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三上良子②
8:妄想②
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あちらこちらでヒグラシの声が聞こえる夕方、良子は小走りに矢崎病院へ入った。
「こんにちわ~。」
「やぁ~君かい。今日は何か?」
良子は持ってきた紙袋を差し出して、
「こないだのほんのお礼だそうです。」
病院内に入り込む光の加減で男の様子は影のように暗かったが、
「いいよ、そんなもの。病院として当たり前のことをしただけだ。」
ぶっきらぼうに答えた男の顔がはっきり映し出された。
髭がなく、すっきりした顔立ちの涼だった。
(あっ!)
良子はちょっと不思議な感覚に襲われたが、
「そうはいっても、あんなによくしていただいて・・・・・・」
「だから当たり前なんだって・・・・・・」
「肛門に指まで入れて・・・・・」
結局ニャンピーは極度の便秘状態で、それも肛門付近で固まってしまった毛の塊が原因だった。
あの日、矢崎がそれを指で取り除いてやったことでニャンピーは一気に元気になった。
それを社長に話すと、
「そんな風にしてくれたなんて!」
とひどく感動して今回のお礼騒動となった。
「子供たちからもお礼の手紙が入っているそうです。」
「・・・・・・・・・・・」
「それでも要らないって言うなら、」
「わかったよ!」
そう言いながら近寄って半ば奪い取るかのように良子から紙袋を取った。
「他に用がないなら帰ってくれ。」
男は良子からふらふら離れながら言った。
(なんか様子がおかしいわ・・・・・・)
「具合が悪いの?」
「別に・・・・・・そんなことはない。」
「そう・・・・・・・・」
(そういえば顔も何か赤かったような・・・・・・)
「まぁいいわ。子供たちの手紙はきちんと読んであげてね。」
そう言いながら良子は病院を出た。
会社の前まで戻ってきて、病院のサンダルを履いていることに気付いた。
(いやだわ、わたしってば・・・・・)
急いで病院に戻り玄関に入ると自分の靴に履き直した。
「靴をはき替えに戻っただけですから~。」
大きな声で叫んでみたがシーンと静まりかえっているだけだった。
(どこかに行ったのかしら?・・・・・・ま、こんな患者さんも来ない病院じゃね。)
フン、という感じで行こうとして、それでも何気なく受付の中を覗いてみた。
「あっ!!!」
矢崎が床に両膝をついた状態で、診察室に行く手前にある丸椅子にもたれかかっていた。
背中をこちらに向けているカッコで、よく見ると背中でゼェーゼェー言っているようだ。
「ちょっと!大丈夫なの~。」
良子は急いで靴を脱ぐと診察室から入って矢崎のそばに行った。
矢崎の後ろから肩に触れると物凄く熱かった。
「あついっ!・・・・・・熱があるんじゃないの?」
そう言いながら額に手を当てるとかなり熱がありそうだった。
「馬鹿ね、具合が悪いならそう言えばいいのに!」
そう言いながら起こそうとするが重く、
「起きれない?ねぇ、とりあえずそこのベッドに横になったら。」
診察台の奥に低めの簡易ベッドらしきものを見つけそう言った。
(も~なんなのよ、面倒だこと~!)
「あ、あぁ・・・・・」
矢崎は酷く辛そうに、それでも
「よしっ。」
と言いながら立ち上がった。
瞬間、ふらふらっと倒れそうになった。
(あぶない!)
良子は右肩の下に潜り込んでそれを支えた。
「すまねぇ。」
力なく言う矢崎に、
(そんなことも言うのね・・・・・)
「さ、とりあえず横になりましょう。」
と優しく言い、何とか寝かせることが出来た。
「体温計は?熱計ってないんでしょ?」
矢崎は黙って棚を指差した。
良子は体温計を探し出し何とか無理やり熱を計った。
「40度超えてるじゃない!!インフルエンザ?」
(やばい!!うつったら大変!!)
