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第43話『舞踏会とお好み焼き騒動』【カイとルーティアの夏休み編⑫】
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夏休みも終盤に差しかかったある日、公爵邸に煌びやかな封筒が届けられた。
金の封蝋に刻まれた紋章は、王都のもの。
「舞踏会……?」
ルーティアが手紙を開き、眉を上げる。
「そうですわ、王宮主催の舞踏会。……そしてここに書いてありますの。“カイ・クロス殿を伴い出席のこと”と」
「はぁ!? なんでワイが!」
カイは大声を上げた。
ルーティアは涼しい顔で肩をすくめる。
「当然でしょう? この夏、領地を救った英雄ですもの。しかも私の旦那様ですし」
「旦那様言うな! それに英雄なんて柄ちゃうわ!」
「……まぁ、呼ばれてしまったからには仕方ないでしょう? さぁ、旦那様。王都へお出かけですわ」
「奥様モードやめぇぇ!」
◆◇◆
かくして、数日後。
二人は王都の大通りに足を踏み入れた。
広々とした石畳の通りには、高級な衣装店や宝飾店が立ち並び、馬車や人波で賑わっている。
行き交う人々は、ひときわ目を引くルーティアの美貌に気づいて振り返り、その隣にいるカイを好奇心のこもった視線で見やった。
「うぅ……場違い感すごいなぁ」
「大丈夫ですわ、カイ。いえ、旦那様っていうか…旦那様?」
「二回言ったな!? 二回目のは確信犯やろ!」
まず向かったのは、仕立屋だった。
天井まで布地と衣装が並ぶ豪華な店内で、老齢の仕立師がカイを見るなり目を細める。
「ほほう……体格は悪くない。だが服が合っておらんのは罪ですぞ」
「罪て……」
測定が始まると、ルーティアは後ろからにやにやしながら観察する。
「ふふっ……カイ、少し緊張なさってます?」
「そら緊張するやろ! 手広げたまま動くな言われて固まっとるんや!」
採寸を終えた仕立師が断言する。
「王宮舞踏会用の燕尾服を誂えましょう。似合うはずです」
「似合う……旦那様、きっと素敵ですわ」
「また旦那様言うた!」
服の仕上がりは数日後とのこと。
帰り道、ルーティアとカイは王都の下町へと足を延ばした。
大通りから外れた先に、香ばしい匂いが漂ってくる。
「おや……これは」
カイの鼻がぴくりと動いた。
小さな屋台で鉄板に何かを焼いている。
粉を練って平たく伸ばし、具材を混ぜて焼き上げていた。
「……お、お嬢。あれ……めっちゃお好み焼きに似とるで!」
「おこのみ……やき?」
カイは興奮気味に屋台へ駆け寄った。
「おっちゃん! これひとつ!」
焼きあがったものを口に入れる。
外はこんがり、中はもちもち。
だが――ソースもキャベツもない。何か物足りない。
「惜しいっ! おっちゃん、これは改良の余地あるで!」
「か、改良?」屋台の親父はきょとんとする。
カイは袖をまくり、鉄板の前に立った。
「ワイに任せとき。こういうのは大阪人の魂や!」
持参していた香辛料と、屋台の材料を即席で組み合わせる。
生地に刻んだ野菜を混ぜ、肉を乗せ、両面を焼き上げて――最後に甘辛いタレを塗る。
「これや! これが真のお好み焼きや!」
ルーティアが興味津々で一口かじった。
「……っ! な、なんですのこれは……!?」
頬を赤らめ、目を輝かせて夢中で食べ進める。
「外は香ばしく、中はふわっとしていて……そしてこの甘いソースの香り! 旦那様! これは……革命ですわ!」
「革命大げさやろ! てかまた旦那様言うてるし!」
周囲の人々も次々と手を伸ばし、瞬く間に屋台の前は人だかりになった。
「うまい!」
「新しい味だ!」
「もっと食わせろ!」
屋台の親父は大慌てで叫ぶ。
「カイ先生! 作り方を教えてください!」
結局、カイはその場でレシピを説明することになった。
「粉と水を混ぜて、生地はとろっとや。野菜や肉を刻んで混ぜ込んで、両面焼いて、最後に甘辛ソースで仕上げ!」
「ソース? そんなものはないぞ!」
「ならば果実酒と醤を煮詰めてみ! 甘みと酸味でええ具合になる!」
親父が試してみると、確かに絶妙な味に仕上がった。
周囲からは歓声が上がる。
「カイ先生! これを“クロス焼き”と呼びましょう!」
「いや名前変えるな! お好み焼きや!」
その夜。
王都の人々はこぞって“お好み焼き”を食べ歩き、翌日には早くも別の屋台が真似して売り出していた。
「……流行ってもうた……!」
カイは頭を抱える。
ルーティアはにっこり笑い、腕に絡んできた。
「ふふっ、旦那様は王都でも名物を作ってしまいましたのね」
「いや勝手に広まっただけや!」
「いいえ。旦那様がいれば、きっとこの世界はもっと楽しくなりますわ」
花火のように賑わう王都の街を歩きながら、カイは大きくため息をついた。
(……ほんま、ワイは教師でええんか……? 異世界で、粉もん文化広めてどうすんねん)
