逢魔ヶ刻の迷い子4 ~波間に消えた誓い

naomikoryo

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宿の裏口に潜む影

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誠の霊が指差した宿の裏口。

 そこに、彼の死の真相が眠っている——。

 六人と女性は緊張した面持ちで顔を見合わせた。

「……行くしかないよな」

 隼人が低く呟く。

「でも、危険かもしれない……」

 美咲が不安げに言う。

「誠さんがここまで導いてくれたんだ。きっと何かあるはず」

 陽介が静かに言った。

 六人は深く息を吸い込み、ゆっくりと宿の裏口へと向かった。

静まり返る裏庭
 宿の裏口に出ると、そこはしんと静まり返っていた。

 虫の声さえも聞こえない。

 まるで、ここだけ異世界のような空気が漂っている。

「……何か、おかしい」

 大輝が周囲を警戒する。

 「誠さんが指したのは、ここ……」

 由香が指差した先には、古びた倉庫があった。

 錆びたトタンの壁、崩れかけた屋根——長年放置されていたように見える。

「こんな場所……あったっけ?」

 紗奈が戸惑う。

「俺の家だけど、こんな倉庫知らねぇぞ」

 隼人が驚いたように言う。

「でも、誠さんはここを指してた」

 美咲が倉庫の扉に手をかけた。

 ギィ……

 扉を押すと、古びた蝶番が軋む音を立てた。

「開いた……」

 そして、中に足を踏み入れる——その瞬間。

 ブワッ!!

 突如、冷たい風が吹き抜けた。

「うわっ!」

 六人は思わず身を縮める。

 すると、倉庫の奥から——。

 何かが、こちらを見ていた。

倉庫の闇
 「……誰か、いるの……?」

 由香が震える声で尋ねた。

 だが、返事はない。

 それでも、暗闇の奥には確かに**“何か”がいた。**

 じっと、こちらを見つめている。

「気のせいじゃない……よな?」

 陽介が低く呟く。

「いや……確実に何かいる」

 隼人が警戒を強める。

 すると——。

 コツ……コツ……

 何かが、ゆっくりと近づいてきた。

「っ……!」

 六人は息を呑む。

 そして、その影が月明かりに照らされた瞬間——。

 彼らは絶句した。

もう一つの遺体
 そこにあったのは——。

 白骨化した遺体だった。

「……嘘……」

 美咲が青ざめる。

 遺体は古い衣服をまとい、崩れた姿勢で座っていた。

 しかし、何よりも異様だったのは、その骨の手に握られている一枚の写真だった。

 紗奈が震える手で写真を拾い上げる。

「これ……誠さん……?」

 そこには、確かに誠の姿が映っていた。

 だが、彼の隣には——見知らぬ男が写っている。

「この男……誰?」

 由香が眉をひそめる。

 その時、背後から——。

 「黒崎だ」

 低い声が響いた。

「っ……!!」

 六人が振り向くと、そこには坂本翔が立っていた。

黒崎の正体
「……お前、何でここに?」

 隼人が警戒する。

 翔は無表情のまま、白骨化した遺体を見下ろした。

「……やっぱり、ここにあったか」

「やっぱりって……知ってたのか?」

 陽介が詰め寄る。

 翔はゆっくりと息を吐いた。

「……誠が脅されてたって言ったろ?」

「ああ」

「脅してたのは、こいつだ」

 翔が遺体を指差した。

「……この遺体が“黒崎”?」

 大輝が驚く。

「そうだ。こいつは東京のヤクザ者でな……誠は、こいつに“金を払え”って脅されてた」

「……え?」

「誠は、もともと東京で詐欺に巻き込まれたんだよ。黒崎は、その金を回収しようとしてた……」

 六人は言葉を失った。

 誠が逃げていたのは、この男からだったのか。

「じゃあ、誠さんは黒崎に脅されて……」

「そうだ。だが、ある日、誠は黒崎をここに呼び出して……逆に殺した」

「!!」

 全員が息を呑んだ。

「誠は、こいつを消すことで、自分の自由を得ようとしたんだ……」

「でも、どうして誠さんが死んだ?」

 由香が疑問を口にする。

 翔は静かに答えた。

「誠は、黒崎を殺したあと、自分も消されると思ったんだろう」

「だから……自分から海に?」

 紗奈が震える声で言う。

「たぶんな……」

 翔は静かに遺体を見つめた。

 「これが、誠の本当の過去だ」

 六人は沈黙した。

 真相は、あまりにも悲惨だった。

「じゃあ……誠さんの霊は、何を伝えたかったんだ?」

 美咲が呟く。

 翔は、ゆっくりと答えた。

「誠は、罪を償いたかったんだろう……。だけど、俺は、こいつの死を無駄にしたくない」

「……?」

 「こいつは、死んでなお、彼女を守ろうとしてたんだよ」

 翔の視線の先には、女性がいた。

 彼女は涙を流しながら、誠の霊を見つめていた。

「……誠……」

 彼女の声に、霊が静かに頷く。

 そして、ゆっくりと姿を消していった——。
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