悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

文字の大きさ
1 / 136

第0話『駅のホーム、猫と電車と異世界と』

しおりを挟む
 「……うっわ、最悪や。よりによって、こんな日にかいな……」

 黒須隼人、38歳。大阪生まれ大阪育ち。
 仕事帰りの夜、彼はいつものようにJRのホームに立っていた。

 目の下にクマ、ネクタイは緩めたまま、肩には重たい書類カバン。
 今日も今日とて、高校三年生にベクトルの証明を教えて、精神がごっそり持っていかれたばっかりや。

 「明日も授業か……あ~もう、誰か代わってくれんかなぁ」

 アメちゃんをぽいっと口に入れながら、ベンチに腰を下ろす。
 そのときや――

 「……ん? なんかおる……猫か?」

 線路の向こう側、黒い小さな影がピョンと飛び出した。
 ふわふわの毛並み、尖った耳。どう見ても、子猫や。

 「うそやろ!? おいおい、線路降りたらあかんて!」

 猫はすでに線路の中央で立ちすくんでた。
 ホームのアナウンスが「電車がまいります」と告げ、前方には眩しいライトが見える。

 (これ……助けな間に合わん!)

 体が勝手に動いた。

 カバンを放り出し、飛び降りた。
 走る。必死で、猫のもとへ。
 直前、猫を抱き上げ、背を向けるようにして――

 「ッ……!」

 光と音が爆発する。視界がぐにゃりと歪んで、身体が宙に浮いた感覚。
 耳鳴りと共に、辺りが闇に包まれていく。

◆◇◆

 気づいた時、空が……変わってた。

 「は?」

 そこは、見たことのない森やった。
 夜空には二つの月が浮かび、空気は妙に澄んでる。虫の鳴き声すら、聞いたことのない音色。

 「え、なんやここ……? どこやねん……てか、生きてる……? え、ワイ死んだんちゃうんか?」

 猫はいない。線路も、駅も、スマホも、財布も、何一つない。
 代わりに、妙に動きやすい服を着ていて、腰には小袋が下がっていた。覗いてみたら……薬草らしきものが少し。

 「これ、ゲームの世界とか、そんなんか……?」

 自分の手を見て驚く。
 骨ばっていたはずの指がすらりと伸び、若々しくなっている。
 手足も長くなり、腹筋も引き締まってる。鏡がないが、感触でわかる。体が若返ってる。

 「うそぉん……ワイ、20歳ぐらいに戻ってへん? なにこれ……バグ? まさか、転移とかいうアレかいな……」

 夢やと何度も思いたかったが、冷たい夜風がリアルすぎる。
 何もかもが、現実として五感に刺さってきよる。

 その後の3日間、地獄やった。

 言葉が完全には通じず(けど関西弁は意外と通じた)、野宿と空腹で心が折れかける。
 必死に街を目指して歩き、やっとの思いで石壁の巨大な都市――「レオリアの門」に辿り着く。

 門番に言葉が通じた時、カイは思わず泣きそうになった。

 (うわぁ、ほんまに人おる……文明って最高やわ……)

◆◇◆

 街に入ってすぐ、香ばしい匂いに誘われて、屋台へとふらふら歩いていった。
 炭火で焼いた串肉、香草の香りが鼻をくすぐる。

 「すんまへん、その串焼き一本……」

 「はいよ、一本三ダルだよ!」

 (……三ダル? 通貨単位やな。まぁ、なんとかなるやろ……)

 そう思って、ポーチを開く。
 中を覗いて、顔が引きつった。

 「…………え?」

 銅貨すら、一枚もない。ほんまにゼロ。
 自販機にも通用せんレベルの無一文や。

 「……兄ちゃん、金ないのかい?」

 「……は、はは……せやな……金、持ってへんねん……」

 「……見るに、旅人だな。ほら、腹減ってるだろ、食っとけ」

 おっちゃんは笑って串焼きを差し出そうとした。
 けど、カイは手を引っ込めた。

 「気持ちだけもろとくわ。タダでもろても味せぇへんやろ」

◆◇◆

 その夜、また空腹と共に、冷たい石畳の路地裏に座り込んでいた。
 限界が近かった。意識が朦朧とする。

 (……やっぱ、死んだんやな、ワイ……)

 そんな時や。目の前で、バサッと何かが倒れる音がした。

 「……お、おっちゃん!? 大丈夫か!?」

 倒れていたのは、ローブを着た白髪の老人。
 額から血を流していて、呼吸も浅い。

 (うわっ、ヤバいやつやん……え、放っとけへんで!?)

 慌てて駆け寄り、手持ちの薬草を噛んでペーストにし、出血箇所に当てる。
 包帯なんてないから、ローブの裾を裂いて止血した。

 しばらくして、老人はかすかに目を開けた。

 「……お前……助けてくれたのか……」

 「せやけど、医者やないで。高校教師や。数学の。て、言うても伝わらんか……」

 老人はしばらく黙っていたが、ふっと笑って言った。

 「名は……?」

 「黒須隼人。けど、ここでは……ちょっと長いかもしれんから、カイでええわ」

 老人は静かに目を閉じて呟いた。

 「カイ……良い響きだ。では、お前には新たな名を授けよう。“カイ・クロス”だ。“交差点”の意を持つ名。世界の境を越えてきた者に、相応しい」

 「……クロス、か。まぁ……悪くあらへんな」

◆◇◆

 その後、カイは老人に連れられて街の奥にある立派な屋敷へ。
 そこは、ロゼリア王立魔法学園の学園長邸やった。

 老人は学園の長であり、魔法界の大権威でもある人物やった。
 彼は、異世界から来たカイの話を真剣に聞き、こう言った。

 「この世界には、“数学”の概念が未成熟だ。君の知識は……いや、才能は、この世界の魔法理論を変えるかもしれん」

 「は、はぁ……ワイ、ただの教師やけどな……?」

 「偶然にも、今日、数学の臨時講師が辞めた。どうか、代わりに教鞭を執ってくれないか?」

 「……しゃーないな。腹も減ったし、雨風しのげるなら、やらんでもないで?」

 こうして、異世界に転移してきた大阪の元教師・黒須隼人は、
 “カイ・クロス”として、新たな人生を歩み始める。

 王族と悪役令嬢と魔法の世界。
 飴ちゃん片手に、関西弁全開で――

 まだ誰も知らへん。
 この男が、王国をひっくり返す伝説の“バグ”になるとは――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...