急いで棚にあったマスクをして、
「も~!・・・・・・・人間用の薬はないの?」
「ない。」
「病院に行けそう?」
「無理。でも、帰れ。」
「帰れって、このままほっとけないでしょ!」
薄い掛布団をかけながら、
「寒くない?」
「・・・・・・」
「お腹すいてない?」
「・・・・・・」
「のど乾いてない?」
「・・・・・・」
「ヒエピタとかないの?・・・・・・・も~!!!」
良子は棚とか診察室とか行ったり来たりしながら何かないか探した。
「ちょっと!!何か返事しなさいよ!」
足で床をドンってしてそう言いながら矢崎を見ると、ぼんやりした目つきではあるもののニコッと笑いながら、
「ごめん、のどが渇いてるかな。」
良子はその笑顔にドキッとしながらも
「わ、わかったわ。」
と言いながらコップに水を入れて矢崎に飲ませた。
「家に帰れる?」
「ここが家だから大丈夫だ。」
(え~ここが家なの~??)
「このままちょっと寝てれば大丈夫だ。」
「何が大丈夫なの!!・・・・・・とにかく掛布団もう少しないの?」
「上にある。」
「上?」
「奥の階段から二階に行けばある。」
(二階が自宅ってわけね。)
「家族の人は二階にいるの?」
「誰もいない。」
「出掛けてるの?」
「もともといない。」
「そ、そうなの。・・・・・・・じゃあ、とりあえず二階に行ける?」
「あぁ・・・・・」
そう言いながら起き上がろうとするので良子もまた肩を貸して何とか二階にたどり着いた。
(うわっ!!)
二階はすぐに居間のようだがすぐ手前のキッチンはかなり荒れていた。
部屋中にごみではなさそうだが、衣類やタオルなどが散乱していた。
矢崎が何とか部屋の電気をつけると惨状が明らかに分かった。
(きったな~い!!何、あのテーブルの上の酒ビン!!!)
「その奥が寝室だから・・・・・」
とりあえず寝室に入り何とかベッドに寝かせることが出来た。
(とりあえず会社に戻って出直して来よう)
「じゃあ、ちょっと会社に戻って又来るから。」
そう言ったが矢崎は寝付いたようだった。
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あちらこちらでヒグラシの声が聞こえる夕方、良子は小走りに矢崎病院へ入った。
「こんにちわ~。」
「やぁ~君かい。今日は何か?」
良子は持ってきた紙袋を差し出して、
「こないだのほんのお礼だそうです。」
病院内に入り込む光の加減で男の様子は影のように暗かったが、
「いいよ、そんなもの。病院として当たり前のことをしただけだ。」
ぶっきらぼうに答えた男の顔がはっきり映し出された。
髭がなく、すっきりした顔立ちの涼だった。
(あっ!)
良子はちょっと不思議な感覚に襲われたが、
「そうはいっても、あんなによくしていただいて・・・・・・」
「だから当たり前なんだって・・・・・・」
「肛門に指まで入れて・・・・・」
結局ニャンピーは極度の便秘状態で、それも肛門付近で固まってしまった毛の塊が原因だった。
あの日、矢崎がそれを指で取り除いてやったことでニャンピーは一気に元気になった。
それを社長に話すと、
「そんな風にしてくれたなんて!」
とひどく感動して今回のお礼騒動となった。
「子供たちからもお礼の手紙が入っているそうです。」
「・・・・・・・・・・・」
「それでも要らないって言うなら、」
「わかったよ!」
そう言いながら近寄って半ば奪い取るかのように良子から紙袋を取った。
「他に用がないなら帰ってくれ。」
男は良子からふらふら離れながら言った。
(なんか様子がおかしいわ・・・・・・)
「具合が悪いの?」
「別に・・・・・・そんなことはない。」
「そう・・・・・・・・」
(そういえば顔も何か赤かったような・・・・・・)
「まぁいいわ。子供たちの手紙はきちんと読んであげてね。」
そう言いながら良子は病院を出た。
会社の前まで戻ってきて、病院のサンダルを履いていることに気付いた。
(いやだわ、わたしってば・・・・・)
急いで病院に戻り玄関に入ると自分の靴に履き直した。
「靴をはき替えに戻っただけですから~。」
大きな声で叫んでみたがシーンと静まりかえっているだけだった。
(どこかに行ったのかしら?・・・・・・ま、こんな患者さんも来ない病院じゃね。)
フン、という感じで行こうとして、それでも何気なく受付の中を覗いてみた。
「あっ!!!」
矢崎が床に両膝をついた状態で、診察室に行く手前にある丸椅子にもたれかかっていた。
背中をこちらに向けているカッコで、よく見ると背中でゼェーゼェー言っているようだ。
「ちょっと!大丈夫なの~。」
良子は急いで靴を脱ぐと診察室から入って矢崎のそばに行った。
矢崎の後ろから肩に触れると物凄く熱かった。
「あついっ!・・・・・・熱があるんじゃないの?」
そう言いながら額に手を当てるとかなり熱がありそうだった。
「馬鹿ね、具合が悪いならそう言えばいいのに!」
そう言いながら起こそうとするが重く、
「起きれない?ねぇ、とりあえずそこのベッドに横になったら。」
診察台の奥に低めの簡易ベッドらしきものを見つけそう言った。
(も~なんなのよ、面倒だこと~!)
