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番外編⑦:五寸釘零子、町内会に出る
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町内会というものは、
神社よりも、
よほど閉じた空間だ。
五寸釘零子は、
集会所の引き戸の前で、
一度だけ、立ち止まった。
(……結界、
強いですねぇ)
札も、
祝詞も、
張られていない。
だが、
人の気配が、
濃すぎる。
◆
「……あら、
神社の」
中に入ると、
すぐに声がかかった。
「若いのに、
ちゃんと出るのねぇ」
「はいぃ」
零子は、
曖昧に頷く。
長机が並び、
パイプ椅子が置かれている。
議題は、
回覧板、
清掃当番、
祭りの準備。
(……平和ですねぇ)
零子は、
そう思った。
だが。
その平和は、
薄い膜のようなものだ。
「……最近」
一人の女性が、
少し強めの声で言った。
「夜、
うるさくない?」
別の女性が、
すぐに応じる。
「分かる。
あそこの家でしょ」
(……あ)
零子は、
心の中で、
小さく息を吸った。
話題は、
すぐに具体的になる。
「ゴミ出しも、
ちゃんとしないし」
「子どもの声が、
夜遅くまで」
言葉は、
どれも正論だ。
だが、
重なり始めると、
形を持つ。
(……まだ、
手前)
(でも、
近いですねぇ)
零子は、
黙って聞いていた。
「……神社の人は、
どう思う?」
不意に、
視線が集まる。
「……え?」
「ほら、
ああいうの、
分かるでしょ」
「何か、
よくない感じとか」
(……来ましたかぁ)
零子は、
少しだけ、
首を傾げた。
「……普通ですよぉ」
「え?」
「……普通に、
大変そうだなぁ、
って」
空気が、
一瞬だけ、
止まる。
「……でも」
零子は、
続けた。
「ここで話しても、
何も、
変わらないですぅ」
誰かが、
苦笑した。
「……それは、
そうだけど」
「……直接、
言いますかぁ」
零子は、
ぽつりと付け足す。
「言わないなら、
今日は、
これで終わりに
しましょう」
ざわりと、
空気が揺れる。
誰も、
「言う」とは言わない。
(……ですねぇ)
結局、
話題は、
別のことに移った。
だが、
零子には分かる。
今のやり取りで、
呪いは、
一歩、
遠のいた。
◆
集会が終わる。
「……お疲れさま」
声をかけられる。
「神社の人って、
もっと怖いかと思ってた」
「……よく、
言われますぅ」
外に出ると、
夜風が、
心地よかった。
(……町内会、
侮れませんねぇ)
神社へ戻る道。
零子は、
ふと、
立ち止まった。
(……あの家)
町内会で話題になった、
その家。
灯りが、
まだついている。
(……大丈夫)
(今日は、
打たれません)
神社に戻り、
境内を見回す。
藁人形の森は、
静かだ。
(……町内会も、
呪いの入口、
なんですねぇ)
だが、
入口で止まれば、
中には入らない。
零子は、
白装束の袖を整え、
小さく息を吐いた。
◆
「……今日も、
受け入れませんでしたぁ」
それでいい。
呪いは、
特別な場所で、
生まれるわけじゃない。
日常の中で、
静かに、
芽を出す。
だからこそ。
今日みたいな日が、
一番、
大切なのだ。
神社よりも、
よほど閉じた空間だ。
五寸釘零子は、
集会所の引き戸の前で、
一度だけ、立ち止まった。
(……結界、
強いですねぇ)
札も、
祝詞も、
張られていない。
だが、
人の気配が、
濃すぎる。
◆
「……あら、
神社の」
中に入ると、
すぐに声がかかった。
「若いのに、
ちゃんと出るのねぇ」
「はいぃ」
零子は、
曖昧に頷く。
長机が並び、
パイプ椅子が置かれている。
議題は、
回覧板、
清掃当番、
祭りの準備。
(……平和ですねぇ)
零子は、
そう思った。
だが。
その平和は、
薄い膜のようなものだ。
「……最近」
一人の女性が、
少し強めの声で言った。
「夜、
うるさくない?」
別の女性が、
すぐに応じる。
「分かる。
あそこの家でしょ」
(……あ)
零子は、
心の中で、
小さく息を吸った。
話題は、
すぐに具体的になる。
「ゴミ出しも、
ちゃんとしないし」
「子どもの声が、
夜遅くまで」
言葉は、
どれも正論だ。
だが、
重なり始めると、
形を持つ。
(……まだ、
手前)
(でも、
近いですねぇ)
零子は、
黙って聞いていた。
「……神社の人は、
どう思う?」
不意に、
視線が集まる。
「……え?」
「ほら、
ああいうの、
分かるでしょ」
「何か、
よくない感じとか」
(……来ましたかぁ)
零子は、
少しだけ、
首を傾げた。
「……普通ですよぉ」
「え?」
「……普通に、
大変そうだなぁ、
って」
空気が、
一瞬だけ、
止まる。
「……でも」
零子は、
続けた。
「ここで話しても、
何も、
変わらないですぅ」
誰かが、
苦笑した。
「……それは、
そうだけど」
「……直接、
言いますかぁ」
零子は、
ぽつりと付け足す。
「言わないなら、
今日は、
これで終わりに
しましょう」
ざわりと、
空気が揺れる。
誰も、
「言う」とは言わない。
(……ですねぇ)
結局、
話題は、
別のことに移った。
だが、
零子には分かる。
今のやり取りで、
呪いは、
一歩、
遠のいた。
◆
集会が終わる。
「……お疲れさま」
声をかけられる。
「神社の人って、
もっと怖いかと思ってた」
「……よく、
言われますぅ」
外に出ると、
夜風が、
心地よかった。
(……町内会、
侮れませんねぇ)
神社へ戻る道。
零子は、
ふと、
立ち止まった。
(……あの家)
町内会で話題になった、
その家。
灯りが、
まだついている。
(……大丈夫)
(今日は、
打たれません)
神社に戻り、
境内を見回す。
藁人形の森は、
静かだ。
(……町内会も、
呪いの入口、
なんですねぇ)
だが、
入口で止まれば、
中には入らない。
零子は、
白装束の袖を整え、
小さく息を吐いた。
◆
「……今日も、
受け入れませんでしたぁ」
それでいい。
呪いは、
特別な場所で、
生まれるわけじゃない。
日常の中で、
静かに、
芽を出す。
だからこそ。
今日みたいな日が、
一番、
大切なのだ。
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