けれど隣で満足そうに笑うルーティアを見れば、その答えを口にすることはできなかった。
金の封蝋に刻まれた紋章は、王都のもの。
「舞踏会……?」
ルーティアが手紙を開き、眉を上げる。
「そうですわ、王宮主催の舞踏会。……そしてここに書いてありますの。“カイ・クロス殿を伴い出席のこと”と」
「はぁ!? なんでワイが!」
カイは大声を上げた。
ルーティアは涼しい顔で肩をすくめる。
「当然でしょう? この夏、領地を救った英雄ですもの。しかも私の旦那様ですし」
「旦那様言うな! それに英雄なんて柄ちゃうわ!」
「……まぁ、呼ばれてしまったからには仕方ないでしょう? さぁ、旦那様。王都へお出かけですわ」
「奥様モードやめぇぇ!」
◆◇◆
かくして、数日後。
二人は王都の大通りに足を踏み入れた。
広々とした石畳の通りには、高級な衣装店や宝飾店が立ち並び、馬車や人波で賑わっている。
行き交う人々は、ひときわ目を引くルーティアの美貌に気づいて振り返り、その隣にいるカイを好奇心のこもった視線で見やった。
「うぅ……場違い感すごいなぁ」
「大丈夫ですわ、カイ。いえ、旦那様っていうか…旦那様?」
「二回言ったな!? 二回目のは確信犯やろ!」
まず向かったのは、仕立屋だった。
天井まで布地と衣装が並ぶ豪華な店内で、老齢の仕立師がカイを見るなり目を細める。
「ほほう……体格は悪くない。だが服が合っておらんのは罪ですぞ」
「罪て……」
測定が始まると、ルーティアは後ろからにやにやしながら観察する。
「ふふっ……カイ、少し緊張なさってます?」
「そら緊張するやろ! 手広げたまま動くな言われて固まっとるんや!」
採寸を終えた仕立師が断言する。
「王宮舞踏会用の燕尾服を誂えましょう。似合うはずです」
「似合う……旦那様、きっと素敵ですわ」
「また旦那様言うた!」
服の仕上がりは数日後とのこと。
帰り道、ルーティアとカイは王都の下町へと足を延ばした。
大通りから外れた先に、香ばしい匂いが漂ってくる。
「おや……これは」
カイの鼻がぴくりと動いた。
小さな屋台で鉄板に何かを焼いている。
粉を練って平たく伸ばし、具材を混ぜて焼き上げていた。
「……お、お嬢。あれ……めっちゃお好み焼きに似とるで!」
「おこのみ……やき?」
カイは興奮気味に屋台へ駆け寄った。
「おっちゃん! これひとつ!」
焼きあがったものを口に入れる。
外はこんがり、中はもちもち。
だが――ソースもキャベツもない。何か物足りない。
「惜しいっ! おっちゃん、これは改良の余地あるで!」
「か、改良?」屋台の親父はきょとんとする。
カイは袖をまくり、鉄板の前に立った。
「ワイに任せとき。こういうのは大阪人の魂や!」
持参していた香辛料と、屋台の材料を即席で組み合わせる。
生地に刻んだ野菜を混ぜ、肉を乗せ、両面を焼き上げて――最後に甘辛いタレを塗る。
「これや! これが真のお好み焼きや!」
ルーティアが興味津々で一口かじった。
「……っ! な、なんですのこれは……!?」
頬を赤らめ、目を輝かせて夢中で食べ進める。
「外は香ばしく、中はふわっとしていて……そしてこの甘いソースの香り! 旦那様! これは……革命ですわ!」
「革命大げさやろ! てかまた旦那様言うてるし!」
周囲の人々も次々と手を伸ばし、瞬く間に屋台の前は人だかりになった。
「うまい!」
「新しい味だ!」
「もっと食わせろ!」
屋台の親父は大慌てで叫ぶ。
「カイ先生! 作り方を教えてください!」
結局、カイはその場でレシピを説明することになった。
「粉と水を混ぜて、生地はとろっとや。野菜や肉を刻んで混ぜ込んで、両面焼いて、最後に甘辛ソースで仕上げ!」
「ソース? そんなものはないぞ!」
「ならば果実酒と醤を煮詰めてみ! 甘みと酸味でええ具合になる!」
親父が試してみると、確かに絶妙な味に仕上がった。
周囲からは歓声が上がる。
「カイ先生! これを“クロス焼き”と呼びましょう!」
「いや名前変えるな! お好み焼きや!」
その夜。
王都の人々はこぞって“お好み焼き”を食べ歩き、翌日には早くも別の屋台が真似して売り出していた。
「……流行ってもうた……!」
カイは頭を抱える。
ルーティアはにっこり笑い、腕に絡んできた。
「ふふっ、旦那様は王都でも名物を作ってしまいましたのね」
「いや勝手に広まっただけや!」
「いいえ。旦那様がいれば、きっとこの世界はもっと楽しくなりますわ」
花火のように賑わう王都の街を歩きながら、カイは大きくため息をついた。
(……ほんま、ワイは教師でええんか……? 異世界で、粉もん文化広めてどうすんねん)
けれど隣で満足そうに笑うルーティアを見れば、その答えを口にすることはできなかった。
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