悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

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第42話『花火の夜』【カイとルーティアの夏休み編⑪】

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 夕暮れの鐘が鳴る頃、公爵領の中心広場はざわめきに包まれていた。
 屋台がずらりと並び、色とりどりの提灯が吊り下げられて、夜の帳を待たずに光を放ち始める。
 焼き鳥の匂い、果実酒の香り、子どもたちのはしゃぐ声――。

 「なんや……これ、完全に夏祭りやんけ」
 カイは目を丸くし、周囲を見渡した。

 聞けば、領民たちが自発的に「婿殿先生に感謝を伝えたい」と準備した祭りだという。
 水路が開通し、畑が蘇り、笑顔を取り戻した人々が、一堂に会していたのだ。

 「婿殿先生だ!」
 「先生! こっちに!」
 「婿殿ーー!」

 「婿殿ちゃうって~!」
 開始早々、カイのツッコミが炸裂し、広場に笑いが広がる。

 そこへ、ひときわ大きな歓声があがった。
 「ルーティア様だ!」

 人々の視線が吸い寄せられた先に――紅と白の浴衣に身を包んだルーティアが立っていた。
 金色の髪をうなじでまとめ、簪がきらりと揺れる。
 普段はドレス姿で堂々とした彼女が、今夜は柔らかくも艶やかな雰囲気を纏っている。

 「か、カイ……どうです?」
 少し照れたように裾をつまんで見せるルーティア。

 カイは思わず口をぱくぱくさせた。
 「……似合いすぎやろ……」
 「まぁっ!」
 「って、つい口に出てもた!」

 ルーティアは顔を赤らめながらも、にっこりと笑った。
 「ありがとうございます、旦那様」
 「奥様モード禁止!」

◆◇◆

 二人は屋台を巡ることになった。
 果実飴の店では、ルーティアがカイに差し出す。
 「はい、あーん」
 「誰が人前であーんするか!」
 「いいえ、奥様の務めですわ」
 「それさっきも聞いたーー!」

 綿菓子を買えば、ルーティアは指先に付いた砂糖をぺろりと舐め、カイを直視。
 「……な、なんやその意味深な目は!」
 「別に? 旦那様も欲しいのかと思いまして」
 「ややこしいこと言うな!」

 領民たちはその様子を見て、笑いながら拍手を送る。
 「婿殿先生とルーティア様、まるで漫才!」
 「いや夫婦やろ!」
 「夫婦ちゃうわ!」

 夜が更けると、広場に人々が集まり始めた。
 空には星が散らばり、提灯の明かりが地上を淡く照らす。
 やがて、どこからともなく合図の太鼓が響き――。

 ドーンッ!

 夜空に大輪の花火が咲いた。
 赤、青、金、銀。
 次々と花開く光の雨に、子どもたちが歓声を上げ、大人たちも拍手を送る。

 「……すげぇな。異世界でも花火あるんか」
 「ええ、公爵家の領民たちが毎年作っているんですの」
 「領民が!? すごすぎやろ」

 ルーティアは花火を見上げながら、そっとカイの袖を掴んだ。
 「カイ……」
 「ん?」
 「こうして一緒に花火を見るの、ずっと夢でした」

 顔を横に向ければ、頬を赤らめたルーティアが、夜空を見上げている。
 光が彼女の瞳に映り、まるで星そのもののように煌めいていた。

 ――気づけば、彼女の手がカイの手を探し、指が絡む。

 「ちょ……お嬢?」
 「今だけは……奥様って呼んでくださらない?」
 「……」

 花火の音が心臓の鼓動をかき消す。
 カイはしばらく黙り込み、やがて小さく息を吐いた。

 「……しゃあないな。今だけやで。奥様」

 ルーティアはぱぁっと笑みを咲かせ、さらに手を強く握った。

 大輪の花火が夜空を染める。
 人々の歓声の中、二人の影は寄り添うように揺れていた。

 「……ホンマに、ワイはどこまで巻き込まれていくんやろなぁ」
 そう呟いたカイの声は、花火の轟きに紛れて、ルーティアの耳には届かなかった。
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