、よほど警戒しているらしい。
「佐伯さん、これを見てください。」
時也は、掌の石を佐伯に見せた。
佐伯は石を受け取ると、その目に宿る妖力を読み取ろうとするかのように、じっと見つめた。
「これは…確かに、強力な念が込められています。しかも、それは怨念や呪詛といった類のものではなく…むしろ、純粋な、護りの力が。」
佐伯の言葉に、時也は深く頷いた。
「これに触れたとき、幼い咲耶さんの記憶が流れ込んできました。彼女がお母様から受け取った、大切なお守りの記憶です。」
時也の言葉に、佐伯の顔に驚きの色が浮かんだ。
「なるほど…時也様の力をもってすれば、その品の持つ『物語』を読み解くことができるのですね。これは、まさに祖父上が使われた方法と同じ…この石こそが、桐生院咲耶の心を動かす鍵となる『記憶の器』に違いありません。」
佐伯は、石を慎重に古布で包み直し、時也に返した。
「ですが、問題はここからです。この石を、どのようにして桐生院咲耶に突きつけるか。彼女は容易に我々の言葉に耳を傾けるような相手ではありません。しかも、寂滅会はすでに我々の動きを察知しています。おそらく、月詠堂に戻れば、さらなる激しい攻撃が待ち受けているでしょう。」
佐伯の言う通りだった。
この「お守り」を手に入れたことは大きな一歩だが、本当の戦いはこれからだ。
時也は、古布に包まれた石を胸に抱きしめた。
「分かっています。この石が、僕たちの最後の切り札になる。だからこそ、必ず、彼女に届けてみせます。」
時也の目は、固い決意に満ちていた。
彼の脳裏には、寂滅会に囚われた咲耶の姿と、幼い咲耶の無邪気な笑顔が交互に浮かび上がる。
どちらの咲耶も、彼には放っておけない存在だった。
◆◇◆
月詠堂への帰路は、当然のように平穏ではなかった。
幾度か寂滅会の追っ手に遭遇したが、その度に、玄翁の剛力、琥珀の機転、そして佐伯の冷静な判断が、彼らを危機から救った。
白磁の君もまた、その澄んだ瞳で周囲の気配を察知し、危険をいち早く時也に伝える役割を果たした。
月詠堂に帰り着いた時、彼らは皆、疲労困憊していた。
しかし、その顔には、確かな手応えと、一抹の希望が宿っていた。
手に入れた「記憶の器」を手に、時也は来るべき最終決戦に備える。
果たして、この小さな石が、強固な信念に囚われた桐生院咲耶の心を、本当に解き放つことができるのだろうか。
その答えは、次なる対峙の場で、明らかになるだろう。
時也の声が、古びた空き家に響き渡った。
掌に握られた小さな石は、微かな温もりを放っている。
その温かさは、時也の心に安堵と、確かな希望をもたらした。
外では、玄翁と琥珀、佐伯が寂滅会の術者を圧倒する音が聞こえていたが、時也の意識は、完全にこの石に集中していた。
時也が石に触れた瞬間、脳裏に流れ込んできたのは、幼い咲耶の記憶だった。
それは、温かい光景だった。
母親が、この石を咲耶の小さな手に握らせ、「サクヤの心を強く守ってくれるお守りだよ」と優しく語りかけている。
幼い咲耶は、その言葉に目を輝かせ、大切そうに石を抱きしめていた。
満面の笑みを浮かべた親子の姿。
それは、現在の桐生院咲耶からは想像もできない、純粋で、温かい愛情に満ちた記憶だった。
時也は、その記憶の断片を通して、咲耶の心の奥底に、まだ人間としての温かさが残っていることを確信した。
この石は、単なるお守りではない。
咲耶が寂滅会に染まる前の、かけがえのない記憶と感情が凝縮された、「記憶の器」なのだ。
◆◇◆
やがて、外の騒ぎが収まった。
佐伯たちが家の中に入ってくる。
「時也様、ご無事でしたか!」
玄翁が駆け寄ってくる。
その手には、完全に意識を失った寂滅会の術者が捕らえられていた。
「この術者は、我々が咲耶様の故郷を探していることを察知し、先回りしてこの家を監視していたようです。我々が踏み込んだことに気づき、妨害しようとしたのでしょう。」
佐伯は冷静に状況を説明した。
寂滅会は、咲耶の過去が暴かれることを、よほど警戒しているらしい。
「佐伯さん、これを見てください。」
時也は、掌の石を佐伯に見せた。
佐伯は石を受け取ると、その目に宿る妖力を読み取ろうとするかのように、じっと見つめた。
「これは…確かに、強力な念が込められています。しかも、それは怨念や呪詛といった類のものではなく…むしろ、純粋な、護りの力が。」
佐伯の言葉に、時也は深く頷いた。
「これに触れたとき、幼い咲耶さんの記憶が流れ込んできました。彼女がお母様から受け取った、大切なお守りの記憶です。」
時也の言葉に、佐伯の顔に驚きの色が浮かんだ。
「なるほど…時也様の力をもってすれば、その品の持つ『物語』を読み解くことができるのですね。これは、まさに祖父上が使われた方法と同じ…この石こそが、桐生院咲耶の心を動かす鍵となる『記憶の器』に違いありません。」
佐伯は、石を慎重に古布で包み直し、時也に返した。
「ですが、問題はここからです。この石を、どのようにして桐生院咲耶に突きつけるか。彼女は容易に我々の言葉に耳を傾けるような相手ではありません。しかも、寂滅会はすでに我々の動きを察知しています。おそらく、月詠堂に戻れば、さらなる激しい攻撃が待ち受けているでしょう。」
佐伯の言う通りだった。
この「お守り」を手に入れたことは大きな一歩だが、本当の戦いはこれからだ。
時也は、古布に包まれた石を胸に抱きしめた。
「分かっています。この石が、僕たちの最後の切り札になる。だからこそ、必ず、彼女に届けてみせます。」
時也の目は、固い決意に満ちていた。
彼の脳裏には、寂滅会に囚われた咲耶の姿と、幼い咲耶の無邪気な笑顔が交互に浮かび上がる。
どちらの咲耶も、彼には放っておけない存在だった。
◆◇◆
月詠堂への帰路は、当然のように平穏ではなかった。
幾度か寂滅会の追っ手に遭遇したが、その度に、玄翁の剛力、琥珀の機転、そして佐伯の冷静な判断が、彼らを危機から救った。
白磁の君もまた、その澄んだ瞳で周囲の気配を察知し、危険をいち早く時也に伝える役割を果たした。
月詠堂に帰り着いた時、彼らは皆、疲労困憊していた。
しかし、その顔には、確かな手応えと、一抹の希望が宿っていた。
手に入れた「記憶の器」を手に、時也は来るべき最終決戦に備える。
果たして、この小さな石が、強固な信念に囚われた桐生院咲耶の心を、本当に解き放つことができるのだろうか。
その答えは、次なる対峙の場で、明らかになるだろう。
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