「あ、あぁ・・・・・」
矢崎は酷く辛そうに、それでも
「よしっ。」
と言いながら立ち上がった。
瞬間、ふらふらっと倒れそうになった。
(あぶない!)
良子は右肩の下に潜り込んでそれを支えた。
「すまねぇ。」
力なく言う矢崎に、
(そんなことも言うのね・・・・・)
「さ、とりあえず横になりましょう。」
と優しく言い、何とか寝かせることが出来た。
「体温計は?熱計ってないんでしょ?」
矢崎は黙って棚を指差した。
良子は体温計を探し出し何とか無理やり熱を計った。
「40度超えてるじゃない!!インフルエンザ?」
(やばい!!うつったら大変!!)
急いで棚にあったマスクをして、
「も~!・・・・・・・人間用の薬はないの?」
「ない。」
「病院に行けそう?」
「無理。でも、帰れ。」
「帰れって、このままほっとけないでしょ!」
薄い掛布団をかけながら、
「寒くない?」
「・・・・・・」
「お腹すいてない?」
「・・・・・・」
「のど乾いてない?」
「・・・・・・」
「ヒエピタとかないの?・・・・・・・も~!!!」
良子は棚とか診察室とか行ったり来たりしながら何かないか探した。
「ちょっと!!何か返事しなさいよ!」
足で床をドンってしてそう言いながら矢崎を見ると、ぼんやりした目つきではあるもののニコッと笑いながら、
「ごめん、のどが渇いてるかな。」
良子はその笑顔にドキッとしながらも
「わ、わかったわ。」
と言いながらコップに水を入れて矢崎に飲ませた。
「家に帰れる?」
「ここが家だから大丈夫だ。」
(え~ここが家なの~??)
「このままちょっと寝てれば大丈夫だ。」
「何が大丈夫なの!!・・・・・・とにかく掛布団もう少しないの?」
「上にある。」
「上?」
「奥の階段から二階に行けばある。」
(二階が自宅ってわけね。)
「家族の人は二階にいるの?」
「誰もいない。」
「出掛けてるの?」
「もともといない。」
「そ、そうなの。・・・・・・・じゃあ、とりあえず二階に行ける?」
「あぁ・・・・・」
そう言いながら起き上がろうとするので良子もまた肩を貸して何とか二階にたどり着いた。
(うわっ!!)
二階はすぐに居間のようだがすぐ手前のキッチンはかなり荒れていた。
部屋中にごみではなさそうだが、衣類やタオルなどが散乱していた。
矢崎が何とか部屋の電気をつけると惨状が明らかに分かった。
(きったな~い!!何、あのテーブルの上の酒ビン!!!)
「その奥が寝室だから・・・・・」
とりあえず寝室に入り何とかベッドに寝かせることが出来た。
(とりあえず会社に戻って出直して来よう)
「じゃあ、ちょっと会社に戻って又来るから。」
そう言ったが矢崎は寝付いたようだった。
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